仕事に出かける。
仕事をする。
家に帰る。
寝る。
起きる。
仕事に出かける。
それの繰り返し。
テレビの電源をつけた。
ニュースが流れていた。
芸能関連のニュース。
どこかのタレントの恋愛報道のようだ。
テレビの電源を消した。
そして仕事に出かけた。
翌日。
テレビの電源をつけた。
昨日と同じ様にニュースが流れていた。
芸能関連のニュース。
どこかのタレントの恋愛報道。
昨日と同じ内容。
それもまったく同じ。
違和感、というより疑問を感じた。
キャスターの喋りもまったく同じなのはありえない。
変わった事もあるものだ。
そう思いながら仕事に出かけた。
翌日。
テレビの電源をつけた。
ニュースが流れていた。
一昨日と昨日と同じタレントの恋愛報道。
キャスターもまったく同じ喋り。
……同じ日が続いている。
携帯電話を取り出し、待ちうけ画面を見た。
日付を確認して、仕事に出かけた。
翌日。
テレビはつけずに、携帯電話の画面を見た。
同じ日。
すぐさまテレビの電源をつけた。
やはり同じニュース。
同じ日が、繰り返されている。
いつからだろう。
わからない。
だが、確かにわかるのは同じが繰り返されているという事。
翌日。
職場に電話をし、仕事を休みにしてもらった。
同じ日が続くのならば問題はないだろう。
遊びに出かけた。
翌日。
そして翌日。
さらに翌日。
財布の中身を見た。
金額はまったく変動していない。
減りはしないが、増えもしない。
一昨日パチンコ店に行き、出ている台を覚えて昨日打ちにいって儲けたのに。
同じ日が繰り返されているのだから、当然と言えば当然だった。
すでに職場には休みの連絡はしていなかった。
どうせ繰り返すのだからいちいち連絡する必要は無い。
寝る直前に、自分の爪を切ってみた。
自分の肉体をテストしてみるとしよう。
翌日。
起きてすぐ切ったはずの爪を見た。
伸びていた。
いや、元に戻っていた。
身体も元に戻る。
ただ違うのは記憶だけ。
今の状況をおさらいすると、
同じ日が繰り返されている。
出来事も繰り返されている。
金銭及び肉体も繰り返されている。
イメージとしては23時59分59秒になった直後にリセットされるようだ。
……いくつか考えている事がある。
願望だ。
それも実際にやってはいけない願望。
すなわち、犯罪。
ただ、それらを実行するにはまだ確かめる事がある。
携帯電話を取り出し、電話帳を引っぱり出してホテルの項目を調べる。
ホテルの予約をして、そのホテルのベッドで寝てみた。
翌日。
目が覚める。
目を開けると、ホテルではなかった。
いつもの自分の部屋。
寝れば必ず自分の部屋に戻れる。
これで下調べは済んだ。
あとは実行に起こすだけ。
翌日。
レンタカーを手配した。
学校へと向かう小学生を眺める。
1人の低学年と思われる女子を見つけた。
呼びかけると、素直にこちらへ来た。
腕をつかみ、車の中に引きずり込む。
一気にアクセルを踏み、その場から立ち去る。
女子の服を破るように脱がし、肢体を観察する。
大人でも問題はないが、小学生なら非力かつ小柄なので拉致をするのは簡単だった。
裸を見るのはずいぶん久々な気がした。
泣き喚く女子。
その声はノイズには聞こえず、より興奮を増幅させるサウンドだった。
あらゆる部分をまさぐるように触り、舐め、犯した。
欲望を吐き出した後の女子は泣いておらず、放心していた。
そのまま女子を置き去りにして、車を発進させた。
どうせこの女子はリセットされて帰るからだ。
翌日。
再びレンタカーを借り、適当な街へと向かった。
その途中、家を見つけた。
周囲の人通りも少なく、燃えやすい木造建築。
事前に持ってきた灯油タンクを後部座席から取り出し、家にぶちまける。
ライターで火をつける。
瞬く間に火は広がっていく。
その場を離れ、車の中から燃えていく様子を眺める。
燃えている玄関から飛び出すように男が出る。
その直後、家は火に蹂躙されつくし、崩れ落ちた。
車のアクセルを踏んだ。
翌日。
前日の出来事を思い出す。
