二史納

『いやああああっ!』
こちらの最初の行動は三浦の悲鳴から始まった。
逃げなければ。
声をかけようとするが、既に全員逃げていた。
『どこへ逃げる!?』
『わかんねえよ!とにかくわかりづらい所へ!』
外に壱原を殺した人がいる以上、この建物の中にいるしかない。
建物の奥へと進み、通路を走る。
通路の突き当りに何かが見えた。
下半身しか見えないが、横たわっている人がいた。
見覚えがある。
あれは壱原のスキーウェア。
あいつはここで殺された。
すぐ手前にドアがある。
ドアを開けると中は薄暗いが、ある程度の広さがあった。
『こっちだ』
中に入り、二史納、五木、六車と入ってくる。
しかし、そこにいるはずの三浦が入ってこない。
『おい、三浦?』
確かに三浦はいた。
しかし、壱原の死体を見て呆然と立ちつくしていた。
三浦の腕をつかみ、無理矢理こちらの部屋に引きこむ。
ドアを閉め、一息つこうとした瞬間、
『嫌っ!どうしてっ!?どうして壱原君が殺されるのよっ!?』
三浦が襟をつかんでくる。
なんとなくではあるが、壱原と三浦はそういう関係だとわかった。
『落ち着け!そうしねえと全員殺されるかもしれねえだろ!壱原みてえに殺されたくなかったら静かにしろ!』
説得というよりも脅迫に近かった。
こちらの気迫に押されたのか、三浦は静かになった。
『…これからどうする?』
六車は全員に問うように話す。
『今すぐここから逃げるしかないな』
二史納が即答する。
『いや、俺は朝になるまで待った方がいいと思う』
二史納の考えに五木が反論する。
『正気か?』
『正気だ。5人集まってればあの殺人鬼もそう簡単に襲ってこないだろう』
二史納の考えも正論だが、五木の考えも正論だった。
朝になれば吹雪が止む可能性もあるし、視界が開けて帰れる。
『馬鹿な事言ってんじゃねえよ!朝まで殺人鬼と一緒にいろってのかよ!』
二史納は通路へと続くドアに手をかける。
『おい、どこに行く気だ!?』
『こっから出ていく。見つかったって死ぬ気で逃げれるだろ』
『おい、二史納っ、待て!』
制止の声を聞かず、二史納は出て行った。

通路を見回す。
誰もいない。
首の無い壱原の死体だけだった。
…悪い、後で供養してやるから。
後ろの方で足音が聞こえてきた。
来た。
すぐに走り出す。
先程来た道を逆走すればこの館から出られるはず。
もし入口の扉に鍵がかかっていたとしても壱原の首が投げられた窓から逃げればいい。
壱原の死は無駄ではなかった。
走りながら後ろを振り向く。
殺人鬼は走ってきているが、差は開いていく。
これなら逃げ切れる。
曲がり角が見える。
そこを曲がれば入口だ。
助かった。
曲がり角を曲がる。
しかし、直後にぶつかった。
壁?
そんなはずはない。
壁を見上げる。
いた。
いないはずなのに。
『なんでだ…』
殺人鬼はこちらに手を伸ばしてきた。
『なんでだよっ!』