意識がゆっくりと戻ってくる。
……たしか、大石穂香に捕まって……。
処刑。
その言葉で一瞬で意識が戻る。
目を開けて、最初に視界に入ったのは壁がすぐ横にあった。
…壁ではない、床だ。
あの3人と一緒にいた教室だ。
倒れている。
拘束されているのでは、と思ったがあの3人の時と違って縛られていなかった。
手もあるし、足もある。
何もされていない。
一体どういう事なのだろうか。
立ち上がるとそれに呼応するかのようにモニターの電源が点いた。
モニターに映っていたのは、大石穂香ではなかった。
女性であるのは同じだが、頬はこけ、明らかに何らかの病気に侵されている。
一体誰なのだろうか。
『目が覚めたみたいだね、郷田さん』
自分の中に衝撃が走る。
大石穂香の声。
別人なのに。
『驚くのも無理はないよ、あれは化粧で誤魔化していたから』
すると、この人物が本当の大石穂香なのか。
『この姿を見たらわかると思うけど、私ね…末期の癌なんだ』
癌。
それなら納得できるが、大石穂香は自分と同じ歳のはず。
こんな若さで癌になるのはありえない。
『高校3年の頃からかな、体中が痛み出したの。その時は癌だって思わなかった』
確かにそうだろう。
癌なんてありえない歳だ。
『その後、私の両親が事故で死んじゃったの』
衝撃の事実の連発に絶句した。
不幸が不幸を呼び、悪夢であってほしい絶望が大石穂香を襲ったのだ。
『両親の保険金、そして私が癌になる前から入っていた生命保険のお金が私のところに入ったの』
大石穂香の言葉で全てがわかった。
その莫大な財産で今回の殺人ゲームを行う決意をしたのだ。
『郷田さんの考えてる通り、このゲームを考えたの。復讐しようって』
そして、自分達が呼ばれた。
『でも、私をいじめた事を謝ってくれるなら、その人は帰らせる気だったの』
殺人ゲームのルール説明の時に言っていたある事とは謝る事だったのか。
私はとっさに謝ったから生きのびたのか。
そうすると、3人が殺されたのも納得がいく。
『でも、あの3人は私をいじめた事に何の罪も感じなかった。もし罪の意識があるなら謝ったはず』
大石穂香の言葉に何も言えなかった。
復讐されて当然の行為を3人はしてきたのだ。
『そして、郷田さん、あなたは生き残った』
ふと、大石穂香の後ろに気づいた。
何かがぶらさがっている。
しかし大石穂香がいるためはっきりと見えない。
『……このゲームはもうおしまいだよ』
大石穂香が後ろに移動した。
その時、後ろにあった何かが見えた。
ロープが天井から吊り下げられている。
そして先端は、大石穂香の頭より少し高い位置に、輪の形状にして結ばれていた。
まさか。
大石穂香はその輪の左右を掴む。
自殺する気だ。
『大石さん!やめて!あなたが死ぬ必要なんてないよ!』
『…もう、私の身体は1年持たないの。病気でもなく、裁判で死刑でもなく自分の意思で死にたいの』
止めなければ。
ドアの反対側の壁から走り、ドアに体当たりする。
『ああっ!』
しかし、逆に弾かれるように飛ばされる。
『ごめんね、あなたは私を止めようとするって思ってたから、そのドアに細工してるの』
『ああぁぁっ!』
自分でも何を言っているのかわからない。
近くにあった椅子をドアに投げる。
やはりびくともしない。
自動的に動いていたからただのドアではなかった。
『……さよなら』
大石穂香は輪に顔を通し、乗っていた椅子を蹴り倒した。
『………やめてよ』
『ぐっ……がっ………ぐぁ……』
大石穂香の苦しむ声が聞こえてくる。
『…どうして』
『く…………こ…………か…………ぁ………』
『どうしてあなたがしななきゃならないのよっ!!』
『………………………………』
大石穂香の声はなかった。
そして、ゆらん、ゆらんと振り子のように揺れる大石穂香の身体。
『うわああああんっ!』
泣き叫んだ。
どうしようもない悲しさ。
すぐそこに助けられるのに、助けられない。
声の限り、私は泣いた。
泣き疲れて、いつのまにか寝ていた。
サイレンの音で目が覚めた。
音はこちらに近づいてきている。
大石穂香は事前に連絡をしていたのだろう。
けれど、そんな事はどうでもよかった。
ただ、たった一つの大きな疑問が自分の中に残った。
『イノチ…って…なんなの』
その疑問を口にした。
しかし、疑問に答えてくれる人は誰もいなかった。