春の章2
SELF

男「おーい、涼じゃないか」
涼「なんだ、健司じゃないか」
街をぶらぶらと歩いているとき、健司に呼ばれた。
健司は高校での友人だ。
もっとも、俺の高校では3年間一緒だから友人にならざるを得ないのだが。

喫茶店にて。
涼「へえ、お前は専門学校か」
健司(以下健)「っていうか、聞いてなかったのか?」
涼「俺は大学受験でそれどころじゃなかったんだよ」
健「ま、確かにな…、で、お前は?」
俺はぴっと親指をだして、
涼「楽勝」
健「結果がわかんねーのに楽勝もクソもあるか」
涼「まあ…ね」
俺はコーヒーをすすった。
健「………で、藤原との仲はどうなった?」
涼「うっ……、ゲホッゲホッ!」
いきなりとんでもない言葉が出て、コーヒーが器官に入った。
健「あ、悪い悪い」
涼「な……なんでその事…」
健「というか、藤原が転校したとき、お前は遅刻しかけて、初めて…あ、手紙渡しに行ったから2回目か。2回目に会った時、お前の態度があまりにも変だったからな」
涼「……………………」
あまりにも当たっているので反論できない。
健「あ、ちなみにお前と藤原がつきあっていることは全員知っているから」
涼「えっ!?」
すっとんきょうな声が出た。
健「お前と藤原だけだよ、何も知らんのは」
涼「でも何でわかった?」
健「わかったも何も、2学期くらいからお前と藤原が妙にくっついていたからな、一発でわかったよ」
涼「なんだ、そうだったのか……」
照れながら言った。
じゃあ、知らなかったのは俺と綾さんだけ?
それじゃあ、みんな見て見ぬフリしたのか。
健「そこでだ」
えっ?
健「藤原とはどこまでいってんだ?」
涼「ぶっ……げほっげほっ」
また器官に入った。
準備はできていたが、そうくるとは思わなかった。
涼「な、何を言って……………」
健「…まあ、まじめなお前だから何もないんだろうな」
涼「別にいいじゃねえか、人の事なんか」
健「珍しくお前が恋愛に夢中だからな、興味あんだよ」
涼「興味もつなよ……」
健「で、やる気はあんのか?」
涼「…まあ、本音はしたくないわけでもないし……」
健「案外、藤原だって待っているかもしれないぜ」
健司は時計を見て、
健「おっと、もうこんな時間か」
涼「何だ、何かあるのか?」
健「ああ、これから専門学校にな」
涼「ん、そっか」
喫茶店を出ていく健司。
涼「おい、健司」
健「ん?」
涼「金はきっちり払えよ」
健「ちぇっ」
涼「あれから2か月………か」

『あれ』とは、忘れ難い2月14日。
大学受験の結果発表の後だ。
あの時以降、両思いになったが、進展は特にない。
別にそういうしきたりができたというわけではない。
というより、そういうしきたりは存在しないのかもしれない。
俺自身、進展したいという気はない。
綾さんの方はわからないが。

自宅に戻り、自分の部屋に入る。
デジタル時計を見る。
PM4:30と表示されていた。
涼「そろそろ……かな」

実は2日程前、こんなことがあったのだ。
大学の講習が終わり、綾さんと一緒に帰っている時、
涼「綾さん、どう?慣れた?」
綾「ええ…なんとか」
まだ大学に入ったばかりなので、やはり、まだ慣れがない。
俺は3、4日ぐらいで慣れるが、綾さんは俺とは違う。
まだ慣れていないようだ。
ふと、町内の掲示板に目を通すと、縁日の広告があった。
涼「縁日……か」
綾さんはまだ慣れないため、ストレスが溜まって、疲れているかもしれない。
縁日に連れて行けば、もしかすると気分転換になるかもしれない。
もういっぺん広告を見る。
明後日…か。
涼「ねえ、綾さん」
綾「はい、何でしょう」
涼「明後日の夕方、暇?」
綾「ええ、多分…大丈夫ですけど」
涼「もしよかったら…縁日に行かない?」
綾「縁日……ですか?」
涼「うん、夜店とか見ているだけで楽しくなるよ」
綾「そうなんですか…渡しはそういう所に言った事がなくて……あまり人込みが好きじゃないので………」
涼「駄目………か…」
綾さんの否定的な返答にがっかりした。
その直後、
綾「ですから、案内お願いしますね」
涼「え?」
考えてもなかった言葉に、すっとんきょうな声が出る。
顔を上げると…………笑ってる。
涼「ちょっともお、悪趣味だよ…」
綾「いえ、そういうわけではないんです。本当にそういうところには縁がなくて…うれしいです」
涼「それじゃあ、時間はどうしようか?」
綾「そうですね、それじゃ午後5時に私の家に来てください。それから一緒に行きましょう」
涼「うん、わかった」

