パステル

涼「綾ー、これ、あっちに置くよ」
綾「はーい、わかりました」



ああ、何をやってるかって?
大掃除だ。
まあ、年末ということでおきまりの大掃除だ。



ただし、
綾「あ、そこはやっていますのでいいですよ」
と、いうふうに、綾が毎日掃除しているのでほとんどやる場所はない。
まあ、やる場所と言えば台所とかお互いの部屋程度。
ま、2・3日もあれば終わるだろう。



さてと、押入はと…………ん?
押入には幾つかのノートがあった。
学生の時のかな?
1冊適当に取り出してみる。
俺のじゃ……ないな。
だとすると綾のかな?
試しにペラリ。



1月9日
今日は私の誕生日。
嬉しいけれど、転校することになった。
せっかくできた友達なのに、別れてしまう。
辛いな……………。



綾の、日記か。
見ちゃいけないな…………。



掃除再開、だが…………。
うー、気になる。
……………………ちょっとだけなら……文句……ないよ……な?
再度ペラリと。



4月7日
始業式だと言うのに風邪をこじらせてしまった。
やだな……この体。
如月 涼さんという方がお手紙を届けてくれた。
確か、隣の席の人だ。
仲良くなれるといいな。



俺が最初に綾と会った日だ。
あん時は本当に一目惚れだったんだよなあ………。



7月23日
昨日から夏休みに入った。
今年は受験もあることなので夏季講習を受けることにした。
でも、一人だけだと…………そうだ、始業式の日に会った如月さんを誘ってみよう。
一緒に来て………くれるかな……。



大丈夫、ちゃんと一緒に行ったよ。



7月24日
如月さんと一緒に夏季講習へ行くことになった。
これっ…て…………デート、なのかな……きゃっ。
男性と一緒にどこかへ行くのって初めてだからな……。
緊張しないようにしないと。



やっぱり、綾もあれがデートだと思ってたんだ…………。
ん、次のページに続きが。



日射病で倒れてしまった………。
如月さんに迷惑かけちゃったな……。
何か恩返ししたいな……そうだ。私の家でくつろいでもらおう。
おじいちゃんと何か話していたけど、何を話していたのかな?
如月さん、すごく慌てていたけど、どうしたんだろう。



あの時はなあ…………おじいさんもなんつー事を俺に言わせたんだか…………。



如月さんにどなってしまった…………。
ずいぶん驚かせてしまった………………。
如月さん、怒ってなければいいんだけど………。



いや、怒ってないよ。
あの時に綾はおとなしいだけではなく芯の強い女性だったのがわかったんだよなあ…。



………如月さんの………見ちゃった……………。
どうしよう…………………。



…………あれね。
まあ、事故ってことで、それにあの後…………。



私の下着姿………見られたかな。
如月さん、見ていないって言うけど………きっと嫌われたくないって思ったから、あんな事言ったんだろう。
でも、私も見たから……おあいこだよね。



俺が見たの、ばれてたか………。
でも、綾は怒らなかった………………。
やさしいな……綾は。



9月23日
風邪を引いてしまった。
おじいちゃんったら涼さんにわざわざ電話して…………。
涼さんは無理をしないでと休むことをすすめてくれた。
また無理をしたら寝込んでしまうって………。
ありがとう……涼さん…。



どういたしまして……って何で俺が照れてんだろう。



放課後に来るのかと思ったらお昼に涼さんが来た。
そんなに私の事を………嬉しい………。
そういえば、私の体、拭いてあったけど………涼さんに体を拭かれた夢を見たけど、まさか…………涼さんが…………?



……御名答。



9月25日
涼さんに一昨日の事、話したら……………。
まさか……本当に私の体、拭いていたなんて…………。
ねえ、嘘だよね…涼さん。



本当です。
これしか言いようがないな。



9月26日
涼さん、学校に来なかった。
一体どうしたんだろう。
私の裸(下着はつけてますよ)、見たから、来るのが恥ずかしかったのかな……。



9月27日
私のせいだ。
私が涼さんに風邪を写してしまったんだ。
だから昨日、来なかったんだ。
裸を見られたことはもうどうでもいい。
お願い、涼さん、元気になって………。



だからか。
だから綾は俺に裸(下着は着けてるからな!)を見られても怒らなかったんだ。



私がお見舞いに行った時はすっかり元気だった。
良かった………………。



結局、あの風邪、なんだったんだろう…………(秋の章参照)。



10月3日
涼さんの事をずっと考えると胸が苦しい。
辛いよ……………。



10月9日
好きなんだ、私は。
涼さんの事を。
でも、怖い。
怖くて言えない。
誰か…誰か助けて…。



綾……………。



1月29日
お母さんに呼ばれた。
涼さんを好きな事がわかっていた。
涙が出た。
もう、こんな辛いのは嫌!
こんなにも好きで、好きで…………!



