万華鏡

『私は第二部隊の輸送のため、基地へ戻る。みんな死ぬんじゃないぞ』
隊長は輸送ヘリのドアを閉め、ローターは再び回転を始めた。
葵「…生き残れば評価も上がるからな」
作戦成功だけでなく、部隊も生き残れば当然評価も上がる。
隊長にとって部隊の生存の喜びは別のようだ。
臣「ここに来るまでに……およそ一日半か」
救援は当分先だ。
涼「第二部隊は単なる時間稼ぎか」
隊長の目論見は昇格だけでなく、自分の安全の確保のようだ。
一日半もあれば奪還も完了できる。
臣「お偉いさんは知恵が働くもんだな」
葵「愚痴ってないでさっさと…」
ビシッ
音がした。
何かが何かに当たった音。
硬い何か。
空を見た。
先ほどと飛び立った輸送ヘリ。
コックピットのガラスの部分にヒビが入っていた。
ヒビではなかった。
亀裂が走っていた。
操縦士が狙撃された。
操縦士を失った輸送ヘリは向きを変えた。
輸送ヘリの向いた方向は地面だった。
涼「退避しろ!」
全員が一斉に非難する。
輸送ヘリが地面に激突
爆発
炎上
辺りを見回す。
とりあえず巻き込まれた兵士はいないようだ。
炎上している輸送ヘリからは、誰も出てこない。
臣「…隊長さん、望みはかなったようだな」
殉職は二階級特進。
内容はどうあれ、結果として昇格された。
それ以上の昇格も降格もない、永遠に固定された階級。
だが、狙撃はそれだけでは終わらなかった。
近くの兵士が狙撃を受けて倒れる。
臣「全員建物の影に隠れろ!」
全員が一斉に移動する。

『隠れたようやな』
統率するような隊長格がいるようだ。
無線が入る。
『…どうなった』
『ヘリは狙撃したで。けど、兵士がおよそ20おるで』
『全部片付けろ、茜』

ライフル弾の装填。
茜「まあ、向こうはこっちの狙撃ポイントがわからへんしな」
ライフルに装着されているスコープを除く。

ビシッ
音とともに兵士が倒れる。
また兵士が撃たれた。
これで何人撃たれた?
先程のヘリの狙撃から考え、おおまかであるが狙撃の方向がわかった。
だが、あくまでもおおまかな方向だ。
もっとピンポイントに場所をしぼらねばならない。
たった今撃たれた兵士が狙撃された時の動きからすると、ある程度上の方にいる。
出撃前にもらった地図を思い出す。
この周辺で大きめの建物というと富豪の家があった。
ただ、肝心の富豪はすでに滅んでおり、廃墟と化していた。
あそこからなら狙撃も可能だろう。
そして建物の中かどうか。
ヘリの狙撃はともかく、多くの兵士が撃たれているのを考えると、視界が限定される。
となると必然的に建物の外、つまり屋根に登っての狙撃の可能性が高い。
…ある程度ではあるが狙撃ポイントは見えた。
ただ、問題は今狙撃手がどこにいるか、だ。
……危険ではあるがそれは視認しなければならない。
壁から離れ、富豪の建物へと続く道に出る。
いた。
やはり屋根の上。
その瞬間、衝撃が襲った。
横から強い衝撃。
狙撃されたのなら正面からだろう。
誰かに押された。
その直後、何かが横を通り抜けた。
弾丸だ。
地面に倒れる。
葵だった。
葵「馬鹿野郎!死ぬ気か!」
確かにそうだ。
今葵に押されてなければ確実に死んでいた。
涼「すまない」
葵「とにかく、ここを離

葵の言葉が途切れた。
葵のこめかみは穴が開いていた。
狙撃された。
涼「くそっ!」
狙撃手に向かって弾を撃った。
涼「臣っ!!」

何かを撃ってきた。
だが、スナイパーライフルならともかく、通常の銃なら問題はない。
スコープから目を離さず、そのままを維持した。
直後、強い光を見た。
それも強力な。
茜「ぐわっ!」
たまらずスコープから目を離す。
照明弾。
本来は信号として使用するものだ。
それを武器として使った。
目がまだ壊れている。
だが、かろうじてスコープをのぞいていない片目は視力は正常のまま。
残った目が見た情報は黒い塊だった。
弾丸ではなかった。
砲弾だ。
照明弾でこちらの視力を奪い、攻撃を封じ、バズーカによる砲撃。
茜「…芹禾、ミスったわ」
砲弾がすぐ横に着弾した。
爆発が起こった。
その爆発は茜の身体を四散させた。