そして今日がその明後日ということだ。
さてと、そろそろ綾さんの家に行くか。

綾さんの家に着く。
ドアのインターホンを押す。
しばらくすると、綾さんらしき声が出た。
インターホンの声「はい、藤原です」
しかし、よく聞いてみると、若干違っていた。
綾さんの声より、やや落ち着きのある、女性の声だった。
涼「ええと、如月ですけど、綾さんはいますか?」
インターホンの声「あっ、涼君ね。どうぞお入りください」
涼「はい、わかりました」
門を通り、庭の中を歩き、家の方に向かう。
そして、家が見え、戸を軽く叩く。
戸越しに向こうのほうから歩いてくるのが見えた。
俺は戸を開け、中に入る。
そこにはおじいさんがいた。
涼「あっ、おじいさん、こんばんわ」
信「ああ、こんばんわ」
綾さんは?と問いかけようとしたら、
信「綾なら自室におるよ、行ってくるといい」
涼「わかりました。あとそれとですけど…」
信「何かね?」
涼「今更どうかと思いますけど………いいんですか?…その…」
信「綾を夜中に連れて行く事が、かね?」
涼「ええ、そうです」
具体的な言葉が見付からず、おじいさんの言葉で言いたいことが言えた。
信「お前さんを信用している。そういうことじゃ」
涼「そうですか……」
とりあえず許可がおりた。
そんな感じだった。
信「まあ、奥手なお前さんだから、特に問題なかろうて、ほっほっほ」
涼「そ…ですか…」
図星というか、釘を打たれたというか………。

綾さんの部屋の前に着く。
戸を叩く。
涼「綾さん、涼だけど…入っていい?」
綾「あ、少し待ってください」
着替え中かな?
ふと、夏休みの時を思い出した。
たまたま、着替え中の綾さんを目撃したことがあったな。
もう今じゃ、思い出せないけど。

しばらくすると、綾さんが、
綾「どうぞお入りください」
俺は戸を開け、中に入ると、
そこには浴衣を着た綾さんがいた。
今までに見た綾さんの服は、洋服であったが、綾さん自体が純和風なので、若干ミスマッチがあった。
まあ、それでも可愛いんだけど。
そして浴衣は和風なので、見事にマッチしていた。
涼「……綺麗だ…」
俺は思わず声が出た。
そのため、綾さんが真っ赤になった。
涼「そ、そんな………綺麗だなんて…」
涼「ううん、本当に似合ってるよ」
綾「本当…ですか…?」
はにかみ顔になりつつ、綾さんは笑顔で問う。
俺は無言でうなづいた。
綾「嬉しい………」
めずらしく綾さんは丁寧語ではない、言葉を発した。
感情の起伏が厳しいと、素のしゃべりが出るが、綾さんの場合はこうなのだろう。
よっぽど嬉しかったのだろう。
そんな綾さんを俺はたまらなく可愛いと思った。

涼「それじゃあ、行ってきます」
綾「7時頃には帰ってくると思いますので」
信「うむ、わかった。気をつけてな」
涼・綾「行ってきます」
そのまま、2人で縁日の会場へと向かった。
ふと、空を見ると、さっきより雲が多くなっていた。
春は天候がよく変わるもんだな。

