郷田琴美

教室のドアが開いた。
この部屋から逃げるように出た。
逃げなきゃ。
どこへ?
下へ降りてもきっといる。
上にいてもきっといる。
わからない。
『どうして!』
私は叫ぶ。
『どうして私がこんな目に遭うの!?』
全てがわからない。
何故、何故、なぜ。
無我夢中で走った。
その先は、行き止まりだった。
自分がどこを走ってきたのかわからない。
『ねえ、郷田さん』
声がした。
『ヒッ!』
反射的に壁を背にして振り向いた。
いた。
近づいてきている。
『あなたは、何もしていないって思ってるんでしょ?』
遠くの階段から降りてきた。
『でもね、何もしていないって事が悪いんだよ?』
一歩ずつ近づいてきてる。
『助けてって信号を出してたのに』
近づいている。
『わたし…わたし…っ』
大石穂香の距離は目前だった。
『ねえ、あなたはどんな処刑がいい?』
足音が私を壊そうとしている。
『おっきな犬達に犯されたい?飢えた猛獣に食われたい?ちょっとずつ肉体を切断されたい?』
もう、死ぬしかないの?
『………………ごめんなさい』
もう、この言葉しか出なかった。
『ごめんなさい…ごめんなさいっ…』
何に対して謝っているのわからなかった。
大石穂香に対してなのか、いじめをした3人に代わって謝っているのか、それともこれから死んでしまう事に両親に謝っている事なのか。
『………それで正解だよ、郷田さん』
大石穂香が妙な言葉を発した。
正解。
何が正解なのだろうか。
何もしていないのに。
『せいかいって……大石さん……一体……』
わからない。
『…あとは、最後の仕上げだよ』
大石穂香が何かを取り出した。
直後、私の腹部に『何か』を突いた。
その瞬間、全身を衝撃が走る。
意識が遠くなる。

正解?
仕上げ?
……大石さん?