忍足桐江

狂った映像に対して思考が働かない。
なんなの………ここ。
一体…どうして…。
誰一人として動かなかったが、忍足桐江が動く。
『ふっざけんじゃねえ!』
忍足桐江が教室の隅に置かれていた机を叩く。
『何が処刑だ』
忍足桐江が教室の外から出ようとする。
『お、忍足さん、待って』
忍足桐江を止めようと声をかける。
『東雲はどうされるかわからなかったからやられたんだろ?だったら捕まえてきたところをひっぱたいてやればいいじゃん』
確かに忍足桐江ならそれができる。
けれど、大石穂香はそうしてくる事がわかっているはず。
『で、でも一人だけじゃ…』
『いいよ、あたしがあいつを殴っちゃえば終わりよ』
忍足桐江は教室から出ていき、ドアは自動的に閉められた。
………ふと、気になった事がある。
東雲由紀子の処刑の時に、大石穂香は『髪を切られた』と言っていた。
つまり、大石穂香は東雲由紀子にいじめを受けていた事になる。
もしかして、忍足桐江や中島璃音も大石穂香をいじめていたのだろうか。
だとすると手紙はクラス全員ではなく、特定の人物にだけ送ったのかもしれない。
……もしかして、いじめに対する復讐なのだろうか。
しかしそれだとおかしい事になる。
自分は大石穂香をいじめていないし、そもそもいじめがあった事を知ったのはたった今。
何で、自分は呼ばれたのだろうか。

東雲由紀子の仇を討つ気はさらさらない。
けれど、大石穂香の蛮行を許すわけにはいかない。
『大石!出てきなさいよ!』
教室のドアというドアを片っ端から開けていく。
鬼ごっこである以上、どこかに大石穂香がいるはず。
『んもー、鬼ごっこなのに追いかけちゃだめだよ』
廊下の突き当たりに大石穂香がいた。
『見つけたよ、人殺し』
『えー、忍足さんも私にひどい事したじゃん』
『そんな昔なんて忘れたよ』
大石穂香に近づく。
大石穂香は素手だが、何かを隠し持っているはず。
恐らく東雲由紀子はスタンガンのようなもので気絶させられたのだろう。
だったらやられる前にやってしまえばいい。
『あたしは東雲とは違うよ』
『…うん、知ってるよ』
大石穂香が何かを取り出す。
スタンガンか。
けど、そんなものでは自分には通用しない。
何をしてくるのかわかっていれば怖くない。
しかし、自分が想像していたスタンガンとは違った。
拳銃。
発砲してきた。
腹に何かが当たった。
撃たれ…た?
あまりの痛みに膝をつく。
このまま死ぬのだろうか。
腹をさするが、何も変化はなかった。
ころん、と何かが床に転がる。
銃弾のような青い物体。
弾じゃ…無い?
『これね、ゴム弾っていうの。暴動を鎮圧するための道具なんだって』
大石穂香は拳銃を自分の喉に向ける。
『殺傷力はないけどすごく痛いんだって、確かプロボクサーのパンチと同じぐらいなんだって』
発砲。
喉が痛い。
『っ……こっ………かっ……』
呼吸が出来ない。
『わー、痛そうだねー』
大石穂香はさらに何かを取り出す。
自分が予想していたスタンガンだった。
『忍足さん、捕まえた』