会場に向かうと、夜店が賑わっていた。
俺もこういう縁日に行くのも久々だな。
綾さんも楽しそうだ。
きっといい気分転換になるだろう。
少し屋台を見て回っていると、綾さんが問いかけてきた。
涼「あの、涼さん。あれは何ですか?」
綾さんが指を指す。
指している方には、杏飴があった。
杏飴か。
最近は林檎飴や、苺飴ばっかだったけど、また出てきたのか。
涼「杏飴っていってね、林檎飴の杏になっているやつだよ。甘くて、冷たくておいしいけど…食べてみる?」
綾「はい」
杏飴を買い、綾さんに渡した。
涼「はい、綾さん」
綾「ありがとうございます」
綾さんはさっそく杏飴を口に運んだ。
みるみるうちに顔がほころぶ。
涼「おいしいでしょ」
綾「はい、とっても」
よかった、喜んでくれている。
夜店は他にもたくさんあった。
見ているだけで楽しくなるようなものばかりだった。
綾さんも楽しんでいるようだ。
縁日を十分に満喫しているようだ。

綾「あの…涼さん」
綾さんが何か言いたそうな感じだった。
涼「どうしたの?綾さん」
綾「さっき、いただいた杏飴なんですけど…」
ああ、多分杏飴が飽きたんだろう。
元々こういうものは甘さが単調だからな。
食べるたびに味が変わるようなものはないんだろうか。
涼「甘さが単調で、飽きたんでしょう?」
綾「えっ…」
綾さんは驚きつつ、赤面になりながらうなづいた。
涼「昔によく食べていたからね、わかるよ」
綾「でも…どうしよう…口の中が甘くて…もう…」
涼「後は僕が舐めるよ。元々1人で食べきれるようなものじゃないから」
…………言ってから気づいたけど。
今、俺何て言った?
『後は俺が舐める』?これじゃ間接キスじゃねえか。
頭の中でぐるぐると何かが回る。
綾「そうですね。残したら作る人に失礼ですからね」
え?綾さん………納得している?
もしかして………気づいてない?
綾さんは俺に杏飴を渡してくれた。
そして、さりげない動作で口に運ぶ。
ちらっと綾さんを見たら、赤くなりながら杏飴の方向を見ていた。
そして俺と目が合った瞬間、パッと他の方を向いてしまった。
やっぱり、気付いてたんだ。
気まずくならないように知らない振りをしていたんだ。
だったら、俺もさりげない態度をとればいいんだろう、多分。
ふと気付くと、夜店の端が見えてきた。
涼「綾さん、それじゃ折り返そうか」
さりげなく、さりげなく…と。

空を見上げる。
さっきよりもどんよりとしている。
もしかすると………。
サーーーッ。
予感的中。
急いで俺と綾さんは屋根のある建物に入った。
他の人達は大急ぎでデパートなどの大きな建物に入った。
ま、あそこなら冷房とか効いてるからな。
それじゃあ、俺も行こうかな。
そう思った瞬間。
ザーーーーッ!
本降りになった。
駄目だ、もう行けない。
仕方ない、ここで雨宿りするか。
しかし、いっこうに雨は弱まらない。
そしてさらに、
ゴロゴロ…
まずいな、雷か。
ピシャーッ!!
その直後、
綾「きゃあっ!」
綾さんが俺の左腕に抱きついてきた。
涼「あっ、綾さん!?」
呼びかけた時に、
ピシャーッ!!
綾「…………っ!」
綾さんがびくっと反応した。
震えている……すごく怖いのだろう。
何か……俺にできることは?
綾さんを落ち着かせることは?
何か…何か出来ることは………。
そんなことを考えている間に、体が勝手に動いていた。
綾さんが左腕に抱きつかれたままの姿勢で、体を捻って、右手で綾さんの顔を撫でていた。
子供を落ち着かせるように、ゆっくりと。

しばらくすると、雷も止み、雨もすっかり止んだ。
涼「綾さん…もう大丈夫だよ」
………あれ、俺そういや抱いているような状態だよな。
不意に我に返った。
綾さんもいつのまにか赤くなっている。
綾「あ……ごめんなさい…はしたないところを見せて…」
涼「い…いや、いいさ。誰にだって苦手なものがあるし」
お互い赤面していた。
まずいな、雰囲気を変えないと。
腕時計を見てみた。
午後6時半。
そろそろ時間だな。
涼「あ…綾さん。そろそろ時間だし、行こうか」
綾「えっ、は…はい、そうですね」
そのまま2人で綾さんの家に戻った。

