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3日間の出張から帰り、家についた。
玄関に入り、声をかける。
涼「ただいまー」
綾「あっ、あなた。お帰りなさい」
まだ『あなた』と呼ぶのは慣れていないようだ。
しかし、綾の姿はなく、声だけだった。
どこかの部屋にいるのだろう。
ガラッ。
居間の戸を開けると、綾がいた。
涼「ああ、ここにいたのか、あ……ゃ…」
次の光景を見て、言葉が止まった。
綾が赤ん坊を抱きかかえていた。
一瞬、俺の中で時が止まる。
綾「………あの………涼さん?」
綾の言葉ではっとなり、綾に聞いてみた。
涼「なあ、子供は3日で妊娠して腹が膨れて生まれて退院できるものなのかな?」
綾「ち、違いますよ」
赤くなりながら綾はこの赤ん坊の事を説明した。



この赤ん坊はお隣さんのだが、お隣さんが結婚3年目ということで記念旅行に行くのだが、赤ん坊を連れていくかどうかで考えていた。
その話をたまたま聞いた綾はその間預かってもいいと言ったため、こうなった。
涼「なるほど………で、お隣さんはいつ帰ってくるの?」
綾「明日の昼頃です」
涼「そっか…………えーと、今は夕方か………、赤ん坊の御飯は済ませた?」
綾「ええ、先程」
ふと、赤ん坊が声を上げた。
泣き声ではなく、一言という感じの声だった。
綾「うん、どうしたの?」
綾が赤ん坊に聞く。
赤ん坊と戯れるというのは今まで見たことがなく、斬新さがあった。
涼「かわいいな…………」
綾「ですね………無邪気ですから……」
涼「いや、綾もだよ」
綾「もう…………」
綾は真っ赤になりながら言った。
さてと、これからどうするかな……。
そう考えた時、赤ん坊に後ろ髪をひっぱられた。
涼「痛っ」
綾「あっ、大丈夫ですか」
涼「ああ、大丈夫」
まあ赤ん坊のやることだから怒らないが。
何度もひっぱるのを見ると、どうも俺をおもちゃのようにしている。



そして夜。
晩御飯も済ましたので特にやることがなかった。
とりあえず赤ん坊でもあやすことにしよう。
赤ん坊の所に行くと、赤ん坊が寝ていた。
うかつに起こすと泣き出しそうだ、やめておこう。
………3日間綾がいなかったのは精神的にかなり辛かったな。
今夜、相手してもらおうかな。
綾の首をつつこうと思ったが、やめた。
首をつつくのが行為の合図になっている。
やっている最中泣き出されたらさすがに萎える。
今晩は………我慢するか。



そして寝ている時だった。
赤ん坊が泣き出した。
目覚まし時計並のうるささだった。
涼「う………泣き出したか」
すぐさま赤ん坊の所に行ってあやす。
涼「よしよし、どうした?」
しかし、赤ん坊は泣くのをやめない。
ふと、ある本に書かれていたのを思い出した。
そういえば赤ん坊の食事は3回だけではなく何度も取るそうだ。
涼「綾、おなかが減っているみたいだ」
綾「はい、すぐに作ります」



幸い予想は当たり、ミルクを入れた哺乳ビンを渡すとすごい勢いで飲んでいった。
さて、後はげっぷか。
背中をポンポンを軽く叩くと出た。
涼「ふう………」
綾「なんとか泣き止みましたね」
涼「ああ」
赤ん坊は欲求が満たされたのか、すぐに寝入った。
綾「ふふ、かわいい寝顔ですね」
涼「そうだな………」
再び床に入った。



