jack2

「いやあっ!助けて!おかあさんっ!おかあさんっっ!」
目の前で友達が泣いている。
ただ泣いているのではなかった。
犯されている。
それも知らない男。
それも、無理矢理。
両手を後ろ手にされて縛られ、足もベッドから伝わるロープでろくに動けない。
「へっ、わめいたって来るわけねえだろ」
友達を犯している男が笑いながら言う。
ここがどこかもわからない。
それに私達が誘拐されている事に誰も気づかない。
「おい、早く代われよ」
男は一人だけじゃなかった。
「ああ、もうちょっと……だからよ…」
終わるというのは射精する事。
それを察知した友達は
「やめてえっ!いやあ!妊娠しちゃうっ!」
「何だ、今日は危険日なのかよ」
「別にいいんじゃねえの?この後俺達にも相手してもらうんだから誰のガキかわからねえって」
男達は冷たい言葉を放ち続ける。
どうして。
どうしてこうなったの。
「おねがいっ!なんでもするからっ!なんでもしますから中だけはいやあっ!」
「……さめちまった」
犯している男は笑うのをやめた。
ズボンのポケットから何かを取り出す。
黒い塊。
L型のようなもの。
それを持って、友達の顔に向ける。
わかった
拳銃
パアンッ
軽い破裂音がした。
「」
友達の声が止まった。
糸が切れたあやつり人形のようにボフッとベッドに突っ伏す。
目はこっちを見ている。
その目は…
死んでいる。
死んでる
友達
なんで

わたし
イヤ
イヤ
イヤ
「いやあぁぁぁっ!!!」
その光景を見た男が、
「おい、壊れちまったんじゃねえの?」
「大丈夫だって。人間ちっとやそっとじゃ壊れ…ってまだヤってのんかよ」
死んでいる女をイキイキとしながら犯している。
「ギャーギャーやかましいよりは…マシ…くううっ…」
そのまま精をぶちまける。
「すげえな。死姦かよ。初めて見るぜ」
「さて、俺らはナマモノをちゃんと味わいますか」
2人はまだ生きているこちらに近寄る。
「い…ゃ…こないで…」
自分の声は、あまりにも小さく、絶望を帯びていた。
「なあに、おめえも楽しめばいいんだよ」
男は、卑猥な顔を浮かべる。
そして、制服の胸元をつかんだと同時に、力で無理やり引き裂かれる。
その瞬間、何重もの恐怖が私を襲う。
声を発した。
その声は、今までに発した事も、聞いた事もない『コエ』だった。
「ィヤアアァァァ――ッッ!!!」

「…ねえ、見た?」
「…何を?」
「今朝の新聞っ」
ぽいっと新聞を渡してくる。
いつもとはちょっと態度が違う。
どうやら機嫌が悪いようだ。
新聞をめくっていくと、ある記事が目に入った。
「女子高生2人が暴行死…これか?」
「そう。まったくひどいわよね」
「…んで、犯人は捕まってないと」
「いたいけな女子高生を食い物にするなんて女の敵よ!」
「…んで、委員長はどうするおつもりですか?」
通り魔事件は集団登校。
「また集団で登校と下校をする事になるわね」
今回も、と。
「けど、2人ともやられたってことは集団でもダメじゃねえのか?」
「それでも、わざわざそんな自分が危なくなるようなマネはしなくなるわよ」
「…気をつけろよ」
「えっ、な、な、何よ」
意外な一言にドキッとする委員長。
「今回のターゲットはズバリ『女』だからさ。俺をターゲットにするようなスキモノはいないだろ?」
「ま、まあ…そうだけど」
「一応これ持っとけ」
渡したのは防犯ブザー。
「…私のために?」
「んー、そういう考えは御自由にどうぞ」
「何よそれー」

そして下校時間。
「ねえ、一緒に帰らない?」
「え、何でだ?」
集団下校は明日からだ。
「…えと…防犯ブザーのお礼」
「お礼つったってよく一緒に帰ってるだろ」
「それはそうだけど…」
「…ま、委員長がせっかくおねだりしてるんだから一緒に帰りますか」
「おっ、おねだりなんてしてないわよ」
「はいはい。そんじゃ帰るか」

2人で下校していると、委員長が話しかけてくる。
「ねえ、そういえばあなたの家ってどこだっけ?」
委員長の言葉に、足が止まる。
「…お前それ大胆発言だぞ」
「そっ、そんなことないわよ!ただ単に気になっただけ…」
「男の家に行っても別に面白いモンもないぞ」
「でも、気になるじゃない」
「何に?」
「えと…それは…」
ふと、後ろから来る車に違和感を感じた。
通り過ぎるというより、止まるようだ。
それも、2人の横に。
車が止まった瞬間、後部座席のドアが開く。
ドアから、4本の手が伸びる。
手は委員長の肩、左腕、右手、口元をつかむ。
誘拐。
そう判断した瞬間、車に乗り込もうとする。
「委員長!」
だが、車から足がビックリ箱のように飛び出し、腹部を蹴られる。
「ぐうっ…!」
蹴られた勢いで、道路の壁にぶつかる。
後部座席のドアが閉まりながら、車は急発進した。
「くそっ……いきなりかよ…」
蹴られた腹部をさすりつつ、ズボンのポケットから小型のカーナビに似たようなものを取り出す。
電源を入れると、画面にはこの周辺のマップが表示される。
マップ内の赤いマークがここから遠ざかっていくのが見える。
委員長に渡した防犯ブザーは、実際はGPSを利用した発信機。
「こうもあっさりと餌に食いつくのはなんともマンガみてえだな」
ナビの方向へ向かって走り出した。

