菜「理央!何よこの写真!」
理「は?何だ一体」
菜「どういう事か説明してよ!」
菜奈はどういうわけか激怒して、携帯電話を突き出す。
激怒の理由は携帯電話で撮った写真のようだ。
携帯電話の画面にはすでにその写真が出ていた。
写真には自分とクラスメイトの河本知美と仲良さそうに一緒に写っているものだった。
撮影された距離から推測すると『自分撮り』ではなく『誰かが撮った』という類に近いか。
河本知美と一緒にいる………。
という事は『あの日』か。
……じゃあ、『アレ』もバレてるのか。
理「なんだ、こんな早くバレるとは思わなかったな」
ところが、俺の言葉を聞いた途端、激怒の顔をしていた菜奈の顔が豹変する。
驚きの顔を見せた瞬間、一気に泣き顔に変わる。
……マズイ!菜奈のやつ浮気と勘違いしている!
説明しようと思ったがすでに遅かった。
菜「うわあああーっん!りおのばかああーっ!」
理「ちっ、ちげーよ!そうじゃねえって!」
5日前。
ぱんっ、と河本知美の前で手を合わせる。
理「頼むっ、菜奈のクリスマスプレゼント買うの手伝ってくれ!」
菜奈へプレゼントを贈ろうと考えたが、よく考えると菜奈の好みがよくわからない。
指輪だのペンダントだのアクセの類は高いので経済的に無理。
となると庶民的なモノがいい。
しかし女子の好みとなると見当がつかない。
そこで、一番菜奈と親しい女子である河本知美に協力をお願いした。
知「へー、理央も男らしいとこあるじゃん」
理「当たり前だ。初めてできた彼女だし。クリスマスだし」
知「いいわよ、た・だ・し……」
理「昼メシ奢れってか?」
知「おっ、鋭いわね」
理「ただしファミレスな。街中にある安いトコな」
知「オッケー、それじゃ明後日の日曜日ね」
理「あいよ」
2日後。
約束の時間より10分程早く到着し、少し待っていると、河本知美が来た。
知「よっ、お待たせ!」
理「うしっ、早速案内よろしく」
知「ところで、予算はどうなってんの?」
理「……………こんなんです」
財布の中を見せる。
知「…もうちょっと奮発しなさいよ」
プレゼントを買うには少々厳しいようだ。
理「お前の昼飯代を減らせば奮発できるけどな」
知「よしっ、その予算でなんとかいいやつ探してやるわよ!」
さすがに昼飯代がかかるとこの『アメ車』はやる気を出す。
街中をかなり探すものの、なかなか見つからない。
理「うーん……厳しいな」
知「せめてもう2、3千円あればいいんだけどね」
理「貧乏学生に無茶言うなよ」
知「うーん……お手頃で菜奈が喜ぶやつ……ん?」
河本知美の足が止まる。
理「どした?」
知「ほら、あれ」
河本知美が指を指した方向には熊のぬいぐるみがあった。
理「あのぬいぐるみがどうした?」
何の変哲もない熊のぬいぐるみだ。
知「一か月くらい前だったかな、菜奈とこの辺歩いてたのよ」
一か月前。
菜奈に買物に付き合って欲しいと頼まれたので一緒に街中に行く事に。
菜「ごめんね、買物に付き合ってもらって」
知「いいのよ、どーせヒマだったし」
菜「せっかくだから何か奢るね」
知「いいの?そんじゃゴチになります」
菜「ハンバーガー1個だけね」
知「えー、菜奈のけちんぼー」
菜「知美が食べ過ぎ……あれ?」
菜奈の足が止まる。
知「どしたの?」
菜「うん、あの熊のぬいぐるみ、かわいいなあって」
知「……欲しいの?」
菜「うーん、欲しいといえば欲しいけど……」
知「てな事があったのよ」
理「…………」
熊のぬいぐるみの値札を見る。
予算をちょっとオーバーしているがなんとかなりそうだ。