綾さんの家まで20分くらいのところで、
さっきまで……ねえ…あんな状態だったからなあ…帰り始めてから何も話してないよ。
そろそろ話しかけてみるかな。

涼・綾「あの、
綾さん
涼さん

不気味なほどにハモった。
まずい…余計に話しづらい。
涼「あ…綾さんからどうぞ」
綾「い、いえ…涼さんから」
それじゃ、俺からいくか。

涼・綾「じゃあ、

…」

………またか。
涼「………じゃあ、俺からね」
軽く咳払いする。
涼「どうだった?今日の縁日は」
綾「ええ、とても楽しかったです」
涼「良かった……いい気分転換になったか…」
綾「え?」
涼「まだ綾さん、大学に慣れてないせいか、疲れていたみたいでね、気分転換になるんじゃないかと思って、誘ったんだ」
綾「私の為に……ありがとうございます」
涼「どういたしまして……それじゃあ、綾さん、言って」
綾「ええ、なぜ縁日に誘ってくれたのかって聞きたかったんです」
涼「そうだったんだ……」
綾「その答えも聞けたし、できれば、何かお礼をしたいのですが…」
涼「お礼?」
綾「ええ、私にできることなら」
お礼……か…。
お礼といわれてもなあ、特に無いし、さっきの事があったし、べつにないからなあ……。
…………そうだ、逆の考えで…。
涼「それじゃあ、綾さんが俺にしてほしい事。それがお礼ということで」
綾「私が、してほしい事…ですか?」
涼「うん、特に何も無いし、元々俺がしてほしい事だから、問題はないでしょ?」
綾「……あの……本当に…いいんですか…?」
涼「うん、俺にできることなら」
綾さんが妙に困っているようだ。
でも綾さん、何をしてほしいんだろ?
涼「そ…それじゃあの……目を…つぶってください」
涼「うん、わかった」
俺は目を閉じた。
一体何だろう。
期待と恐怖が一緒になっているような感じだった。
すると、トン、と何かに当たった。
何が起きたんだろう。
綾「…目を………開けてください…」
目を開けた。
すぐそこには綾さんがいた。
すぐそこに、というより俺の胸元に綾さんがいた、という方が具体的だった。
目と目が合う。
綾さんが顔を真っ赤にしている。
おそらく、俺も真っ赤なのだろう。
しばらく目が合った後、綾さんは目を閉じた。
………えっ?
そ……それって……。
ふと、健司の言葉が脳裏をよぎった。

『藤原だって待っているかもしれないぜ?』

軽く深呼吸をして、綾さんに近づいた。
あと10センチ…5センチ…。
そして、唇と唇が触れた。

………どのぐらい経ったんだろう。
5秒だろうか、10秒だろうか。
それとも1分くらいか?
もしかすると5秒たっていないのかもしれない。
そのぐらい長く感じた。

唇と唇が離れた。
しばらく俺と綾さんは見つめあっていた。
涼「………行こうか」
綾「はい……」
そのまま2人で歩く。

綾さんの顔をチラリと見てみた。
なんとなくだが、さっきよりも落ち着いている。
もしかすると…怖かったのかもしれない。
この状態が。
告白してしまえば楽になると聞くが、逆に苦になるはずだ。
『今まで』という土台が消え、不安定な状態だ。
安定するには、元に戻るか、安定させるか、だ。
そして、『安定』を選んだ。
そしてもうひとつ。
綾さんは…待ち続けていたのだろう。
どんな形でもいい、絆が欲しかったのだろう。
二度のない、絆を。