「…ん……」
「おっ、起きたみたいだぜ」
目を開けると、男達がいる。
3人。
辺りを見回す。
見覚えの無い場所。
潰れた工場のようなところ。
ここから逃げ出そうとするが、動けない。
足と手を縛られている。
「…あっ、あんた達…何をしてるのかわかってるの!?」
「おやおや、優等生なコメントだねえ」
「そういやあのクソガキ、委員長とかぬかしてたっけな」
「ひゅー、正真正銘の優等生かよ」
「いいねえ、優等生ってのはなぶりがいがあるってもんだ」
こちらの言葉は逆に男達を煽る。
「とはいえ、ガキに見られたってのは問題がありそうだな」
「別にいいんじゃねえの?」
違う方向から声がした。
3人の男達の声ではない。
「こっちが問題ナシっていやあいいんだからよ」
コンテナらしき場所から出てきたのは、警察官。
「え……」
「何だよ、また死体マワしてたのかよ」
「ああ?ぎゃあぎゃあわめいているオンナよりは大人しくて楽だぜ?」
「あ…あなた…一体…」
「うん?ホンモノのおまわりさんだぜ」
「警察が何でこいつらなんかと…」
「簡単だよ。グルだ」
「…!」
「はははっ、警官がレイプ魔だなんてビックリだろ?」
「警官ってのはいいもんだよ。なにせ世間様の中じゃ一番エライんだからよ」
「コイツ、警官になった理由ってのがコレだもんな。初めて聞いた時はビックリしたぜ」
「まあ、つまんねー勤務とかあるけど、パトロールとぬかしてヒマ潰しもできるし押収したブツも楽しめるしな」
「あ…あなた…おかしいわよ」
その途端、腹部を蹴られる。
「んぐっ…げほっ…げほっ」
「おかしい?俺達ゃあマトモだぜ」
「そうだよな。お前みたいに平々凡々と暮らしてて、何の刺激もないまま生きてるなんて家畜みたいなモンだ」
「なあなあ、ぼちぼち始めねえか?」
「お前は相変わらずせっかちだな」
「あの2人の時はヤレずに殺しちまったからだろ」
「しょうがねえなあ。今回はお前が一番な」
委員長の血の気が引く。
「…や…たすけて…」
「おっ、いいリアクションだねえ。いい女優になれるな」
「レイプされた女優なんていねえだろ」
「ま、AV女優なら一番人気かもな」
「ひっ……」
「…さあて……ん?」
男が何かに気づく。
「何だよ、ションベン漏らしちまったのかよ」
あまりの恐怖に漏らしてしまった。
「…ご…ごえんな…ひゃいっ……たす…っ…けて」
嗚咽で言葉が出ない。
「ま、いいや、股の潤滑油みたいにゃなるだろ」
男の1人が近寄ってくる。
制服の胸元をつかまれる。
もうだめ。
終わりを感じた時、声を聞いた。
「委員長!どこだ!」
聞き覚えのある声。
あいつだ。
どうしてここへ。
建物の外の藪から出てくる。
「だめっ!お願いだから逃げてっ!」
今ここへ来たら殺される。
死んでほしくない。
「バカ言え!そんな事できるか」
「あんだよ、つけられたのか」
「バカ言うな。こっちは車だし向こうは免許も持ってなさそうなクソガキだぜ」
「ま、何にしても…」
男はポケットから銃を取り出す。
「殺さねえとな」
男はあいつの前に立つ。
「おい坊主、ヒーローの登場とか考えてるだろうけどよ、現実は違うぜ」
「…ヒーロー?」
あいつは笑う。
「何笑ってやがんだクソガ…」
男の声は途中で止まった。
「悪いけど…」
あいつは右手を外側に振る。
その直後、男の上半身と下半身がずるり、とずれる。
そのままずり落ちて、地面に落ちる。
そして残った下半身もバランスを崩して倒れる。
「俺は死神だよ」
その異常な光景に動いたのは警察官。
「てめえ!何しやがった!」
警察官が銃を取り出し、構える。
「……ナンブか。あんたホンモノの警察か」
「…銃で判別しやがったか」
あいつは、警察官という服装ではなく、持っている銃で判別していた。
警察官は銃が支給されているとはいえ、この距離からでは判別できないし、何より銃の種類なんてわかるわけがない。
「てめえを殺すなんてわけがねえ。殺しちまっても正当防衛の一言で終わっちまうしよ」
「それに、最近話題のレイプ魔を俺に仕立て上げれるって寸法か」
「…頭の良すぎるガキは嫌いだぜ」
カキン、と檄鉄を起こす。
「…でも警察官がいるんなら、楽でいいや」
あいつは平然と笑っている。
「…てめえ、気は確かか?俺の人差し指一本で死んじまうんだぞ」
「…違うね」
「ああ?」
「あんたのじゃない。俺の人差し指で死ぬよ」
「壊れちまったか、こいつ」
「おい、とっととぶっ殺しちまえよ」
「ああ。さっさと殺して続きを…」
言葉が途中で止まった。
止めたのではない。
しゃべるはずなのに、止まらされた。
そんな顔をしていた。
「どうしたの?俺に向けて撃つんじゃないの?」
銃は、仲間を向いていた。
「お、おいっ、なんのマネだ!?」
「しししし知らねえよ、なな何で…」
銃を向けている本人が慌てている。
あいつは右手を銃の形のように見立てる。
「…バンッ」
あいつが人差し指を曲げる。
それと同時に、銃が発砲される。
銃は、仲間に向かったまま。
男の額に命中し、そのまま仰向けに倒れる。
「おっ、おいっ!何やってんだ!」
「なんで……なんでだ」
警察官は恐怖の顔をしていた。
自分のやっている事が理解できないでいるみたい。
「はい、リロード」
「や、やめろ!」
警察官は拒否しながら檄鉄を起こす。
異様な光景に、私は呆然としていた。
「バンッ」
再び発砲。
今度は男の胸。
「…あ…ぅぅぁぁぁ…」
胸を両手で押さえ、低いうめき声を上げながら、前のめりに倒れる。
「さて、あんたの番だね」
「や…やめろ…やめろっ!」
「あんた自身の銃じゃ自殺扱いだからね。仲間のを使わせてもらうよ」
あいつは左手を高速で振ると、一番最初に真一文字に斬られたように死んだ男の腕が動く。
その手には、銃が握られていた。
先程と同様に、銃の形を作った手。
「シナリオはレイプ魔のアジトに単身で侵入した警察官が正当防衛で発砲。その際死に底無いの男に撃たれて殉職」
あいつは笑っている。
「良かったじゃん。ヒーローになれてさ。警察官の鏡だよ」
「た…たたた助けてくれ!助けてくれっ!」
「……レイプされた子ってそんな風に懇願しながら死んだのかな?」
その一言に、警察官は絶望の顔を浮かべた。
「…バイバイ」
人差し指を曲げる。
それと同時に、発砲音がした。
額に直撃し、そのまま倒れる。
「…ふう…」
男達は死んだ。
あいつに。
…わからない。
全てがわからない。
あいつが近寄ってくる。
ポケットからナイフを取り出して、縛られた縄を切ってくれる。
そして全ての縄を切った。
……聞かないと。
「あ…あなた一体…」
「……すまん」
その一言の直後、あいつの握られた右手が、私の顎を打つ。
視界がブルンと左右に細かく揺れる。
そう認識した直後、意識が無くなった。