2月3日
先日、お母さんがバレンタインデーの事を話してくれた。
確かその日は大学の合格発表だ。
チャンスはもうそれしかない。



2月14日
嬉しかった。
今まで生きていた中で一番嬉しい。
ずっと、あの人の胸の中で泣いていた。
ずっと、ずっと、そばにいてください………涼さん。



綾………ずっと、待っていたんだな。
それに気付かないなんてな………。



4月16日
涼さんが縁日に誘ってくれた。
きっと、大学生活に慣れていない私を気遣ってくれたんだろう。



4月18日
浴衣姿の私を見て綺麗って言ってくれた。
すごく嬉しかった………。
杏飴を初めて食べたけど、おいしかった。
でも、残りの……涼さんが……………。
間接……キス………………どうしよう……。



うーん、俺も何も考えずに言うのはなるたけやめとこう。



雷が鳴った時、怖くて涼さんにしがみついちゃった…。
はしたない所、見せちゃったな…………。



いやいや、何度でもこっちはOK。



どうしよう………。
涼さんが私がしたい事をやってほしいなんて…………。
…………大胆………だったかな。



…………考えてみれば、綾………………すごい大胆だったな……。



10月28日
ずっと………寝てたんだ………。
意識がない時、ずっと涼さんが……………。
そんなにまで私を………。



ん……所々に涙の跡…。
…………………。



1月8日
涼さん…………。
私、あなたになら…………。



なりゆきとはいえ、ほとんど強引だったような気がする。
もっと、やさしくしてやらないとな…。



1月9日
きっと、今日が人生最良の日だって言える。
ありがとう、そして…愛してます、涼さん…………。



…………綾…。
………………………あ、ほとんど全部読んでもうた。



涼が綾の日記を見つけた頃。
えーと、次は涼さんの部屋か。
………男の人ってもうちょっと汚いと思っていたけど…………。
結構、綺麗………。
えーと、それじゃあ押入を…………。
ガラ…。
…………
ガラピシャ。
……押入にあったあの本…………。
ひょっとして……えっちな本?
………きゃ。
涼さん、私としない時って…………あれ…で処理してるのかな?
……と、とりあえず見ないように押入を開けて………。
……………あれ?
ノートが…………。
私の持っているノートの種類じゃないから………涼さんのかな?
何が書いてあるんだろう。



4月7日
一目惚れ。
俺に縁のなさそうな言葉が来た。
藤原 綾さんだ。
初めて会った時に衝撃が起きた。



これって…………日記?
しかも私のことが………。
見ない方がいいですよね。
パタン(本を閉じる)。
…………でも、押入をよく見るとほとんど入ってないなあ…………。
………………ちょっとだけなら………いいですよ…ね?



7月23日
綾さんから夏季講習のお誘いがあった。
はたから見るとほとんどデートだな…これ。



やっぱり涼さんも同じ事を………。



7月24日
日射病になってしまった綾さんを介抱した。
そのお礼にと綾さんの家でくつろがせてもらうことになった。
綾さんのおじいさんは会ったが、おじいさんもなんて事を言わせるんだか………。
『綾の事が好きなのか?』って、ねえ…………。



だから、あんなに慌てていたんだ………。
おじいちゃん………もう……。



帰る頃にどしゃ降りが襲った。
雨宿りだけでいいと言ったら綾さんがすごい剣幕で言った。
おとなしいだけじゃないんだな。
芯の強い、でも守ってあげないといけないほど繊細な人だ。



