夏休み。
受験生にとっては勝負所と言える。
この時期の勉強は約半年後の大学受験に影響がある。
菜「んもーっ、なんで理央の部屋ってエアコンないのよ」
菜奈は文句を言いながら勉強中。
時折汗をタオルで拭うが、また汗がじんわりと出てくる。
勉強、タオル、勉強、タオル…と繰り返している。
理「扇風機あるからまだいいだろ」
勿論自分も勉強中。
扇風機が微妙な音をしながら風をこちらへ送る。
この扇風機はずいぶん前からある。
ここ最近になって怪しい挙動が出てきているから、買い替え時なのかもしれない。
BGM代わりに聞いているラジオからプールのCMが流れる。
プールか。
菜「ダメ」
理「…声に出てたか?」
菜「ううん、女の勘」
女の勘はすごいですなあ。
………菜奈の顔、辛そうだな。
受験勉強のストレスもあるが、一番のストレスはこの暑さだ。
今年は異常としか思えないぐらい暑い。
プスン。
妙な音がした。
扇風機の方を見ると、扇風機の羽の回転が遅くなっていた。
そして止まる。
………壊れたか。
………………。
理「……菜奈、プール行こうか」
菜「……………………………うん」
…心が折れる瞬間を見た。
プールは午後にという事で早々に受験勉強は終わりにした。
場所はもちろん先程ラジオで流れていたプール。
場所もそんなに遠くないし、今日は平日だからそこそこすいてるはず。
ちょうど今なら入場料が半額という情報も流れていたからだ。
水着はお互いに買っていたので準備万端だった。
……やっぱり菜奈も泳ぎたかったのか。
バスから降り、しばらく歩くとプール場らしきものが見えた。
理「お、アレじゃねえか?」
菜「うん、きっとそうだね」
菜奈が駆け足でプール場に向かう。
菜「理央ー、早く早く」
理「急いでもプールは逃げないだろ」
珍しく菜奈がはしゃいでいる。
…よっぽど行きたかったんだな。
誘って良かった。
お互い水着に着替えるため、別れる事にした。
合流場所はメインの大プール。
バミューダタイプの海パンに着替えつつ、考えた。
菜奈の水着はどんなのだろうか。
ウチの学校にはプール施設が存在しないので学校指定の水着そのものが存在しない。
つまりまあ競泳水着みたいなのもないわけで。
となると、菜奈は一体どんな水着を着てくるのか?
……さすがにハイレグとかTバッグはないよな。
………………着てきたら拝もう、マジで。
集合場所の大プールの入口に来たが、菜奈の姿はない。
着替えに時間がかかっているのだろうか。
男と違って色々と大変だからしょうがないか。
そんな事を考えていると、声がした。
菜「理央、お待たせ」
理「ああ…あっ……」
菜奈の方を向くと、ドキッとした。
いわゆるビキニタイプの水着で、色は白をベースとしたピンクの花柄がアクセントになっていた。
また、胸元に白のリボンが付いていてかわいさが強調されている。
下の方もフリルのついたスカートがついて可愛い。
水着もいいが、それよりときめいたのは菜奈の身体。
ちょっとぐらいぽっちゃりしていると思ったが、そんな事は無かった。
きゅっとくびれのある腰。
ちょっと小さめの胸。
自分好みのプロポーションだ。
菜「…ジ、ジロジロ見ないでよ…」
菜奈は顔を赤くして水着を手で隠す。
理「あ、わ、悪い」
一方、菜奈の方はというと。
……それにしても…。
どこかぷにっとしてる所があるだろうと思っていたが、そんな事は無かった。
よく考えたら理央は陸上部の選手に勝てるぐらいの足が速い。
それなら贅肉とかほとんど無いのも納得がいく。
よく見るとお腹もちょっと割れてる…。
ちょっと筋肉質な身体。
…私の好きなタイプの身体。
理「ん、どした?」
菜「う、ううん、なんでもない」
ずっと見てたらアブナイよね。
すでに準備運動は済ましているので早速入る。
プールの水がひんやりとして気持ちいい。
理「あー、やっぱプールに入ると夏休みが来たって実感するな」
菜奈もプールに入り、気持ちのよさそうな顔をしている。
菜「そうだね、一学期の時はそんな時間無かったし」
理「よしっ、今日は思い切り楽しむか!」
菜「うんっ」
菜「理央、今度はウォータースライダー行ってみようよ」
入口から見えたあの大型のやつか。
理「ああ、行ってみるか」
そんなに混んではいなかったのですぐに順番が回ってきた。
とりあえずスライダーのスタート地点に座る。
理「どうする?2人いっぺんにいけるみたいだけど」
菜「……じゃあ、一緒に」
一緒に行くのはわかったがどういう体勢になるのかわからなかった。
菜「えいっ」
ぴとっ。
ふにっ。
理「っ!」
菜奈の腕が首元に絡み、身体が密着する。
菜奈の体温が直に伝わってくる。
というか背中に菜奈の柔らかいのが…。
結局、ウォータースライダーの感想よりも菜奈の身体の柔らかさの感想の方がベラベラ喋れそうだった。
プールから帰り、自宅近くに着くころには辺りは夕暮れを迎えていた。
菜「あー、楽しかったね」
理「ん、そうだな」
菜奈がニコニコと楽しそうな顔をしている。
理「……ははっ」
思わず笑ってしまった。
菜「何よ、人の顔見て笑うってー」
理「んー、午前中のお前の顔とエライ違うからさ」
菜「えっ?」
理「勉強中の菜奈の顔、すごい辛そうだったからさ」
菜「……」
理「勉強も大事だけどさ、それで身体悪くしちまったら本末転倒だろ?」
菜「…うん……そうだね…」
菜奈も思い当たる節があるようだ。
理「今日みたいにさ、思いっきり遊んでから思いっきり勉強するのがいいんじゃないか?」
それが一番いいと思う。
菜「うん」
家が見えてきた。
理「さて、また明日から思いっきり勉強だな」
菜「……ね、ねえ…理央」
理「ん?」
菜「そ…その…………」
理「何だ?」
菜「…………キス…………してほしいな…」
理「えっ!?」
予想外の言葉だった。
菜「だっ…だって…最近してないし…………明日から頑張るから……ね…」
色々と理由をつけてはいるが、一言でまとめると、おねだり。
…断る理由なんかないよな。
理「…」
菜奈の肩に手を添える。
菜「あ…」
菜奈ははにかみながら、笑顔をこちらに向ける。
そして、目を閉じた。
理「……」
何も言わずにキスをした。
言葉にしなくても、キスで伝わる。
そういうものがきっとあると思うから。