「……ん…」
目が覚める。
視界に入ったのは、見覚えのある天井。
…私の部屋。
私はベッドに寝ている。
……夢?
あれは夢だったの?
誘拐されて、汚されると思ったらあいつが出てきて、全員殺して。
……夢なのかな。
起き上がろうと、腹部に力を入れた瞬間、痛みが走る。
「痛っ…」
腹痛とは違う、物理的な痛みを感じる。
夢の中で蹴られたのを思い出す。
…夢じゃない!
あれは現実。
……じゃあ、あいつは?
あいつは……誰なの?
その時、玄関のドアが閉じた音がした。
誰かはわからなかった。
でも、確信はあった。
あいつだ。
「まっ、待って!」

玄関を出ると、そこには誰にいなかった。
「……」
不思議と、涙がこぼれる。
あの恐怖を思い出したのか。
彼の存在に恐怖したのか。
それとも、もう彼には会えないという寂しさか。
全てはわからない。
きっと、これからも。

上を見上げる。
きっと、あの音に気づいてこの上のそばまでくるだろう。
でも、ここまでは来れない。
来ることもできないだろうし、来てはいけない。
ここは…闇。
まっとうな生き方は許されない。
真っ黒に汚れた人間はその身を洗う事が許されない。
死ぬまで。
いや、死んでも。
きっと、このジャックの血の宿命なのだろう。
「……バイバイ」
ぼそっと呟く。
暗い下水道の奥の闇へと歩いていく。
自らを闇に染めるように。

後書き

これにてjackは終わりです。
2とナンバリングが貼られていますが、実際には前後編というスタイルです。
このjack、最初のネタが思いついたのは実はこの2の冒頭だったりします。
以前書いたR.I.Sもメインディッシュのネタが一番最初に思いついたものです。
非人道的なシーンが異常な速度による形成によって今回の話が出来上がりました。
2、3年ごとに猟奇的な話が書かれますが…次回はどうなるのか。
大変不謹慎なのですが、自分自身こういったネタが思い浮かぶ事を楽しみにしています。
あとは、どこまで自分の表現力でそのイメージをどこまで引き出せるのか。
きっと小説を書く上で永遠の課題なのでしょう。
それでは次回にて。