Rick Junk

『おい、そろそろ出させてくれねえかな』
『………』
『向こうは応答無しだ。死んじまったんじゃねえの?』
『…わかった。ただし、敵は全滅させろ』
『ああ。ただし、味方を撃っても怒るなよ』
『…ああ』
『…さてと、仕上げといくか』
腕をまくりあげ、近くにあった注射器を刺し、すでに注射器に入れておいてある液体が腕の中に入り込む。
『……じゃあ殺してくるぜ』
『眞一郎、気をつけろ』
眞一郎は笑みを浮かべる。
その表情は、悪魔が優しく微笑んだような顔だった。

発砲音が立て続けに鳴り響く。
臣「くそっ、キリがねえ!」
壁に隠れては出て撃つの繰り返しだった。
予想よりも敵の数は多かった。
この交戦で何人かは撃った。
しかし、こちらも何人か撃たれた。
現在の数はおよそ10人程度だろう。
打開策を考えねば全滅の可能性が高い。
そう考えた矢先、
目の前に塊が転がり込んできた。
手榴弾
涼「散れっ!!」
手榴弾から素早く離れる。
しかし、涼の号令に遅れた兵士が手榴弾の爆発に巻き込まれる。
臣「くそっ!」
臣がバズーカを撃つ。
壁を粉砕し、何人かがその爆風に巻き込まれる。
涼「いいピッチャーがいるな」
臣「メジャーリーグなら50億で契約だろうな」
涼「敵にはなりたくないな!」
マシンガンで周囲を撃つ。
再度、臣がバズーカを撃つ。
臣「くそっ、弾切れか」
バズーカの砲身を投げ捨て、手持ちの銃を構える。
涼「…どうするか」
臣「ここは一旦退くか?」
涼「…やむを得な

次の瞬間、凄まじい音がした。
銃撃音ではなかった。
爆撃音でもなかった。
両方を兼ね備えた音だった。

少し遠くの壁が崩壊した。
そしてその崩壊は断続的に続き、こちらに迫ってくる。
涼「逃げろ!」
しかし、その号令は遅かった。
ひとりでに壊れていく壁の現象に理解できず、ただ立ち尽くしている兵士が何人もいた。
気づいた時には人の形ではなく、ミンチと化していた。
それはこちらの兵士だけでなく、敵の兵士もだった。
その場に伏せて銃撃を回避した涼と臣。
涼「…どうなってんだ?」
臣「…頭がイカれてないとこんな事ぁできねえな」
涼「……RiskJunk(クスリ漬け)か」
ふと、耳を澄ますと誰かの声が聞こえた。

