長い一日B

午後8時。
そろそろか。
ベッドから起き上がり、着替えを持って両親に一言伝えて家を出る。
菜奈の家を見る。
何百何千と見た家なのに今だけは違う家に見える。
玄関の前に立ち、ドアホンを押す。
そのまま戸を開けて『おーい菜奈、入るぞ』と言ってもいいのだろうが、それをしてしまうと台無しになってしまうかもしれない。
『はーい』という声がした。
多分、というか確実に菜奈だ。
戸を開ける。
その行動を予測していなかったのか、菜奈はびっくりしたような顔をした。
理「ん…あ……その……来たぞ」
頭をバリバリとかきつつ、約束のために来た事を伝える。
菜「う……うん……と、とりあえず居間にいて」
理「ん…………か、鍵かけるぞ」
もう誰も来ないのだから開けておく必要は無いだろう。
菜「う、うん」
菜奈もそれを理解したのだろう。
ガチャッ!
理「!」
菜「!」
自分も菜奈も反応してしまった。
静かに鍵をかけようとしたが逆に大きくなってしまった。
なんでこういう時に。
とりあえず鍵はかかったしいいといえばいいが。
理「んじゃ、い、い、居間にいるから」
菜「ん、う、うん」
居間でコタツに入りつつテレビを見る。
……………………落ち着かない。
何もする事ができない。
見えない鎖に縛られているようだ。

夕食に使ったフライパンや食器を洗い終える。
………どうしよう。
やる事がなくなった。
寝るにしてもベッドだから平……
ベッド……。
一気に顔が熱くなる。
まだなのに。
時間が経つ毎に落ち着きがなくなってくる。
お、お風呂に入ろう。
…い、一応理央に言っとかないと。
居間を覗くと理央はテレビを見ていた。
……なんとなく、理央も落ち着かないように見える。
菜「り、理央」
理「うおっ!な、何だ!?」
私からの呼びかけが意外だったのか、ものすごくびっくりしている。
菜「えっと…その…お、お風呂入るから…」
理「わ、わかった」
菜「お、親いないからシャワーになるから」
理「お、おう」
親がいないから。
その事実をお互いが再認識するような言葉だった。

菜奈が風呂に入る。
カウントダウンはすでに始まっているはずなのに、本当にこれから始まるように感じる。
自分も風呂に入っていないから、菜奈が出た後に入る事になる。
当たり前の行動が妙におかしく感じる。
菜「で…出たよ」
理「えっ!?」
もう出たのか。
確かにシャワーなら早いのだが。
ひょっとしたら自分が時間を忘れるぐらい考えていたのかもしれない。
菜奈はパジャマに着替え、髪はリボンを外してストレートになっている。
髪型ががらりと変わったためか、いつも元気な菜奈がか弱く見える。
理「じゃ、じゃ、じゃあ俺も入るよ」

菜「う、うん」
理央もお風呂に入るようだ。
当たり前の事なのに大袈裟に感じる。
菜「……ま……待ってる…から」
理「!」
意思表示を示したかっただけなのに、大胆な言葉に聞こえたかもしれない。
理「う…あ……わ…うん」
理央ももう返事が出来なかった。
そのまま階段を上がり、自分の部屋に向かった。
ドアを開けて、ベッドに腰を落とす。
枕元にいつも置いてあるクリスマスプレゼントでもらった熊のぬいぐるみを抱くように持つ。
…もうすぐ始まる。
菜「ど…どうしよう」
迷っているわけではない。
それなりに心の準備もできている。
なのに、心が落ち着かない。

ギシッ

来た。
理央の足音。
そわそわしている間に時間が経っちゃった。
ギシッ
階段を上ってきている。
近づいてきてる。
階段を上がりきり、こちらの部屋に来る。
ドアの前まで来た。
ドアノブがぐるりと回りだす。
そして、ドアが開いた。

後書き

てなわけで次回に続きます(笑)。
AとBは基本的にそわそわしっぱなしな心境を書きたかったのです。
実際は……どうなんでしょうね(笑)。
まあ男の方はそわそわというよりワクワクしているのかもしれませんが。
それでは次回にて。