柘榴

目の前に扉がある。
それも大きな扉だ。
建物…いや、館と言った方が正しい。
館の中へと通じる扉。
扉をぐっと押してみる。
ゆっくりとその扉は開き、館を開放した。

館の中は暗かった。
明かりが点いていなかった。
明かりはどこだろう。
中へと入り、壁を見る。
だが、壁も暗く見えない。
壁に手をのばす。
壁の感触はあった。
が、ぬるっという液体が手についた。
その液体のついた指を見る。
赤い液体がついている。
血だ。
血特有のねばり気、そして暖かみがある。
なぜこんなところについているのか。
そう思った時、首元に光る何かが見えた。
あ、刃物だ。
そう認識した瞬間、視点は宙を舞っていた。
地面が近づいている。
着地しなければ。
しかし、その意志に体は動かなかった。
そのまま地面に激突した。
そこから見える景色は異常なものだった。
自分の体がそこにあった。
首から上は、顔の代わりに血の噴水があった。
びゅうっ、びゅうっと血が鮮やかに噴いている。
そのしぶきが顔に当たる。
そのしぶきで、やっと気付いた。
私は…死んだんだ。

扉が前にあった。
一度通ったはずの扉があった。
確かに首を斬られたはず。
斬られた部分を触るが、なんともない。
扉を開けた。

館の中はやはり暗かった。
壁に触ろうとする気は起きなかった。
また再び首を狩られるからだ。
狩られるとわかってて触る馬鹿はいない。
周辺を見まわす。
ここはホールのようだ。
あとは2階へと続く階段と部屋ぐらいしか見えない。
部屋に入ろうとする気は起きなかった。
開けた途端、再び狩られるかもしれないからだ。
後は階段しかない。
階段を昇っていく。
昇り終えると、2階はかなり広かった。
奥の方に扉が見える。
左右を見ると、どちらにも扉があった。
改めて奥の扉を見る。
奥に行きたいとは思えない。
奥へ行くと戻れない気がした。
とりあえず左の扉を開ける事にした。

ドアノブに手をかける。
ノブを回そうとした瞬間、指の感覚がなくなった。
回そうとした手、左手を見た。
ない。
指がない。
指だけではない、左手そのものがない。
切り落とされた手首からだらしなく血が吹き出る。
左手が床に落ちていた。
しかし指はなかった。
ドアノブには指が残っていた。
ノブに仕掛けられた刃物にひっかかっている。
そしてノブは勝手に回り出し、ドアが開いた。
次の瞬間、ドアの向こうから刃物が飛び出た。
避ける間もなかった。
腹部を貫いた。
吐き気が込み上げる。
耐える間もなく、吐いた。
胃液ではなかった。
血だ。
その血は洋服、そして刃物に付いた。
その血に反応したのか、刃物は刺さったままぐるりと回転した。
ぐちゃあと自分の内臓がえぐられている感覚があった。
刃物が回転が止まった。
刃の方向は上へ、つまりこのまま振り上げれば上にあるもの全てが斬られる。
『いや……いや…』
しかし刃物は冷酷だった。
刃物は一気に真上へと動いた。
『い…や…』
内臓、骨、心臓、全てがぶちぶちと千切れていく。
『あああああっ!!』
刃物は肩をも切り裂き、宙を舞った。
そしてそれと同時に斬られた箇所から派手に血を吹いた。
そして意識は断ち切られた。

目の前に扉がある。
あの館へ入る扉が。
斬られたはずの肩を触る。
なんともない。
そして左手もある。
……………繰り返している。
死んではこの扉へと戻っている。
逆に言えば、死ななければこの扉の前に立っている事はなくなる。
この館を死なずに抜ければこの悪夢から抜け出せる。

扉を開け、階段を登る。
左の扉はアウト。
となると奥にある扉か右の扉。
迷わず奥の扉へと向かった。
前は戻れないと思っていた。
それが正解なんだ。
この悪夢から逃れられるという意味合いがあった。
ドアノブの手をかける。
罠はない。
ドアノブを回し、扉を開けた。
扉の向こう側から光が差し込んだ。
まぶしい。
光に目が慣れ、扉の向こう側へ足を踏み込んだ。
扉の向こう側は光り輝いていた。
プリズムの部屋だった。
部屋の真ん中に階段があった。
階段も輝いていた。
その階段の最上段には扉があった。
その扉も輝いてた。
きっと出口だ。
この悪夢から抜け出せる唯一の脱出口。
輝く階段を登り、輝く扉のドアノブに手をのばす。
ドアノブをつかむ。
これで、抜け出せるんだ。
希望でいっぱいだった。
ドアノブに力を込め、扉を開けた。

扉が、ある。
あの扉が、ある。
もう現れないはずの扉が、ある。
悪夢に戻ってしまったあの扉が、ある。
『どうして…』
あの輝く扉を開けて、終わったはず。
この悪夢から、抜け出せたはず。
『いや……いやあ…』
手は自然と扉に手をかけていた。
いや、手が勝手に動いている。
『いやっ!もういやあっ!』
手は扉を押し、扉は開いた。
繰り返される悪夢はまだ終わらない。
いや、永久に終わらない。
『いやあああああ―――――っっ!!』
そして扉は言葉をかき消すかのように音をたてて閉じた。

後書き

今回はちんぷんかんぷんだと思われます。
今度の座談会にて解説をしようと思っています。
基本的にAirは理解を求めるプロジェクトではありません。
言葉にできないものを感じてもらうプロジェクトです。
それでは次回にて。