綾さんは俺の視線に気付いたのか、俺の方を見た。
息抜きに誘ったけど、逆に疲れさせてしまったかもしれない。
綾さんは微笑み、さっきまでつないでいた手を離し、俺の右腕に寄り添った。
綾「涼さん、今日はありがとうございました。私が大学に慣れないため、息抜きも兼ねて連れてきてくれて……嬉しかったです」
涼「え?」
綾「そこまで、気をかけてくださる事が……」
涼「……………」
俺は何も言わなかった。
何も言えなかったかもしれない。
俺は綾さんの本心が見えなかった。
気をかけてるなんて、まだまだだ。
綾さんは俺よりも優しくて、俺よりも弱そうだが、俺よりも…強い存在だ。
けど、守ってあげないといけないほど繊細な……。

綾さんの家の前についた。
綾さんは、俺の右腕から離れた。
おじいさんにひやかされるかもしれないからな。
ピンポーン。
玄関のドアホンを押す。
しばらくして、綾さんのお母さんらしき声が出た。
綾「お母さん、ただいま帰りました」
綾の母「あら、お帰りなさい」
さてと、俺もそろそろ帰るかな。
綾「……えっ?…わかりました。あの、涼さん、お母さんが呼んでますけど」
えっ?俺に。
涼「はい、涼ですけど」
ドアホンに話しかけた。
涼「今日は綾さんを夜分まで…すみませんでした」
綾の母「いえ、綾もきっと喜んでいるでしょう」
綾「ちょ…ちょっとお母さん…」
綾さんにも聞こえたようだ。
お母さんの方が上手ということか。
涼「それじゃ、俺はこの辺で」
綾の母「あ、ちょっと待ってください」
涼「え?」
綾の母「もし、良かったらあがっていきません?」
涼「えっ?こんな夜分遅くに、ですか?」
綾の母「ええ、縁日での事も聞いてみたいし、綾だけじゃ、何がおきたかわからないし」
綾「もう、お母さん、そんなことは…」
綾さんが真っ赤になりつつ抗議する。
……まあ、確かに…起きたんだけどね…色々。
涼「どうぞあがって…か」
綾「あの、涼さん…」
多分、言わないでほしいと思っているのだろう。
涼「大丈夫、言わないよ」
綾「涼さん……」
涼「けど、口をすべらして言うかもしれないけど」
綾「もうっ、涼さん」
涼「あははは……」
綾「ふふっ……」
2人とも、笑いあい、家に入った。
本館に入り、戸を開けた。
綾の母「お帰りなさい」
そこに綾さんのお母さんがいた。
綾さんに似た、雰囲気を持った人だった。
きっと、綾さんも10年もすればこんな女性になるのだろう。
涼「えっと、誰か居間にいますか?」
綾の母「いえ、おりませんよ」
涼「それじゃ、ちょっと居間の方でくつろいでいいですか?いずれおじいさんに呼ばれると思いますけど」
綾の母「ええ、いいですよ」
涼「それじゃ綾さん、少しの間だけど、おじいさんの相手頼むよ」
綾「はい、わかりました」
俺はさっそく居間の方に行き、すぐそばにあった座布団に座り、一息ついた。
……今日もいろんな事があったな。
今思うと俺もずいぶん大胆な事したなあ……。
今頃になって赤面してきた。
トントン。
戸を叩く音がした。
誰だろう。
涼「どうぞ」
戸が開くと、綾さんのお母さんがお茶を持っていた。
綾さんのお母さんがお茶を持ってきてくれたようだ。
綾の母「お茶をお持ちしました」
涼「あ、どうも」
湯のみを持ってお茶を飲む。
適度な温度で、飲みやすかった。
多分、綾さんのお母さんが考慮して入れたのだろう。
綾の母「どうでした?『夢の終り』は」
涼「えっ?」

夢の終り。
この言葉、どこかで聞いたことが……。
そうだ。
あのときに綾さんが……………。

2月14日。
忘れもしないあの日だ。
受験結果の帰りに…。

涼「…………………」
『あの言葉』を言ったきり、静寂が続いた。
綾「……………ですよね?」
涼「え?」
綾さんの言葉が聞き取れなかった。
綾「…本当に、今…『夢の終り』なんですよね…」
状況が状況なだけに、理解しきれなかった。
綾「……ぐすっ…」
涼「あ、綾さん?」
綾「…うっ…ひっく………ぐす…」
綾さんは泣いていた。
綾「お願い……もう少し…ぐすっ……このままで…」
涼「うん…」
俺は何も言わず、綾さんを抱き続けた。
二度と離れることのないように。

