メビウス

「はい、これ今月の分」
フロッピーを友人に渡す。
「サンキュ。ホームページの更新楽しみにしてろよ」
「ああ………あ、そうだ。今回の小説はオリジナルのがあるから」
「え?パロディ小説以外にか?」
「ああ。俺の体験談だ。どうしても忘れられなくてな」
「へえ………」
友人が珍しそうな顔をした。
おそらくオリジナル小説が珍しいのだろう。
「オリジナルって言っても普段書いてるパロディ小説も限りなくオリジナルじゃないか」
「まあ、それもそうか」

今まで書いた小説はゲームや漫画を題材としたパロディ小説ではなく、全て俺の考えた創作小説だ。
今まで友人ただ1人に見せていたのだが、友人がホームページを開設したことで、ホームページ使用可能容量が5Mと、なかなかの容量で、自分が作曲したのを掲載してもまだ余裕があるため、俺に今まで書いた小説をホームページ用に書き起こし、いわゆるネット小説として掲載したいとの申し出があった。
実はその申し出の少し前、学校でホームページの作成の課題があった。
といっても、たいした事はなく、基礎的なのを3ページ作るという簡単な事だ。
以前に作っていた事もあったので1日でできる。
ただ、自己紹介だけだと面白味に欠けるため、自作の小説を書いた。
初めて自作の小説を世の中に公表した。
そのせいか、今まで書いた小説を掲載したいという申し出をすぐに承諾した。

友人に小説のデータが入ったフロッピーを渡して1週間が過ぎた。
そろそろ友人のホームページには掲載されているのだろう。

近所のネットカフェに入り、近くにあったパソコンに向かう。
友人のホームページのアドレスを思い出す。
思い出したアドレスをキーボードに打ち込む。
打ち込みを終え、エンターキーを押す。
画面では接続中の文字が表示され、しばらくすると見覚えのある映像が目に飛び込んできた。
2週間ほど前に見た友人のホームページだ。
『更新履歴』の項目がある。
カーソルをその文字に持っていく。
カチッとマウスのボタンを押す。
再び接続中の文字が表示された。
3秒ほどした後、別の映像が流れた。
いくつかの文章が並んでいた。
それぞれの文章の最初には日付があった。
日付を見ていくと、一番上が新しい日付になっていた。
その日付は4日前のものだった。
日付の横には、『小説更新』と書かれてあった。
どうやら掲載されているようだ。
続けて小説の項目を選ぶ。
小説のコーナーには確かにフロッピーに入っていた小説が掲載されていた。
掲載された小説を読んでみる。
自分の書いた小説がインターネットを通じて多くの人に読まれる。
なんとも不思議な気分だ。
ただ、本名ではなく、ハンドルネームを使っているため、この小説を書いたのは自分だと知っている人は少ないだろう。
続けて掲示板も見た。
もしかすると感想があるのかもしれない。
掲示板を見てみるが、これといって感想は見当たらなかった。
いつもは感想の一つや二つはあるのだが。
たまにはこんな日もある。
ふと、友人であるこのホームページの管理人の書きこみがあった。

一通り見ると、オリジナルの小説が面白かったという事に要約された。
それはそうだろう。
正真証明、自分の体験談なのだから。

あれは何年前だろうか。
中学時代の頃だろう。
少年雑誌に、ホラーものの漫画が連載された。
その内容は、読者の恐怖体験を元にしたものだった。
24時間にクリアしないと死ぬゲームの話や、マンホール人の話、ナメクジおばさんの話といった、様々なものがあった。
その中に、クリスマスに現れる幽霊の話があった。
クリスマスまで1ヶ月になると、彼女の幽霊が現れる。
彼女と付き合おうと漫画の中では男性が接近するのだが、彼女は着ていたコートの前をはだけると、そこには体がなかった。
闇。
そうとしか言いようのないものだった。
それを見た男性は驚き、恐怖を感じた。
女性は恐怖の顔になっている男性を見ると、激怒した。
男性はそれに驚いて逃げようとするが、電車に轢かれそうになるが、駅員に助けられた。
男性は女性の事を駅員に話すと、駅員は今年も出たのかと言った。

数年前、その女性は、ある男性とクリスマスにデートをする予定だった。
だが、男性は別の女性と遊んでいたため、約束の時間になっても来なかった。
女性はそれでも待ち続けたが、寒い中ずっといたため、熱を出し、足がよろけてしまい、ちょうど電車が入る時に電車の前に飛び込んでしまった。
彼女は即死。
だが、彼女の思いは消える事なく、毎年クリスマスの1ヶ月前になると彼女の幽霊が現れる事となる。

