立冬の章
セラミックハート

体温計を脇から外し、見てみる。
36度4分。
よし、下がったな。
風邪で倒れてから3日、ようやく治った。
風邪が治ったのはいい、問題は綾さんとの関係だ。
果たして元通りになるんだろうか……。
ひたすら悩み、そして発狂。
涼「あーっもう、どうすりゃいいんだ…」
ウィィィン…ピッ…フィィ…。
先ほどから流していたCDが終わり、再びリピートされる。
ちらりと時計を見る。
午後3時半。
そろそろ学校が終わる時間だ。
今ごろ綾さんは家に帰っているだろう。
もしかすると綾さんは俺を軽蔑しているのかもしれない。
もしそうだとしたら……。
想像したくない。
もし『大嫌い』と言われたら……。
……もう考えるのはよそう。
その直後。
ピンポーン。
ドアのインターホンが鳴った。
一体誰だろう。
玄関まで行き、玄関の戸を開けた。
するとそこには綾さんがいた。
涼「………」
あまりの出来事にぼうぜんとした。
涼「あ、綾さん……」
綾「涼さん……」
綾さんも俺が出るとは思わなかったようだ。
2人の間に静寂が流れる。
うう、なんとか雰囲気を変えないと。
涼「あ、綾さん、どうしたの?」
俺は綾さんに問いかけてみた。
綾「ええ、お見舞いに来たんですけど…治りましたか?」
涼「うん、治ったよ」
綾「もしかしたら…その風邪、私がうつしたんじゃ……」
綾さんの顔に曇りが出ている。
涼「そっ、そんなことはないよ、知恵熱だよ知恵熱。ちょっと考え事しちゃって」
俺は何とかフォローをする。
綾「本当…ですか…?」
まだ顔に曇りが出ている。
涼「本当だよ、綾さんのせいじゃないよ…」
綾「良かった…もし私のせいで涼さんに風邪をうつしちゃったら…私…どうすればいいか……」
俺は綾さんの両腕をつかんで。
涼「綾さん、俺は落ち込んでいる綾さんの顔は見たくないよ……」
綾「はい…」
綾さんは微笑みを取り戻した。
涼「うーん、一応治ったけど、お見舞い、どうする?」
綾「ええ、私の時はお見舞いにきてくれたから、やはり、私も…」
今の一言で気が付いた。
果たして綾さんはあのことに関して軽蔑しているのだろうか。
それとも思い出したくないのだろうか。
しかしいずれにしても、どう思っているのか聞かなければならない。
まあ、とりあえず部屋に戻るか。
涼「それじゃ綾さん、上がって」
綾「それでは失礼します」
部屋の前に着く。
涼「汚いかもしれないけど、それじゃ入って」
綾「はい」
部屋に入る。
部屋の中は、ベッド、本棚、CDラジカセ、机、テレビなどが置かれている。
机の椅子をひっぱりだし、ベッドの前に置く。
涼「それじゃあ、座って」
綾「はい、わかりました」
俺はベッドにのっかり、綾さんは椅子に座る。
涼「あ、そうだ、学校で何かあった?」
綾「いえ、ありませんでしたけど」
涼「ほかに、俺に渡し物とか、ある?」
綾「いえ、それも」
涼「そっ…か……」
綾「あの、涼さん」
涼「何?綾さん」
綾「さっきから気になっていたんですけど、このCDは?」
涼「ああ、それ?『CERAMIC HEART』って言うんだ」
CDから流れる歌をある程度聞いて、
綾「なにか…悲しそうな歌ですね」
涼「うん、セラミックでできている自分の心の葛藤を歌にした物でね」
綾「この歌詞、わかりますか?」
涼「うーん、フランス語だからわからないけど、訳したものなら…えーと…ここだ」
CDケースからブックレットを取り出し、読む。

この場所からは
あなたのことがよく見える
姿カタチとか表情しぐさ
あなたの優しい声も…
だけど
あなたに触れることはできない
なぜなら
あなたと私のあいだには
透明な一枚のガラスがあるから
そのガラスが
どんなに薄くなっても
あなたの手に触れることは
永遠に不可能だ

