菜「んー…………」
朝食を食べ終え、一緒に歯磨きをしている菜奈を見る。
眠そうだ。
理「何だ、寝れなかったのか?」
布団が変わると眠れないタイプだっただろうか。
ちなみに自分はすぐに寝れる。
菜「そ…それは昨日………変な事しちゃったし…」
昨夜の日焼けストリップショーを思い出す。
理「う…あ……ごめん」
自分が謝る必要はないのだが無意識に謝ってしまった。
昨日と同様に海に来た。
一泊二日の為、今日で帰る予定になっている。
午後3時頃まで海で遊んで電車で帰宅というスケジュールが決まっている。
なお、本日の菜奈の水着は去年のプールで着ていた白をベースとしたピンク柄のビキニ。
ビニールシートを敷いて席を確保。
理「今日はどうすんだ?」
二日連続で日焼けをする事はあるまい。
まさか昔の時代に遡ってガングロになる気はないはず。
理「うーん……特に決めてないけど普通に海で遊びたいかな」
泳ぐというわけでもなく、スポーツ的な事をする気もないようだ。
まあ二人だけだし行動が限定されるか。
菜「理央はどうするの?また泳ぐ?」
昨日の離岸流の恐怖を思い出す。
理「……当分泳ぎたくないな」
菜「?」
とりあえず何をしようか決める為に海の家に入った。
砂浜で遊べそうな道具を探す。
最初に目に入ったのは釣り道具一式。
理「釣りか…」
釣れるのだろうか。
まあテレビでも砂浜で釣りをしているのを何度か見た事がある。
菜「やってみたいの?」
理「うーん、試しにやってみるかな」
そこそこ時間もあるので丁度いいかもしれない。
理「菜奈も釣りやんのか?」
菜「…私はいいかな」
理「そんじゃどうする?」
菜「私は……アレがいい」
菜奈が指した方向にはシュノーケルがあった。
理「あー、海中を見るやつか」
菜「昨日は泳いでないからちょっと泳ごうかな」
お互いやる事は決まった。
レンタル時間は1時間。
1時間程経過したら合流して昼食を取る事にした。
理「あまり変な所に行ったりすんなよ」
菜「うん。気をつけるね」
菜奈は岩のある方に向かった。
ああいう所に魚が干潮で取り残されるので見やすい。
海の家の店員のアドバイスを参考にして菜奈はそちらに向かった。
理「よし、俺も釣るとすっか」
針に餌をつけ、ぶんっと竿を振って出来る限り遠くへと投げた。
うわー、たくさんいる。
シュノーケルをつけて海の中を覗いて初めての感想がコレだった。
こうやって魚を間近で見るのは久しぶりな気がする。
去年もプールに行ったけどプールと海は別物だ。
今度は水族館に行ってみようかな。
まだまだ休みはたくさんある。
貴重な休みを精一杯楽しみたい。
海から上がり、岩の上で座って少し休憩。
波の音が心地良い。
少し泳いだためか、ちょっとだけ疲労感と空腹感を感じた。
お昼御飯を食べたら何をしよう。
そう考えていると、声がした。
理央の声ではない。
けれど、その声の方向は自分に向かっている。
なんとなく、その声の方を向いた。
声のした方向には男の人がいた。
年齢はぱっと見て自分より4、5歳上ぐらい。
男性は私の方へと近づいてくる。
向こうの方に用があるのだろう。
また海の方へ顔を向けた。
男「あれ、彼女、聞こえなかった?」
菜「え?」
男の声に反応してそっちを向いた。
菜「もしかして、私?」
男「そうそう。ココって誰もいないし」
……私に声をかけるって珍しい。
何の用だろう?
菜「何です?」
男「今ひとりなの?」
今の言い方で分かった。
ナンパだ。
ナンパをされるのは初めてだ。
…といっても断るしかないけど。
菜「いーえー、彼氏待ちです」
こういえば帰るだろう。
男「またまたー、全然いないじゃん」
男は食い下がる。
そういえば大学に入って新しくできた友達が『ナンパがしつこくて困った』なんて言ってたけどこういう状態なのだろう。
……理央がいれば素直に引き下がるのだけれど。
とぼとぼと菜奈がいるであろう岩のある方へと歩く。
理「結局ボウズか……」
自分には釣りの才能が無いのだろうか。
釣り具を返却するには早いのだが、釣れなければ意味は無い。
菜奈と話をしていたほうが有意義だ。
理「えーっと、菜奈は……」
辺りを見回すと、大きめの岩の上に菜奈は座っていた。
おっ、いたいた。
ふと、菜奈の傍にいる男を見つけた。
………誰だ、あれ?
菜奈と話をしているようだが…。
パッと見て年上のチャラそうな感じだからクラスメートというわけでもない。
……………………ナンパか?
こんな地元にもいるもんだな。
まあ菜奈をターゲットにした事は評価しよう。
んー、どうやっておっぱらうか…。
………シンプルにいくか。
男の近くまで行き、声をかけた。
理「おい、俺の女に何か用か?」
菜「あれ?理央、釣りは終わったの?」
理「ああ、全然釣れなくてな」
こちらのやり取りで関係を理解した男は舌打ちして、
男「何だよ、ホントにいたのか、じゃあな」
すごすごと男は去っていった。
理「菜奈、なんともなかったか?」
菜「え?何が?」
菜奈はけろっとしている。
ナンパされた事に何の危機感もないようだ。
………良く考えてみると一昨年に通り魔に襲われた事があったもんな。
あの時に比べればナンパなんて飯事レベルか。
…まあ俺も通り魔に飛び蹴りかましたし、お互い肝が据わったな。
その後は菜奈がどんな魚を見つけたか聞き、返却時間になったところで一緒に海の家に行った。
そのまま早めの昼食を取って休憩した後、再び海で遊んだ。
携帯の画面を見ると、2時59分から3時へと変わる瞬間を見た。
終わりの時間だ。
理「帰宅の時間だな」
菜「じゃあ、民宿に戻ろっか」
その後はスムーズで、民宿で荷物を引き取り、電車に乗った。
ガタン、ガタンと電車が揺れる。
あと30分くらいで到着する。
理央は隣で寝ている。
遊び疲れたのかな。
あと2駅くらいになったら起こそう。
………それにしても……。
ナンパしてきた男の人にすごい事を言ったのを覚えている。
『おい、俺の女に何か用か?』
俺の女って…………。
あの時は平静を装ったけど、内心はすごくドキドキした。
もしかして私、理央のモノにされたいのかな…。
……で、でもある意味もうそんな感じにされちゃってるし……。
考えれば考える程躰が熱くなる。
……………や、やめよ。
向かいの窓を見ると、太陽が『夕陽』のように赤くなりつつあった。
今度は理央とどこへ行こう。
今日より楽しい所がいいな。