そしてその漫画は次週の話で終了した。

それから3年経った後、父親と東京へ遊びに行った。
新幹線ではなく、通常の電車で帰る予定だった。
帰りの電車に乗りこみ、次の駅で別の電車に乗り換え、そのまま静岡へと向かう。
後少しで駅に着く頃、ふいに自分の座っているすぐそばにあったドアの方を見た。

そこに彼女がいた。
黒いコートに白い素肌。
顔は見えなかったが、何かを感じた。
3年前に読んだ、あの漫画の彼女だ。

そして、あの体験から数年が経った今。
まさか当時はあの体験談を書くことになるとは夢には思わないだろう。
………あの漫画は単行本化しているのだろうか。
もし、あるのなら、もう一度読んでみたいものだ。

そしてあの体験談『ねがい』が掲載されてから半年以上が経過した。
小説はだいぶ増え、かなりの量になっていた。
もうすぐトータルで100本を超える。
ただ、質より量なもので、たいしたものはないのだが。

特にやることもなく、ヒマつぶしに漫画喫茶に向かった。

ここ最近小説ばかりで漫画を読んでいない。
たまには漫画を読むのもいいだろう。
…………とは言うものの、ここある大半の漫画は以前ほとんど読んでしまった。
何か読んだ事のない漫画を探さないと。
新作のコーナーを見たが、これといって読みたいものはない。
別の所へ向かう。
向かった先は、すでに全巻発売されてしばらく経過したコーナー。
数年前読んだが、内容を忘れてしまった場合には便利だ。
だが、ある程度は話の内容を覚えているため、読む必要はない。
ふと、ある単行本が目に入った。
……あの本だ。
単行本化されていたのか。
頭の中であの体験が蘇る。
あの話は何巻だろうか。
棚にあるのは5巻まで。
全5巻とは限らない。
とりあえず、1巻目を見る。
だが、あの話はない。
続けて2巻目。
これもない。
3巻目。
4巻目。
これもない。
残りは5巻目。
パラパラとページをめくり、確認していく。
半分ほどめくったが、あの話はない。
『6巻目』にあるのだろうか………。
と、諦めかけていた時だった。
「あった」
思わず口にした。
あの話だ。
1ページずつめくっていく。
間違いない、あの話だ。

話を見終え、一息ついた。
話の終わりのページをめくった。
次のページには、その話の幽霊のデータファイルのようなコーナーだった。
どうやらあの彼女の詳細のようだ。
上から少しずつ見ていって、とある文章を見た時、鼓動が聞こえた。
黒のロングヘアーに白い素肌。
「……………ちょっと待てよ」
この事は初めて知った。
当時はまだ茶髪なんてのはまだ流行ではなかったため、まあ黒髪はいいだろう。
問題は白い素肌だ。
これはそうそう一致しない。
なのに……なんで俺は小説でこの事を書いていたんだ!?

漫画喫茶から出て、公園に入った。
ベンチに座り、空を見た。
多重の偶然は必然。
…………………………運命、なのだろうか。
俺はこの小説を書くことが運命付けられていたのだろうか。
俺は今まで運命なんてものはないと思っていた。
だが、今回の出来事はそれを否定している。
「………どうなんだろうな」
この人生は決められたレールの上を走っているのか。
それとも何の舗装もされていない道なき道を走っているのか。
…………全ては死んだ時にわかるような気がする。
明日の事はわからないし、1時間後、1分後、1秒後にどうなるのかはわからない。
全てはブラックボックスに眠っている。
再び空を見た。
日は落ち、もうすぐ夕暮れになろうとしていた。

後書き

これは正真証明、作者の体験談です。
まあ、言いたい事は本文に書いてありますのでこれといって書きたいことはないです。
ちなみに、本文にもあった恐怖体験を元にした漫画は講談社の少年マガジンに掲載されたものです。
興味がある方は探してみてください。
体験談の話は本文の通り、5巻目の最後から2話目にあります。
タイトルのメビウスについてですが、1話目の『ねがい』ができてから、次はハードなのを書こうということで、復讐をテーマにしたものを考え、復讐の女神という意味を持つ『ネメシス』を考えました。
そして3話目はもっと精神的な部分を引き出すと同時に、運命的なものを感じさせる、という事でとにかくタイトルネームは『メビウス』に決まっていました。
しかし内容はまったく決まっておらず、『いつかは書こう』という気分でした。
だが、ここ最近になってこの単行本を見つけて読んだ時、まさしく運命的なものを感じました。その辺りの心境は本文そのまんまです。
もしかすると綾の小説も運命だったのかもしれませんね。
それでは次回にて。