男の動きが滑稽に感じた。
もっと窮地に陥った人間を見てみたい。
それも沢山。
通り魔による大量殺人。
考えたらそのプランに辿りついた。
どうせ殺される人間はまたリセットされるのだから問題は無い。
近所のホームセンターで包丁を購入。
殺せる道具ならなんでも良かった。
街へと繰り出し、昼頃まで待つ。
時間が経つ毎に人が増えていく。
横断歩道の信号が青に変わった。
………もういいか。
待ち飽きた。
早く殺したい。
ゆっくりと立ち上がり、人ごみに向かって走る。
包丁を抜き、目標を選ぶ。
10代と思われる女性を見つける。
まずはこいつ。
女性は自分に気づかない。
そしてこれから殺される事も。
どんっとぶつかった瞬間、包丁を腹部に刺す。
服を破り、柔らかい人体にずぶりと入る感覚が手に伝わる。
女性が腹部を見た。
直後、ざあっと顔を青ざめ、その場に崩れ落ちる。
その光景を見た別の女性が叫ぶ。
叫びを無視して、次のターゲットを探す。
もう誰でも良かった。
殺せればいいのだから。
近くにいた中年の男性を狙う。
女性と同様に腹部を狙おうとしたが、鞄を持っていたため、狙えない。
瞬時に鞄を持っている腕を切りつける。
その痛みに思わず鞄を落とす。
がらあきになった腹部を突き刺す。
二人目。
三人目。四人目。
五人目。
六人目を探そうとした時、地面が起き上がるように見えた。
違う。
押し倒された。
誰かが阻止しようと止めたようだ。
今日はここまでか。
そのまま警察に捕まり、聴取を受ける。
動機を聞かれ、『殺したいから殺した』と言った。
復讐でも何でもない。
欲望をそのまま行動に起こしただけなのだから。
午後11時頃に署内の留置場に入られ、そのまま横になった。
ずいぶん堅くて冷たい。
けれど、目が覚めたら自分の部屋にいるのだからまあいいか。
目が覚めると、当然のように自分の部屋にいた。
………そろそろこの状況に飽きてきた。
やりたい事はやったし、もういいだろう。
何でもない日常が輝きを放っているように感じる。
この日常を抜け出せなければ。
………。
ふと、疑問が思い浮かんだ。
寝たらリセットされる。
では、寝ないで午前0時を迎えたらどうなるのか?
おそらく、これがこの日常を抜け出す方法なのかもしれない。
かつての日常のように仕事に出かけた。
そして帰ってきた。
あとは寝ないだけだ。
時計を見た。
午後11時55分。
そろそろ日付が変わる。
テレビを消して、携帯の画面を見る。
テレビでは時間が表示されても日付までは表示されない。
時間が長く感じる。
11:56
待つのがこんなにも大変とは思わなかった。
11:57
あと3分。
11:58
もう少し。
11:59
0:00
日付を見た。
変わっていた。
やっと終わった。
いつもの日常に。
安堵の溜息をつき、瞼を閉じた。
目が覚めた。
というより覚まされた。
なんだか外が騒がしい。
何か事件でもあったのだろうか。
それに昨日はこんなに騒がしくなかった。
ちゃんとした日常に戻ってきた証拠だ。
窓のカーテンを開けた。
直後、光が襲った。
何十ものフラッシュ。
カメラか何か。
すぐにカーテンを閉めた。
どういう事だ。
わからない。
テレビをつける。
ニュースが流れていた。
どこかの家が映っている。
窓のカーテンを開けた男は、フラッシュに怯んでカーテンを閉めた。
その男は見覚えがある。
誰だろう。
いや、この家も見覚えがある。
どうやらこの男は少女誘拐、放火、大量殺人等多くの犯罪を起こしたようだ。
見覚えがあ
した覚えがあった。
おかしい。
昨日は何でもなかったのに。
昨日は何もしていない。
昨日は
携帯の着信が鳴る。
着信の音色がやたら不気味に感じる。
おそるおそる携帯を手にし、通話ボタンを押した。
誰かの声が聞こえる。
聞き覚え
いや、この声で話した覚えがある。
自分の声だ。
声がした。
『日常は、日常だよ』
電話の先の声か、それとも自分が発した声なのか。
わからない。
けど、聞き覚えは確かにあった。