STAND BY

輸送機のローター音が爆音として聞こえる。
耳鳴りは次第に落ち着いてくる。
中は静かだった。
おしゃべりができる状態ではなかった。
これから戦闘が起こるのだから。
周りを見る。
兵士達がいる中、自分の服装だけ浮いているように感じた。
軍服ではないからだ。
俗に言う戦闘服のような、いでたちだからだろう。
傭兵。
軍の犬とは違う、傭兵だけの特権を感じているのか、あるいは疎外感からか。

『全員、準備できたな』
隊長の声がする。
『これより、現在テロリストに占領されている地域の奪還及びテロリストの鎮圧。作戦名『ピンクローズ』を開始する』
隊員の返事がする。
『涼、聞いているか』
涼「イェス、サー」
『どうもお前はこの作戦名が気に入らないようだな』
涼「別に。傭兵の俺は部下じゃないでしょ」
『まあな。だが、この作戦中はせめて言う事を聞いてくれ』
涼「イェス、サー」

事の始まりは2日前。
中東付近の町がテロリストに占領された。
テロリストの要求は『国』。
人でもなく、金でもなかった。
お偉いさんの推測は現在のこの国の政治に対して不満があるのでは、と考えていた。
それは一般市民も同じ考えだろう。
ただ、俺は違うと思っていた。
テレビにてテロリストの首謀者が演説をしていたのを見た。
芹禾だった。
気づいたら、テロリストの鎮圧作戦に志願していた。
真実を知りたかった。
何故テロ行為を行ったかではない。
何故、『国』を欲しがったのか。
それが聞きたかった。

『気にするな。隊長さん、この作戦が成功すれば昇格するって話だからな。張り切るわけだよ。あの腰抜け隊長』
『葵の言う通りだ。どうせ戦うのは俺達だけさ』
臣が愚痴る。
涼「…そうだな」
葵「とっととこんな戦闘終わらして、一杯やろうや」
涼「…ああ」

輸送機がドン、と揺れる。
着陸した。
目的地に着いた。
…生きて会わねばならない。
この戦場で。