教室の中をぐるぐると歩き続ける。
落ち着かない。
忍足桐江は大石穂香を撃退したのだろうか。
もし撃退できたらここから脱出できるはず。
『さ、とっとと出るよ』
教室に入ってきてそんな言葉を発してくるのを期待していた。
再びモニターの電源が付いた。
『みなさーん、二人目の忍足桐江さんが捕まりました〜』
自分の望んでいた結末が打ち崩された気がした。
『それじゃ、忍足さんの処刑を始めますね』
忍足桐江は全裸で大の字になって磔にされていた。
忍足桐江は怒りと羞恥の顔で満ちていた。
『離せ!離せったら!』
『んもー、騒がしいなあ。さっきからずっとこんな調子なんだよ?』
大石穂香が溜息をつく。
忍足桐江はクラスの問題児だったから無理もない。
『…処刑の前に静かにしてもらおうかな』
床に置いてあった袋から何かを取り出す。
『これ、なーんだ』
大石穂香が取り出したのはマッチ棒ぐらいの小さい筒が束になっているものだった。
『これはね、爆竹だよ。よくテレビでぱぱぱぱーんってすごく鳴るやつだよ』
その爆竹を何に使うのだろうか。
『これをね、忍足さんのあそこにたっくさん入れて、火をつけちゃうよー』
忍足桐江の顔が青ざめる。
『なっ、じ、冗談だろ?あんた馬鹿だろ?』
『えー、いつもテストで赤点取ってる忍足さんに言われたくなーい』
大石穂香が忍足桐江に近づく。
『くっ、来るな!来るなよ!』
大石穂香は爆竹を忍足桐江の膣へと入れていく。
『嫌っ、嫌だ!やめろ!やめてえ!』
『わー、忍足さんのあそこって黒ずんでるんだ。高校の頃から遊んでるイメージあったけど本当に遊んでるんだ』
『いやっ、死にたくない!死にたくないっ!』
『忍足さんも私の処女膜をペンで無理矢理破った時に言ってたよ〜、死なないから大丈夫って』
爆竹を入れるだけ入れ、導火線を持つ。
『それじゃ、爆竹タイムスタートっ』
導火線に火をつけた。
バチバチと火花を立てつつ忍足桐江へと近づいていく。
『助けっ!たすけてっ!友也っ!ともやぁ!』
『あー、今の彼氏って友也って人なんだ。でも残念だねー、愛しの王子様はお姫様がピンチって知らないよ?』
『いやー!いやぁぁっ!』
ガチャガチャと四肢を拘束している鎖が音を立てる。
が、音を立てるだけで何も変化はない。
そして、火花は爆竹まで10センチへと近づく。
『うわー、人間花火って見るの初めてー』
『い……』
忍足桐江は叫び声を上げた。

やあパパバパアパパパババアァパパパパパッ
しかし、声の大半は爆竹の炸裂音によってかき消された。
プスプスと膣から煙を上げていく。
『……ぁ……あ……』
膣からだらりと血が垂れ落ちる。
そして、黄金色の液体が放物線を描いて放たれた。
『あー、惜しかったねーうまくいけばおしっこで火が消えたのに』
大石穂香の発言に忍足桐江は何の反応もなかった。
爆竹によって放心なのか気絶なのかわからない状態に陥っていた。
『あれ、白目むいちゃってる。んもー、これからがメインイベントなのにダメだよー?』
忍足桐江の両足にそれぞれロープをつけた。
『これはねー、今これを見てる中島さんと郷田さんからは見えないけど、走る装置に繋がってるんだ』
大石穂香はリモコンを取り出す。
『このリモコンにボタンを押すとそれぞれの機械が同時に走り出すの。それぞれ忍足さんの反対にね』
大石穂香はにこっと笑う。
『つ・ま・り、忍足さんはさけるチーズみたいにびりーっと裂けちゃうの。すごいでしょ?』
大石穂香は忍足桐江を見る。
『だけど残念だねー、忍足さんあんなんだからリアクションしなさそうなんだ』
ふう、と溜息をつく。
『もうちょっと爆竹を減らせば良かったかな?まあいいや』
大石穂香はリモコンのボタンに指をかける。
『それじゃ、処刑スタート!』
機械が轟音を上げる。
それぞれの足に付いているロープがピンと張る。
直後、股間から一気に忍足桐江の肉体がぶちゃあっという音と共に裂けた。
筋肉、内臓、血が部屋中に散乱する。
『わー、やっぱり爆竹よりもこっちの方が派手だねー』
返り血を浴びた大石穂香が画面内に現れる。
その姿は人の恰好をした悪魔のように見える。
『はーい、それじゃ次は中島さんか郷田さんの番だね』