葵「はあ……はあ…」
静かだった。
住宅街にいるにも関わらず、人気はなかった。
まるで別世界に迷い込んだようだった。
先程から『あいつ』から逃げているが、『あいつ』の足音が耳から消えない。
葵「はあっ…はあっ…」
息が切れた。
足が動かない。
足が棒のようになる、というのは聞いた事があるが、まさにこのような状態なのだろう。
コツ……コツ…
足音は消えてなかった。
何故聞こえる。
その音に耐え切れず、
葵「どこにいやがる!涼!!」
叫んだ。
コツ…。
足音が止まった。
周囲を見回す。
だが涼の姿はない。
何かが頭上に刺さった気がする。
実際には当たっていないが、何かが刺さった。
殺気。
バッ、とその場から飛び退く。
飛び退いた瞬間、チュインという音が地面からした。
だが、そのチュインという音が鳴る直前、発砲音がした。
銃で狙撃された。
先程の殺気を感じた方を向く。
いた。
涼は家の屋根に登っていた。
葵「涼!」
涼のところへ行こうとした。
涼「動くな。これ以上無駄玉を撃たせるなよ」
涼は右手に何かを持ち、それをこちらに向ける。
手にしているのは、先程の音の主である拳銃だった。
涼「最近のゲームみたいに無制限ってわけじゃねえし、リロードだってあるんだ」
葵「何でだ!何で俺を殺そうとする!!」
涼「…ああ?」
パンッ
音と同時に葵の足元でチュインという音がした。
涼「ったく、これで2発目だぞ。2発も無駄にしやがって…」
愚痴を続ける涼。
涼「まあいいや。教えてやる」
涼は口元を歪ませた。
涼「殺したいからだよ」
パンッ
拳銃から放たれた弾丸は、葵の胸元に侵入した。
葵「ぐ………」
葵は前のめりに倒れる。
涼は葵が倒れるのを見て、屋根から飛び降りる。
倒れている葵に近づく。
葵「う…あ゛…」
涼「まだ生きてるか。まあもうじき死ぬんだろうけど」
葵「誰が…てめ…の……な……かよ」
葵の手が涼の首元に走る。
キンッ
葵の手にしたものはナイフだった。
そのナイフは涼の首をえぐる予定だった。
だが、そのナイフの予定は涼の手にしていた銃で遮られた。
涼「予想はしていた」
涼の残りの手はズボンのポケットにいた。
その手から、2つ目の銃を取り出した。
涼「大人しく死んでおけよ。和佳奈さんも待ってるぜ」
涼は引き金を引いた。