お嬢様ですから

涼「…?何です、これ?」
澪主任から渡されたのはカップ焼きそば。
名前は『焼きそば弁当』
見たことのないパッケージだ。
澪「友人が北海道に旅行に行ったんだけど、うちではほとんど食べないのよ。もしよかったらもらってくれる?」
涼「別にいいですよ。北海道の…限定商品ってやつですか」
どうりで見た事がないわけだ。

主任からもらったものの、食べる機会はほぼない。
昼間は日替わり弁当を頼んであるし、朝と夜は綾が作ってくれる。
まあ食べるのは緊急の時ぐらいか。

ところが、その緊急の時はあっさりと迎える。
仕事から帰ると、綾が悲しそうな顔をしていた。
涼「どうした、綾?」
綾「実は、今日ガス点検でコンロの火が使えないんです」
涼「…じゃあ、今日は生モノだけだから刺身のみ?」
綾「それが…その…お刺身を買おうとしたらどこの家も一緒みたいでお刺身が売り切れだったんです」
涼「…となると、米はひょっとして…」
我が家の米の調理はガスで炊く。
電子ジャーというものはございません。
綾「…晩御飯……ありません」
……良かった。
澪主任に感謝したい。
涼「お湯はある?」
綾「お湯は電子ポットなので沸かせますが…」
涼「それなら問題は無いな。今日ちょっと先輩から焼きそばをもらったんだ」
綾「焼きそば、ですか?」
涼「うん。お湯があれば作れるやつだから大丈夫」
焼きそばを綾に渡す。
綾「………………」
綾はじっと焼きそばを見る。
涼「…どうした?綾」
綾「…これ…どうやって作るんですか?」
……………。
………ああ、そうか。お嬢様だからな。
焼きそばとかカップ麺とか作った事は無いんだ。
…これもまた格差社会が生んだ悲劇とでも言うべきか。
涼「じゃあ、教えるよ。まず蓋を外してかやくとソースを取り出して」
綾「はい」
涼「で、かやくの袋を開けて容器の中に入れる。あ、袋の中身を」
綾「はっ、はい」
言わなければまんま袋ごと入れそうだった。
涼「で、お湯を入れる」
こぽこぽとお湯を注ぐ。
涼「ちょっと容器に段差みたいなのがあるでしょ?そこまでお湯を入れる。あとは3分ぐらいまっ…」
綾の方を見た。
ソースの袋を開けようとしている。
涼「待った!」
綾「きゃっ!」
涼「それは麺が柔らかくなってお湯を切ってから!」
綾「え?素麺みたいに薄めるんじゃないんですか?」
涼「原液のみ」
確かにソースの色はかなり黒いからそれっぽくは見えるんだけども。
いやー、お嬢様というのは面白い発想をしているな。
綾「難しいんですね。インスタント食品というのは」
涼「…いや、インスタントは簡単だから」
複雑なインスタント食品なんて聞いたことがない。
…お嬢様というのは色んな意味で素敵ですね。

後書き

よく考える…いえ、考えなくても綾はお嬢様です(笑)。
カップ麺とか焼きそばを食べる絵が想像つかないんですよね。
店屋物のそばとかは食べるんでしょうけども。
かやくは麺の下に入れるものでは?とツッコミがあると思われますが、最近のは具が上になってもお湯を切る時に邪魔にはならないように改良されています。
多分、そういうテクニックを披露すると綾は感激しそうですが(笑)。
ちなみに『焼きそば弁当』というのは実在します。
弁当と付いてますがご飯はありません。
北海道では非常に人気のある焼きそばだそうで。
…多分、綾には縁の無い食品なのでしょうね、インスタント食品って(笑)。
それでは次回にて。