KISS -3rd-

綾と一緒にテレビを見ていた。
コーヒーを飲みつつ、時計を見た。
11時を過ぎていた。
しかし、今見ているテレビには2年程前の映画が放送されている。
放送されている映画の放映時間が通常よりも長いのだ。
確かその年で一番人気になった恋愛モノの映画だ。
実は当時の映画を見た事はなかったが、いざ見てみると結構面白い。
結末は聞いていたのだが、実際に見るとモノ悲しい。
将来を語り合っていたカップルの内、男の方が死んでしまい、女の方が生き残るという結末だ。
……何か、似ている。
俺と綾の関係だ。
死んではいないが、事故で綾が意識不明になっていた。
絶望。
劇中の彼女もそう感じたのだろうか。
だが、恋人の死を乗り越えて彼女は生き残った。
…………………もし、あの時……………。
いや、やめておこう。
今、ここにあるのが全てだ。
隣には綾がいる。
俺には彼女を幸せにする事が全てだ。
ふと、綾の方を向くと、綾が涙ぐんでいた。
今見ているシーンは恋人である男が死んだ瞬間のシーンだった。
男の俺が見ていても悲痛なシーンだ。
ハンカチを取り出し、そっと綾の目元に当て、涙を拭き取る。
涙は見たくなかった。
そっと手を綾の肩に回し、くいっと引き寄せる。
綾の頭が俺の肩に当たるようにした。
なんとなく、無性にしたくなった。
今見ている映画の影響だろうか。
そしてそのまま、優しく頭を撫でた。
綾の方も、心地が良いのか、こちらに身をゆだねた。

映画はもうすぐ終わりそうだった。
ふと、寝息が聞こえた。
綾の寝息だろう。
隣を見ると、やっぱりかという感じだ。
気持ち良さそうに寝ていた。
さて、どうするかな。
もうすぐ終わりそうだから起こすのもいいが、せっかく気持ち良さそうにしているから起こすのはやめようか……。
…………………………………………。

どうやら寝ていたようだ。
目を開けると、テレビはすでに映画を終了していた。
ふと、体を預けていた人の事を思い出した。
体を起き上がらせて、隣を見ると、涼は寝ていた。
ソファーにそのまま体を預けている。
ただ、寝顔はあまり心地よくなさそうだ。
きっと、横になれないからだろう。
涼の頭をそっと持ち、ゆっくりとこちらに傾けさせる。
ぽふっ、と頭が膝に落ち、膝枕の体制になった。
するとどうだろう、寝顔が穏やかになった。
コロコロと変わっていく表情がたまらなく好きだった。
高校の夏の時、ソファで寝ていた時を思い出す。

髪の毛を縛るヒモを探し、見つけて涼に知らせようとした時、すでに寝ていた。
気持ち良さそうに寝ていたので起こすのをやめ、隣に座った。
その衝撃で、涼の体がこちらに倒れてきて、ぽふっと膝に乗っかり、膝枕の状態になった。
その状態にどきりとし、恥ずかしいので起こそうとした時、ちょうど涼の寝顔をはっきりと見た。
幸せそうな顔をしていた。
起きている時には見せなかった表情だった。
しばらくその顔を見続けたかった。

あの時からだろうか。
私が涼さんに惚れたのは。
もし、あの顔を見せなかったら…………。
いや、やめておこう。
今、あの顔がここにある。
それで十分だ。
近くにあった毛布をかけ、そのまま寝れるようにした。
涼の幸せそうな寝顔を見てくすっと笑い、すっと顔を近付け、そして、
綾「お休みなさい。私の愛する人」
そっとキスをした。
テレビは今日の放送が終了である砂嵐が映っていた。

後書き

自分で言ってなんですが、今回はいい出来っぽいです。
こういうの書いてると『ああ、やっぱこういうのが好きなんだな』としみじみ思います。
涼達が見ていた映画ですが、9月頃に放送された『タイタニック』です。
実は映画はあんまり見ないタイプなので、ストーリーとか知らなかったんですよ(まあ沈没するというのは知ってましたけど)。
テレビで放送したのを見てやっとわかったわけです。
とは言うものの、2日にわけて放送されましたが2日と最後の辺りしか見てませんが(苦笑)。
さて、今回でネットに公開した小説の数がトータルで100本目になりました。
うーん、まさかここまで書いていたとは………。
まあ非公開の小説を入れると120を軽くオーバーなんですけども。
それでは次回にて。