レイン

授業が終わり、
菜「理央、一緒に帰ろ」
理「おう」
下駄箱から靴を取り出し、校門へ出ようとすると…、
ポタッ。
頭に何かが当たった。
空を見上げると、雨粒が降り始めたのが見える。
理「また雨か…」
菜「……」
菜奈は鞄から傘を取り出す。
理「おっ、傘用意してたのか」
菜「もう梅雨なんだから逆に用意してないとおかしいでしょ。そ、それに…」
理「…それに?」
菜「…あ、あんな事が毎回あったら大変だもん」
菜奈は顔を赤くしながら言った。
あの事とは多分電話ボックスの出来事だろう。
理「う…そ、そうか…」
確かにアレが毎回続いたら受験勉強どころではなくなる。
菜「理央は傘持ってきたの?」
理「……ない」
菜「んもー、ちゃんと用意しておきなさいよ」
理「テレビで晴れって言ってたから必要ねえと思っちまったんだよ」
菜「梅雨の時の天気予報はあてにならないのよ。しょうがないから、一緒に入ろ」
理「えっ」
つまり、相合傘。
理「い、いいのか?」
菜「このままじゃ理央が濡れちゃうし……一度やりたかったもん…」
男には『彼女ができたらやってもらいたい事ランキング』があるのだから、女にも『彼氏ができたらやりたい事ランキング』が存在する。
理「ん、そ、そうか」
傘は身長の高い理央が持つ事になり、相合傘で帰る事に。

これまでに何度も通った同じ道だが、妙な感覚。
これが『彼女と一緒に帰る』という事なのだろう。
菜奈の方を見ると、菜奈の右肩が雨で濡れていた。
傘が少し小さいため、はみ出てしまった。
理「……菜奈、もうちょいこっち寄れ、濡れてるから」
菜「えっ?でももうこれ以上は…」
理「んー…その……う、腕組むとかさ」
菜「えっ!?」
菜奈が顔を赤くして驚く。
電話ボックスの中であんな事をしたのだから簡単だと思ったが、電話ボックスと路上では違うようだ。
菜「う……うで……」
真っ赤になっている菜奈を見ているとどういうわけかこっちまで赤くなる。
理「は、恥ずかしいなら俺が傘を菜奈優先にすればいいからさ」
菜奈を濡らさない方法は一つだけではない。
家までもう半分の距離もないぐらいだ。
ちょっとぐらい自分が濡れても問題は無い。
菜「………」
菜奈の返事は無い。
が、電話ボックスの時と同様に行動で返事をした。
きゅっ。
理「あっ…」
傘を持っている右腕に、菜奈の左手が植物のツタのように巻くように組まれた。
そして、袖のところを人差し指と親指でつまむように持つ。
菜「だ、だめ?」
菜奈は顔を赤くしながらたずねてくる。
理「い、いや」
これでダメだと何もない。
お互い顔を赤くしながら家へと歩いた。

翌日の放課後。
ぽたっ。
頭に雨粒が落ちる。
理「なんだ、またか…」
梅雨は一日限りではない。
毎日が雨と考えてもいいぐらいの時期なのだ。
鞄から折りたたみ傘を取り出す。
菜「あっ、今日は持ってきてるんだ」
理「まあ天気予報でも雨が降るって言ってたしな」
菜「………………あっ、傘友達に貸しちゃったから一緒に入ってもいい?」
理「なんだよ、ずいぶんドジな女子だな」
菜「ま、まあいいじゃない」
理「ほれ入れ」
菜「うんっ」
本当は鞄に入ってた傘がコトコトと音を立てていた。
しかし、その音は雨にかき消されていった。

菜「こういう時は、梅雨に感謝…かな」
理「ん、何か言ったか?」
菜「う、ううん、何でもない」

後書き

ちょうどこれ書いてる時が梅雨でした。
ごく稀に作品中の時期と現実の時期が重なる時があります。
不思議な気分を味わえるのですが『まあこれ掲載される時は時期外れになるけどな』というツッコミが即座にやってきます(笑)。
基本的に掲載されるのはGW、夏コミ過ぎ、年末年始の三か所しかないのでイベント要素はほぼ無いんですけども…。
まあ今に始まった事ではないので『まあいいか』という結論に達してます(笑)。
それでは次回にて。
今回のコラムはこちらっ