カラミティ

帰りながらぐうっと背伸びをする。
理「あー、やっと明日が日曜日か」
菜「そうね、でもちゃんと受験勉強もしないと」
理「午後からだろ?午前中はさすがに息抜きしたいよな。菜奈は何か予定無いのか?」
菜「んー…特に無いかな」
ふと、菜奈と恋人になってからの休日の過ごし方を思い出した。
そういえば菜奈と一緒にデートをした事が無い。
……午前中だけでもしたい。
理「な、なあ菜奈」
菜「なあに?」
理「あーっと……その…さ」
デートという言葉がなかなか出ない。
まさかこの言葉を口にする時が今とは思わなかった。
菜「うん?」
理「で、デートしないか?」
菜「えっ!?」
デートの誘いがあるとは思っていなかったようだ。
理「い、いやほら、付き合ってからまだしてねえし、それに午前中だけだけどデートしたいなと思ったんだが…ダメか?」
菜「う、ううん。私もしたい」
理「じゃ、じゃあ明日の午前だけだけどデートってことで」
菜「うんっ」

翌日。
そういえば待ち合わせ場所を決めていなかった。
が、菜奈の家はうちから2件隣。
直接家にいけばいい。
街中で待ち合わせをする必要は全くない。

理「えっ、風邪!?」
菜奈の母親からとんでもない事を聞いた。
となると、今日のデートは中止。
さて、どうするか。
理「んー……菜奈の部屋に行ってもいいですか?」

菜奈の部屋のドアの前に立つ。
デートの予定がなくなったので自由行動。
当然お見舞いに行くわけで。
理「菜奈、開けるぞ」
返事がない。
寝てるのだろうか。
………は、裸はないよな、多分。
おそるおそるドアを開ける。
部屋の中を見回すと、菜奈の姿は無い。
ベッドの方を見ると、少しもこっとしている。
やはり寝ているか。
机の椅子を引っぱり出し、ベッドの横に配置する。
椅子に座り、菜奈の寝顔を見る。
少し苦しそうな顔をしている。
性質の悪い風邪なのだろう。
もし軽し風邪だったら連絡が来るはず。
ふと、菜奈の額から耳へと汗が流れ落ちるのを見た。
……拭いてあげたほうがいいよな。
すぐそばにタオルがあったのでタオルを手にし、菜奈の頬をポンポンと当てる。
菜「ん…………」
タオルの刺激で目が覚めたようだ。
菜「ん……」
菜奈の目が開く。
菜「………」
理「おっ、起きたか」
菜「えっ!?」
菜奈ががばっと起き上がる。
菜「えっ!?なっ、何で理央がいるの!?」
髪を整えたり着ているパジャマを直したりとわたわたする菜奈。
理「ん、お見舞いだ。ほれ、とっとと寝てろ」
菜「う、うん」
再び菜奈を寝かせた。
理「どうだ、具合は?」
菜「ちょっとまだ良くないかな…」
理「そっか、まあ酷くなくて良かったよ」
菜「…………」
菜奈の目からつうっと涙がこぼれる。
風邪でデートをつぶしてしまった事に泣いているのだろうか。
理「…泣くなって」
タオルで涙を拭う。
理「デートはもうできないわけじゃねえだろ。また来週行けばいいさ」
菜「……ごめんね」
理「気にすんな。行けなかった分を今度のデートで晴らせばいいさ」

翌日。
夕方。
理「うー………」
ベッドで寝込む俺。
まさかの風邪。
……菜奈の風邪が移ったのだろうか。
ピピッ。
体温計の検温完了の音がした。
脇から体温計を取り出し、体温を見た。
理「げっ」
38度3分。
見事に高熱だ。
……移ったな、こりゃ。
ピンポーンと家のチャイムが鳴る。
母が応対しているようだ。
………まさかな。
数秒後、階段を上る音がする。
……その、まさか、か?
自分の部屋のドアが開く。
菜「理央、具合はどう?」
理「な、なんで菜奈が来るんだ?」
菜「え、だって心配だもん」
どうやら菜奈が俺に風邪を移した事を自覚しているようだ。
菜奈が近くに来る。
というより、眼前にまで近づいてきた。
菜「理央……」
菜奈の瞳が潤んでいるように見える。
理「ば、馬鹿…風邪移るぞ」
菜「……いいよ……理央のなら」
ものすごい物騒な一言。
菜「早く元気になって……ね」
ちゅっ
唇にキス。
理「!!!!」
菜「じゃ…じゃあね」
そう言って菜奈は部屋を出て行った。
………なんかさっきより酷くなった気がする。
念のためもう一度測ってみた。
38度9分。
理「……あ、あいつ疫病神か……」
お見舞いに来たんだかトドメを刺しに来たのかわからなくなってきた。

後書き

時々病気ネタが使われるのは作者が幼少時風邪を引きやすかったからです。
今では年に1回軽い風邪を引く程度です。
一度風邪を引くと健康な時の幸せを痛感するんですよね。
そういう事を忘れないようにこの病気ネタを書いているのかもしれません。
それでは次回にて。