彼女のいない日々 完結編

カタカタカタ…
ミシン音が延々と続く。
カタカタカタ。
音が止まる。
先程ミシンで縫っていたのはファスナーの部分。
全体の形は円柱。
長さはおよそ1メートル、直径はおよそ40センチ。
真ん中につけられたファスナーをぴーっと開ける。
中に綿をもふもふと入れる。
中身が綿でぱんぱんになったところでファスナーを閉める。
これで抱き枕の完成。
綾母「あら、何を作っているの?」
綾「ええ、抱き枕です」
綾母「…」
とりあえず抱き心地を堪能している綾を遠い目で見るしかなかった。
すっかり変わったようだ。
これも涼のおかげというか、せいなのか。

単身赴任開始から1週間経過。
綾「それじゃ、行ってきますね」
綾母「夜までには帰るのよ」
綾「わかりました」
綾は駅へと向かっていった。
行き先はもちろん涼の所。
そもそも日帰りで行くきっかけは綾母の一言。
涼といちゃいちゃできないのをゴネている綾に対して、『そんなに遠くないし、日帰りで行ってみたら?』という一言が、原動力になったようだ。
抱き枕の耐久性は一週間程度だった。
ちょっとした出張なら耐えれる程。
それ以上は抱き枕では満足できないようだ。

そして一ヶ月が経過。
抱き枕、ゴネる、抱き枕、ゴネるの繰り返しによってギリギリを保ち続けてきた。
今日、単身赴任から帰ってくる事はすでに耳に入っていた。
単身赴任終了記念として涼の好物を作っている。
あとは帰ってくるのを待つだけだ。
一ヶ月振りに見る地元の町並みを眺めつつ、足は家路へ向かう。
そんな映像が頭の中で流れる。
時計を見た。
もうそろそろ帰ってくるだろう。
そう考えていた時、

ピンポーン

ドアホンが鳴った。
帰ってきた。
調理中だったのですぐにコンロの火を消し、玄関へと急いだ。
玄関が見える。
そこには涼がいた。
あれから三週間。
ずっと会いたかった人。
ずっと一緒にいたかった人。
ずっと愛している人。
感極まって、ばっと抱きついた。
あなたはそれを抱きとめる。
ずっと待っていたぬくもりがここにあった。
あなたは私の耳元でささやく。

ただいま。

聞きたかった声。
そして私は、あなたが聞きたがっているだろう声を出した。

おかえりなさい。

後書き

後書き
というわけで中編小説(笑)は終了でございます。
ちなみに、最後のやりとりは有名なアニメのシーンからだったりします(実際はちょっと違うんですけどね)。
普通の方なら他にもっと有名なシーンを挙げるんでしょうけどね。俺はこのシーンがやたら印象に残っています。
さて…突然ではありますがしばらく綾の小説をお休みさせていただきます。
ちょっと他のプロジェクトに専念+ネタ切れという状況に陥っています。
ただ、EXEは書きますので綾は書かないわけではありませんので。
それでは次回にて。