闇に光る刃

理「ふーん……通り魔、ねえ」
朝食を食べながら新聞を読む。
ここ最近通り魔事件が起きているようだ。
ただ幸いにはここの辺りの出来事ではない。
理「ここは平和だし、通り魔なんてないだろ…」
新聞を読み終え、学校へと向かった。
幼馴染の菜奈と一緒に。

学校に着いて教室に入った直後だった。
菜「ねえねえ理央、数学の教科書持ってる?」
理「持ってるけど…どうした?」
菜「ちょっと忘れちゃって…」
理「珍しいな、菜奈が教科書忘れるなんて」
菜「べ、別にいいじゃない。誰だってミスはするもん」
理「…まあいいや、貸してやるよ」
菜「でも、理央は?」
理「俺の席は後ろだし、先生も気づかないだろ」
こういう時ほど後ろの席というのは重宝する。
机の中から教科書を取り出し、菜奈に渡す。
菜「ありがとね」

授業が終わり、菜奈に呼びかける。
理「菜奈、一緒に帰らないか?」
菜「あっ、ごめん。今日体育祭の準備があるから」
体育委員の菜奈はもうじき行われる体育祭の準備を始めていた。
理「そっか、じゃあ先に帰るぞ」
菜「うん」

帰宅し、夕食を食べ終えた時だった。
理「さーてと…宿題やんねえとな」
今日の宿題は数学だった。
教科書を見ながらやれば問題はなさそうだ。
鞄から教科書を取り出そうとする。
理「ん…あれ…」
無い。
理「……あっ」
菜奈に貸していたのを思い出した。
貸したっきりで返してもらっていない。
理「……こういう時の幼馴染ってのはありがたいな」
2件隣なので簡単に返してもらえる。
早速菜奈の家に向かう事にした。

理「えーっ!?まだ帰ってきてないんですか!?」
午後7時を過ぎてるにも関わらず、一度も帰っていないらしい。
いくら体育祭の準備とはいえ遅い。
待ってもいいが宿題があるためそうはいかない。
理「そんじゃちょっと俺、学校に寄ってみます」
直接行って返してもらおう。
こっちの方が確実だし何より早く済む。

9月半ばを迎え、秋の気配が強くなってきた。
その証拠にすでに空は真っ暗に近い。
天気が曇りというのもあるが今日は暗く感じる。
夜道。
ぴったりの言葉だ。
ふと、今朝の新聞の記事を思い出す。
通り魔。
理「……まさか出てきやしないだろう……」
そう思った直後だった。
曲がり角から何かが通り過ぎた。
理「うわっ!」
身構えたが、次の瞬間にがくりと頭を垂れた。
猫だった。
理「びっくりさせんなよお前…」
にゃーん、という声を出して家と家の隙間へと入っていった。
理「……ま、通り魔なんて出るわけがないか…」
学校へと再び歩き始めた。

そろそろ学校が近くなってくる。
菜奈とはまだ会っていない。
…まだ学校にいるのか?あいつ…。
熱心なのはいいが身体を壊さなければいいが。
この角を曲がって、しばらく進んでもう一回角を曲がれば学校だ。
角を曲がった。
次に曲がる角を見た。
誰かがいた。
ちょうど街灯に照らされていたので誰かわかった。
菜奈だ。
認識した直後、違和感を感じた。
こっちを向いていない。
帰り道ならこっちを向いているはずだ。
菜奈の見ている方向はさっきまで菜奈が歩いてきた方向だ。
何かを見ている。
何を?
菜奈の瞳は、異質なモノを見ているようだった。
直後、全身が緊張した。
その理由は、角から誰かが出てきた。
学生ではなく、社会人でもなかった
手に何かを持っていた。
街灯によって光っている。
刃。
ナイフ。
通り魔。
認識した瞬間、走り出していた。
菜奈の方へ。
守らなきゃ。
理「菜奈っ!!」
通り魔がこっちを見た。
だが、すでに足は地面を強く蹴って飛んでいた。
足は通り魔の脇腹に深く入る。
菜「理央っ!」
菜奈が叫ぶように呼ぶ。
通り魔は吹っ飛び、壁に激突する。
理「逃げるぞ!」
菜奈を抱き上げ、その場から逃げ出す。
理「菜奈、携帯で警察呼べ!」
菜「うんっ」
菜奈を抱いたまま必死で逃げた。
その最中に菜奈は落ち着いて警察に通り魔の特徴を伝えていた。

理「ぜーっ…ぜーっ…」
どれくらい走ったかわからない。
こんなに走った事は一度も無かった。
心臓の鼓動が凄まじい。
ある程度明るい処まで出た。
ここまで逃げれば問題は無い。
理「た……立てるか?」
菜「う…うん…」
菜奈をゆっくりと地面に降ろす。
理「ケガとか無いか?」
菜「う………」
菜奈の瞳からぽろぽろと涙がこぼれる。
先程の恐怖と助かったという安堵が一緒になって襲ったのだろうか。
肩に手を回し、抱き寄せる。
理「もう大丈夫だから……泣き止めって…」
菜奈の身体が震えている。
菜奈の身体は小柄だったのはわかっていたが、予想していたよりも小さく感じた。
残った手で菜奈の頭を撫でる。
さらりとした髪の質感が手に伝わる。
……こんなんだったっけ……菜奈って…。
ほんの数時間前の菜奈の存在が違うように感じた。
菜「りお……」
菜奈のうるんだ瞳がこっちを見る。
こんなに至近距離で見たのは初めてだ。
…………こんなに……かわいかったかな…。
自分の中になんともいえないものが蠢いていた。
が、それは近くを通った車のクラクションで消された。
ばっ、と離れる。
理「だ、大丈夫だな」
菜「あ、う、うん」
理「か、帰るか」
菜「う…うん」

家に着くまで会話は無かった。
菜奈から教科書を返してもらう気力も無かった。
ベッドに寝転ぶ。
掌を見た。
瞬時に、菜奈の事を思い出す。
菜奈の身体、髪、そして菜奈の顔。
ぼそりと呟いた。
理「…………なんだろう…これ…」

後書き

平たくいうと『吊橋効果』です。
吊橋の上で告白をすると『危険』という感覚が『これって恋?』と誤認させ、成功しやすくなると言われています。
まあ芸能でも共演したのがきっかけで付き合うようになったという話も多いですね。
そこでまあ…それに便乗したというわけです(笑)。
次は菜奈視点+補完話になります。
それでは次回にて。

今回のコラムはこちらっ