ごめんなさい、あんなに怒鳴ってしまって………。



見られた。
そういうものは減るもんじゃないと言うが、何かが減ったような気がする。



う。
思い出しだけで顔が熱い……。



見てしまった。
綾さんの下着姿。
見てないなんて言ったけど、もし言ったらどうなっていたんだろう。



もし…か。
きっと、私も涼さんの……きゃっ。
見たから………きっと…おあいこだと思うなあ………。



9月23日
綾さんが風邪をひいてしまった。
とりあえず俺が説得して休ませるようにした。
放課後に行こうと思っていたが、待ちきれず早退した。



私の為に………学校を早退して………。
嬉しいよ………涼さん。



勢い余って…………綾さんの裸(下着は着いてるからな)を見てしまった。
いかんせんこの猪突猛進な所、治さんとなあ………。



でもね、そんな所もある涼さんが好きなんですよ……。



9月25日
どうしよう。
ほんとにどうしよう。
綾さんに裸を見たことがばれてしまった。
次の日どんな顔をすればいいんだろう。



……………………(真っ赤)。



9月26日
………呪いなのだろうか。
綾さんの裸(下着だぞ)を見たからなのか。



9月27日
綾さんが見舞いに来てくれた。
綾さんは怒っていないのだろうか。



ふふっ、それはですね………。



2月14日
綾さん、これが俺なりの答です。
あなたは精一杯の勇気で俺に告白しました。
そして、それに答えるのがその勇気へのお返しです。
愛している……綾さん。



涼さん…………。



4月18日
綾さんを縁日に誘った。
綾さんの浴衣姿、綺麗だったな………。
素になるほど嬉しかったんだなあ……。



あの時、本当に嬉しかったんですよ……。



綾さんが何かお礼をしたいと言ってきた。
とはいっても何も考えてないからなあ……。
逆に聞いてみるか。
…………それは、『いい』って…事?
きっと、綾さんはこの関係を深くしたかったのだろうか。



大胆だったな……私……きゃっ。



9月28日
どうしてなんだ。
どうして、どうして……。
何で、綾が……。



ここの所だけ異常に筆圧が強いみたい………。



9月29日
綾がいない人生なんて考えられない。
このまま死んでしまいたい。



涼さん……そんなぁ………。



9月30日
おじいさんに殴られた。
そうだよ、俺が綾を守るんだ。
でなきゃ、誰が綾を守るってんだ。
俺は、綾を好きなんだろ?
愛してるんだろ?
だったら、俺は綾が目覚めるまで看病するんだ。
何日、何週間、何ヶ月、いや、何年かかっても構わない。
俺は綾を愛しているんだから。



ぽとっ。
やだ……涙が…。



10月28日
愛してる。
もう離さない。



それは……私だって……………。



1月7日
何やってんだ、俺。
よりにもよって、綾を犯そうとするなんて。
2人きりだからか?
だからか?
だから……なのか?
……焦るなよ…俺。



1月8日
本音を綾に告白、いや正確には行動で告白した。
……いいのか、綾………本当に。



うん……涼さんなら……私……いいよ。



初めて綾の全てを見た。
綺麗だった。
触れただけで崩れそうな体だった。
だが、その中に決して崩れることのない強さがあった。
それは俺よりも強い部分だった。
けど、それは非常に繊細だ。
優しくしないとすぐに壊れそうだった。
俺のわがままに綾は拒まなかった。
俺を……信じていてくれてるんだな。
だったら、俺は綾を痛い目に合わしたくない。
綾は、痛かったのだろうか。
きっと痛かっただろうな。
それでも綾は我慢して………。



痛かった。
でも、あなたの優しさで痛くなかったですよ……………。



1月9日
誕生日、おめでとう。
そして、愛してる……。



…………あっ、ほとんど全部読んじゃった。



さてと、とりあえずこの日記も含めて廊下に出しとくか。



それじゃ、この涼さんの日記と一緒に廊下へ……。



そしてバッタリ。



涼・綾「「あっ……」」
ほぼ二人同時にお互い持っていた物を指差す。
涼・綾「「そ、それ………」」
そして同時に真っ赤になった。



さて、二人の心境はというと、



涼の方は、
うわ―――っ!綾に俺の全てが見られたっ!!(言い過ぎ)



そして一方、綾はというと、
きゃあっ!りょ、涼さんに私の…見られた……どうしよう。



そして、お互い気まずい雰囲気のまま大掃除を終え、年越となった。
何かを知る事は何かを失う事でもある。


後書き

ぶっちゃけて言いますと総集編です。
冬の章の話が終わった時に総集編のようなものを作ろうかなと考えていました。
冬までは涼の視点からでしたので、総集編では綾の視点からやろうと思っていました。
『綾と涼』の前編はその名残です。
いつかやろう×2、と考えていたら30分以上置いといたラーメンのようにズルズルとのびまくり、結局2年ぐらい延長となりました。
ちなみに、綾視点と綾の日記視点が2つあるのは、『綾と涼』の前編で綾視点が俺の中で(笑)
評判だったためです。
まあ、20世紀も終わるということで今までのやつを清算しようということで大至急(本当に大至急だったな、笑)
これ本当は21世紀最初の小説にしようと思っていましたが20世紀最後の小説となりました。
さてそれでは21世紀にて。
といってもこれが掲載されるのは21世紀になってからなんだろうけど(笑)。