『何やってんだ眞一郎!』
眞「ああ?敵を撃ってんじゃねえか」
『ふざけるな』
眞「ふざけちゃいねえよ。ふざけてんのはこんな攻撃もよけらんねえヘナチョコな仲間達だろ」
『貴様…』
眞「なんだぁ?おめぇも挽肉になりてえのかい?」
『…』
眞「そうだろうそうだろう。自分の命は大切だからな。潤」
潤「…芹禾が黙っちゃいないぞ」
眞「そん時ゃ、兵士達は敵に撃たれたって言えばいいさ。はっはっは」
潤「…勝手にしろ…!」
眞「ああ、勝手にやらしてもらうぜ」
眞一郎が銃を構える。
その銃は『銃』とは呼べないシロモノだった。
ガトリング砲。
本来は戦艦及び戦闘機に搭載されている兵器だ。
それを人が持てるサイズに縮小された。
破壊力は本来に比べれば弱体化されているものの、連射性と破壊力は従来の機銃の中でもトップクラスの性能になる。
ガトリングの砲身が回りだす。
弾丸の発射はされなかった。
だが、次の瞬間
爆音のような発射音。
隙間という言葉さえも入れない程の連射。
弾丸のスコールは先程と同様に壁を崩していった。
崩壊の音と共に兵士の叫び声が聞こえる。
涼「くそっ!」
涼が壁から飛び出し、発砲する。
眞「こんなもん当たるかよ!」
涼に向けて射撃。
涼「くっ!」
こんな所でもたもたしていられない。
涼「臣、あいつらを頼む」
臣「涼!」
涼「俺は、あの人に会わなきゃいけない!」
涼が何かを投げる。
眞「ああ?」
それと同時に眞一郎の前に飛び出す。
眞「死にてぇようだな!」
ガトリング砲を構えた。
だが、直後、すさまじい爆音が鳴る。
ライオットエージェント弾。
手榴弾と違い、音を強化した音撃兵器。
眞「ぐうっ!」
音撃に耐え切れず、耳を抑える。
眞一郎の横をすり抜け、先に進む。
眞「逃がすか!」
ガトリング砲を構える。
だが、直後に足元の土が跳ね上がる。
発砲による衝撃だった。
臣「お前の相手は俺だ」
臣が発砲する。
眞一郎はとっさに回避し、壁越しに射撃する。
当然のように壁が崩壊していく。
だが、その崩壊は今までの比ではなかった。
壁という壁が崩れていく。
眞「どこいきやがったぁぁっっ!!」
完全に眞一郎の思考は止まっていた。
臣「くそっ、これだからヤク中は好きじゃねえ!」
前にいた兵士が撃たれた。
迎撃している兵士は見当たらなかった。
どうやら生存しているのは自分だけのようだ。
そう考えた矢先、
『伏せろ!』
どん、と背中を押された。
バランスを崩し、倒れる。
それと同時に、自分の立っていた所の壁が崩壊した。
もし立っていたらミンチになっていただろう。
後ろを向く。
潤だった。
臣「お前…」
お前とは敵だろう、と言おうとした。
再び側の壁が崩壊した。
素早く起き上がり、潤と共にそこから退避する。
臣「すまん、助かった」
潤「気にするな。俺は無差別の殺戮は趣味じゃない」
臣「…どうする?あいつを撃たなければ俺達は死ぬ」
臣の言った、『俺達』の言葉が妙に響く。
潤「…『俺達』か。聞くまでもないし、言うまでもないな」
臣「ああ」
潤は銃を取り出す。
前方の壁が崩壊した。
眞一郎は動かずに闇雲に撃っているだけだった。
もはや砲台のようだった。
その壁の向こうに眞一郎はいる。
臣は壁から飛び出し、発砲する。
何発か撃った。
銃身に残った弾はなくなった。
そして弾丸の1つが眞一郎の右腕に当たる。
眞「ぐわっ!」
潤「止めだ!」
潤が続けざまに発砲。
1発目が放たれる。
続けて2発目。
出なかった。
弾切れではなかった。
銃を見た。

火薬と先端の射出される弾丸が放たれ、役目を終えた空の薬莢は排出口から鉄の世界から青の世界へと放たれる。
だが、放たれた時間は遅かった。
放たれるべき薬莢は境界線である排出口と共にある、スライド式の口に挟まれた。
この時、銃の中で裁判が行われる。
放たれる事によって認められる薬莢の排出。
それと同時に、放たれる事によって認められる次の発砲の許可。
この2つが無効となる。
ジャム。
俗に言う目詰まり。

眞「残念だったな」
ガトリングから数発の弾丸が発射する。
そしてその数発のうち、腹部、そして左足に1発ずつ。
潤「ぐあああ――っっ!!」
潤は弾丸の衝撃で壁に叩きつけられる。
眞「終わりだ!」
臣「…そりゃ、お前だろ」
臣は銃を構えた。
眞「馬鹿な!お前は弾切れの…」
臣の銃を見た。
違う
あれは見覚えがある。
そうだ、
確かあれは
臣「お前らの部隊の武器だ」
臣は発砲した。
弾の軌道は、眞一郎の額に向かっていった。
そしてその軌道は予定通り、眞一郎の額に命中した。
臣「…地獄に行く前に、ちゃんと仲間に謝れよ」
臣の発砲音の後、周りは何も聞こえなくなった。
この付近の戦闘は終わったようだ。
潤「うう…」
潤の呻き声が漏れる。
臣は潤の方へ歩く。
臣「…生きてるようだな」
潤「…へへ、とっとと殺せよ」
臣「……」
潤「あいつがいなくなった以上、俺とお前は敵同士だ」
臣「…」
潤「俺は当分動けねえ…絶好のチャンスだぜ」
臣「……」
臣は何も言わずにその場を去る。
臣「…悪い。命の恩人は殺さない主義だ」
潤「…すまん」
臣「気にするな」
臣は涼の向かった方へ走り出す。
見届けなければならない。
この戦いの結末を。