私の心が
セラミックのように
どんなに強くても
どんなに丈夫でも
どんなに性能がよくても
あなたの前では
ただの物体(Object)…
あなたに
私の声は届かない
私の指も届かない
ただ
透明なガラス越しに
あなたの姿を眺めているだけ
私は動けない
叫べない

もしも
私の心が
あなたに通じる時が来るとしたら
それは
あなた自身が
二人の間にある
透明なガラスを
あなた自身の手で壊したとき
けれども
そのガラスが壊れることは
永遠にあり得ない
あなたはガラスの壊し方を知らないから
知っているのは
透明なガラス越しにいる私だけ

”私の心はセラミック
硬く鋭く決して錆びることはない
けれど
床に落とした瞬間に
粉々になってしまう

私の手に入らないものは
何もない
地位も名誉も財産も
だけど
たったひとつ手に入らないもの
それは
私が心から欲しいもの”

セラミックでできた私の心を
このガラスにぶつけてみたら
壊すことはできるだろう
でもその時は
の心も
ガラスと一緒に
砕け散ってしまうのだろうか

綾「悲しい歌ですね……」
涼「2人の間の壁の存在のもどかしさ、その壁を壊したら自らも壊れてしまうという恐怖、これは恋愛にも同じことが言えるかもしれない」
綾「2人の関係を変えるための告白、もし、断られて、関係を変えたと同時に自分も変わってしまうという怖さ…ですか…」
涼「そう…」
俺はボソッとつぶやいた。
涼「…まるで、今の俺と綾さんのように……」
綾「えっ…何か言いました?」
涼「いや、なにも…」
そう、まったく綾さんと同じだった。
この関係はいつ続くかわからない。
そして、綾さんに告白したとき、俺はそのままになっているのだろうか。
それからしばらく話をして、そろそろ綾さんが帰る時間となった。
綾さんが家から出るとき、俺は勇気を出して言った。
涼「ねえ、綾さん」
綾「はい?」
涼「…その……怒って……ない?」
綾さんはその返事の代わりに微笑みを見せた。
そして綾さんは帰った。

このとき、俺は風邪のせいか、思考能力を失っているため、『なぜ綾さんは俺を許してくれたのか』それが俺にはわからなかった。

後書き

えー、今回の内…ゴホゴホッ、内容はどうだったでしょうか。
ゴホゴホッ……今ちょっと風邪をひいています。
すぐに治ると思いますが、ここ最近よく風邪をひきます。
疲れが原因だと思われますが、奇妙なことに、この綾の話を作り始めた頃からよく風邪をひくのです。
もしかすると本当に呪いかもしれません。
仮に呪いだとしたら呪いの元は綾を独占した罰だと思われます。
もし別の作品を作っている最中、風邪をひかなかったら呪いだと断定されるでしょう。
さて、今回の内容についてですが…もうバレバレですので何も言いません。
ちなみに、本編で使われた『セラミック・ハート』ですが、タイトーのゲーム『レイストーム』のアレンジバージョン『レイストーム・ノイ・タンツ・ミックス(ノイ・タンツ・ミックスの意味はノイ(新しい)・タンツ(踊り)・ミックス(調合)の意味)』の『セラミック・ハート』の歌詞から引用しました。
しかし、『セラミック・ハート』で、あっ、これだとわかった人はかなりのバカです。
私はわかるけど。(笑)
ちなみに最近やっていることは、カード集め、つまりトレカの採集ですね。
私のカード集めの対象になっているものは、リアル麻雀のやつです。
お前いいかげんにやめろというつっこみもありますが、いまだにやめられません。
わかっちゃいるけどやめられない、そんな感じです。
しかしまあ、この綾の作品を作ってからこれでちょうどフロッピーが2枚目になります。
単純計算でいうと、1枚で60ページ近い枚数になっているため、これで61ページ目になります。
さらに、今までやったものを全部合わせると、合計300ページにも及ぶわけです。
塵も積もれば山となるといいますが、本当にそうですね。
さて、次回で最終回です。
次ではあっと驚くような展開になると思います。
いい意味で裏切るようになってほしいと思います。