理「よし、これにするか」
知「あんた決めるの早いわね」
理「気になるモノなら比較的喜ぶだろうしな」
これで菜奈へのクリスマスプレゼントは決まった。
携帯の時間を確認すると、ちょうど昼飯時だ。
理「そんじゃ、昼メシにしようぜ」
知「よっ、待ってました!」
理「お前………容赦ねえな」
3人前はあろうかという料理という料理をあっというまにたいらげた。
さすが『アメ車』の異名を誇るだけの事はある。
知「まあこれで腹半分ってとこね」
理「お前フードファイターにでもなったらどうだ?」
知「さすがに無理よ。テレビで活躍してる人なんてあたしからしたら化物みたいなものよ」
こういう世界にも格付けみたいなものは存在するのか。
ファミレスから出て、河本知美はぐうっと背伸びをする。
知「そんじゃ今度はあたしの買物に付き合ってよ」
理「いいけど何買うんだ?」
知「下着」
理「お前それセクハラだぞ」
知「やーね、冗談よ」
理「お前の冗談はシャレになんねえんだよ」
同時刻、ほんの数十メートル離れた場所。
理央達のクラスメイトの男2人が街へ遊びに来ていた。
男子1「あー、ゲーセンにでも行くか?」
男子2「おお、そうすっ……ん…おいあれ」
男子1「おっ、理央と河本じゃん」
男子2「あれ、理央は小泉とくっついてんじゃないのか?」
男子1「たまたま会っただけじゃねえの?」
男子2「でもでかい荷物持って楽しく話してるぞ」
男子1「もしや……浮気の現場を見ちまったのか俺ら?」
男子2「とりあえず真偽をはっきりさせたいから写メっとこうぜ」
ピローン。
そして今に戻る。
理「ああもう、泣き止めってほら」
菜「だっ…え……だっ…ぅえっ…!」
ハンカチで菜奈の涙を拭く。
何一つ悪い事をしていないのにもの凄い罪悪感に襲われる。
まさかサプライズで喜ばすつもりがこんな事になるなんて。
理「あのな、俺が知美と二股かける理由なんかどこにもないだろ?」
菜「ひぐっ………あう…もん………キッ…ス…しかっ…してないっ…じっ……」
キスしかしてないからというのは誤解だ。
キスしてくれるだけでこっちは十分に幸せだ。
理「あのな、いい加減に泣くのやめろって」
涙は出てるわ鼻水を出てるわ涎もこぼれてるわで大変な状態だ。
泣いてる顔もかわいいなーとか言ったら余計な事になりそうなので言うのをやめた。
理「ほれ、鼻かめ」
ティッシュを取り出して菜奈の鼻に当てる。
ぷぴーと応じて出す。
こういう状態だと素直なんだな。
またひとつ菜奈の萌えのポイントを見つけた。
ようやく泣き止み、嵐は過ぎた。
……問題はどこのどいつがこのスクープ写真を撮ったのかだな。
理「菜奈、もっかいさっきの写真見せてくれ」
菜「う、うん」
菜奈から携帯電話を受け取る。
送り主のアドレスを見る。
自分の携帯電話を開き、登録者リストを出す。
……………こいつか。
翌日、校舎裏にて。
男子2「ぐあああああぁーっ!」
ダブルアイアンクローの刑炸裂。
理「まったく、お前らのおかげで散々な目に遭ったじゃねえか」
男子1「いやでもっ、こういう修羅場を乗り越えればより仲が深くなるだろっ…!」
理「………ほほう?」
2割増し。
男子2「ぎぃやああっ!ヒビがっ!ヒビが割れる割れる割れるぅ!」
ヒビはオブジェが割れた事なのでヒビは割れません。
執行完了。
理「ったく、今度おかしな事しやがったら容赦しねえからな」
魂が抜けそうな2人を放って教室に足を運ぶ。
理「あー、あとちょっとでクリスマスか…」
クリスマスが終わったらもうすぐ大学受験か。
……受験生最後の息抜きかな。