KISS -16th-

トゥルルル…
電話のベルが鳴る。
誰からだろうと思いつつ、受話器を取る。
綾「はい、如月です」
『綾?涼だけど』
出張中の涼からだった。
いつもは電話をしてこないのだが。
綾「どうかしましたか?」
涼「うん、ちょっと綾の声が聞きたくて…」
…それは私も同じ。
綾「…私もです」
出張してから2日が経過している。
声を聞きたいという気持ちはお互いにあったようだ。
涼の声を聞いて、少しではあるが寂しさは消えたようだ。
涼「…ねえ、綾」
綾「…何です?」
涼「…寂しい?」
…同じ場所にはいなくても、この人は私の心が見えているのだろう。
綾「…はい」
否定はしない。
嘘をついたら、きっと後悔するから。
涼「んー…、じゃあさ、俺が合図したら5秒後に受話器の聞く方に口をつけてほしいんだ」
綾「聞く方に、ですか?」
涼「うん。じゃあいくよ」
どんな意味があるのかわからなかった。
とりあえず涼の言う通りにして、受話器に口をつける。
口をつけた瞬間、やっと理解した。
自分は聞く方に口をつけ、涼は話す方に口をつける事でキスが成立する。
聞く方に口をつけているため、聞く事はできない。
けど、キスをしているのは確かにわかる。
しばらくして、口を聞く方から離し、再び本来の受話器のポジションへ戻す。
綾「もしもし」
涼「…まだ寂しい?」
綾「…大丈夫です」
涼「あと3日あるけど、大丈夫?」
綾「はい。頑張れます」
涼「そっか、良かった。じゃあ、ぼちぼち切るよ」
綾「はい…あ、涼さん」
涼「うん?」
綾「ありがとうございます」
涼「…どういたしまして」
電話を切った。
電話越しのキスではあるが、温もりがまだ残った唇を指で軽くなぞる。
寂しさはなかった。
寂しさの代わりに存在するのはあと3日で涼が帰ってくるという楽しみがあった。
帰ってきたらいっぱいの笑顔で迎えよう。
それがあの人に対する精一杯の感謝なのだから。

後書き

実に3年振りのKISSシリーズになります。
今回のネタは『キミキス』から思い浮かんだものです。
ギャルゲーをやればネタになるというわけではないのですが、何らかの作品に触れる事で刺激を受けて作品の構想が出来上がるものだと実感しました。
当たり前の事(だと思っています)ではありますが、それがいかに大切な事であるかを学んだと思います。
それでは次回にて。