信「どうしたんじゃ、その髪型は」
涼「ええ、お隣さんの赤ん坊にちょっとひっぱられて、それでそろそろ切ろうかなと……」
信「なにもそんなにバッサリ切ることも………」
涼「まあ、俺もいい年ですからね」
腰ぐらいまであった後ろ髪はすっかりなくなり、短髪のツーブロック気味だった。
おそらく、友人に会ったら誰?って言われそうだな。
信「で、どうじゃ。初めて赤ん坊と接した感想は?」
涼「まあ、赤ん坊はかわいいですからね。苦にはなりませんよ」
信「ふむ………で、実際に子供を作ることは?」
涼「…………………まあ…………子作り作業はしてますけども…………」
赤くなりつつ言った。
信「じゃあ、いつかはわしにとってはひ孫が生まれるのじゃな」
涼「実はそこなんですよ」
信「ふむ、綾のことか」
涼「はい、あいつは元々体が弱いほうですから、産む時ってすごい苦しむって聞いていますよ」
信「やはり綾が苦しむのは見たくないと」
涼「………はい」
信「まあ、それはじっくり考えるがよかろう」
涼「…ですね」
信「ところで、赤ん坊は?」
涼「俺はこれから仕事ですから、綾に任せています」
信「ふむ、そうか」



仕事が終わり、そのまま帰宅した。
涼「ただいまー」
綾「お帰りなさい、あなた」
涼「赤ん坊、帰っちゃったか……」
綾「ええ……」
涼「そっか……最後にお別れのあいさつしようと思っていたのに……」
綾「お隣さんですよ。明日にも会えますよ、きっと」
涼「それもそうか…………」
ふーと溜め息をついた。
涼「なあ、綾」
綾「はい?」
涼「さっきまで考えていたんだけど、もし、俺達に子供が生まれたとして、男か女、どっちがいいんだろうって」
綾「え?」
涼「仮に男だったら外でキャッチボールとかできて楽しいんだけど、その息子が結婚した時にさめざめと泣けないんだよね」
綾「…じゃあ、女の子が生まれたら?」
涼「キャッチボールはできないけど結婚の時にさめざめと泣けるんだよな。お父さん、今までありがとうっていう感じで。ただ………」
綾「ただ?」
涼「産まれた段階でこの子はどんな男に抱かれるんだろうって思うデメリットがあるんだ」
綾「………くすっ」
涼「えー、何も笑うことは………」
綾「いえ、涼さんらしいなって………」



夜。
赤ん坊もいないことだし…………と、いいたいところだが、綾は昼まで赤ん坊の世話をしていた。
きっと慣れないことで疲れているかもしれないから、今日もやめるとするか………。
そう思っていた時だった。
トントンと、首に何かが当たった。
んっと後ろを振り向く。
そこには、綾がいた。
さっきのは綾だった。
そして、さっきのは………………。
振り向いた段階で綾はすでに赤くなっていたが、俺を見た時にはさらに赤くなり、恥ずかしさのあまりに後ろから抱き付いてきた。
涼「綾……………………」
綾「…………………………………いやらしい女って…………………嫌いですか?」
涼「いや………俺はそう思わないよ」
体ごと振り向いて綾の方をじっと見る。
すでに綾は真っ赤になりつつもうっとりとした表情だった。
涼「俺だって無性に抱きたい時がある。それが今日は綾の時にきた。それに…………」
そっと唇にキスをする。
涼「そういうところもある綾が好きだよ」
綾「涼さん…………」
涼「愛してる………………綾」
再び口づけをした。


後書き

いきなりですけども、綾には子供は産ませません。
出産というのは人生の中で最も苦痛だそうです。
男にはわからんでしょうね………。
ただし、金的くらった時の痛みは女にはわからんでしょうけども(笑)。
さて、ここで前編終了です。
一応話はここで終わりますが、この話のアフターがありますので前編みたいなものになっています。
ただ、続きは18禁と作者がお勧めできないと言うほどの(笑)19禁があります。
一応メインが18禁ですので、19禁は『まあこういう愛し方もありか』と考えてもらってもらえるとありがたいです。
さて、それでは次回作は2001年夏になりますので気長にお待ち下さい。