あの時のことをもう一度思い出してみた。
あの意味は……多分、存在しないと思う。
アイデンティティーと同じような感じで、説明しようのない言葉だと思う。
自分なりの解釈でしかないのだ。
綾さんの時は前後の言葉から考えると、おそらく、『真実』のような意味なのだろう。
そして、綾さんのお母さんの時は、『真実』とは違う。
しかし、『真実』に似たようなものがある。
『真相』?
『心理』?
何とも言いようのないものだった。

涼「………俺が予想していたのとは違いましたね」
綾の母「そうですか…」
涼「一つ、聞いていいですか?」
綾の母「はい、何でしょう?」
涼「その事、知っていたんですか?綾さんと付き合っている事が」
綾の母「というより、綾が教えてくれましたね」
涼「え?」
予想外だった。
綾さんが教えてくれた?
涼「どういう…事です?」
綾の母「確か……2月12日でしたね…」
2月12日というと、2日前だ。
綾の母「その日に、綾が心の中を言ったんです。『もうこれ以上好きと言えない日を過ごしたくない』と、泣きながらあの娘は…」
涼「綾さんがそんなことを……」
綾の母「親は娘の事をよく知らなければならないのに、綾のことをわかってやれないなんて、母親失格ですね…」
涼「そんなことないですよ。当の本人が好きだったことを知らなかったんですから…」
それからしばらく、綾さんのお母さんと話をした。
ふと、耳を澄ますと綾さんとおじいさんの声がしてきた。
多分、縁日で何が起きたか質問攻めにあっているだろう。
きっともう少ししたらこっちにも火の粉が飛んでくるだろう。
どうしよう…と思いつつ、そういう感覚が嬉しくて仕方がなかった。

『ねえ、綾さん。時々思うんだ』
『え?』
『思い出にしてもそれじゃ暮らせないものがあるって事が………』

後書き

…というわけで終りです。
もし続きをやるとしたら間違いなく18禁になるでしょう。
やったとしてもソフトなものでしょう。
ま、一応これで最後ですから、長い後書きでシメようとおもいます。
シャイニング戦記の連続小説の初めの辺で『これにはもう飽きたから他のをやろう』というのが始まり『だと』思います。
この『だと』というのは、決定的な理由が無いんです。
何時の間にか決まったんです。ホントに。
結局のところ、何が真実で何が虚実なのかわからなくなりました。
まあ、作り始めてから1年以上経ちましたから忘れるのも無理はないでしょう。

タイトルの意味についてですが、
春1はglobeの「Can't stop fallin Love」の歌詞、
夏は高橋洋子さんの「魂のルフラン」から、
冬はマニアックになりますが、ズンタタライブのパンフレットから、
春2は「ダライアス外伝 THE LAST KISS」からでした。

さて、次に各章ごとのコメントと完成度を100%評価で表そうと思います。

『まあ、とりあえず最初にやることは出会い。というわけです。最後の部分(遅刻ギリギリに登校する所)以外はうまくいきました。80%』

『とにかく何も考えずにいくとこういう結果になる、と身に染みた。予定外としては覗きネタだろう。もう少しとっておこうと考えていたが、使う部分がこれ以外になく、結局ここで使うことになった。40%』

『あーあ、やっちゃったよ。(笑)初の12禁。このへんのシーンだけでなく、夏の膝枕のシーンや他の所でもベタベタな所を作成していると、右手の薬指の根元の方の関節と手前の方が妙にむずがゆくなるのは病気だろうか。なお、このころになってからやたらと風邪をひくことになる。完成度はかなり高い。90%』

『ぶっちゃけた話、受験結果よりもその後の方が大切だった。春2を作成する前、実は冬の終り方が2通りあったのだ。1つはこれで(冬の章の所のこと)、もう1つは……………言っちゃっていいんでしょうか?…結構残酷なオチだったんですけど(といってもフラれるわけではないんですけど)…、まあいいや、言っちゃいましょう。もう1つのオチはおじいさんが死ぬんですよ。突然。………もうちょっと手前から行きましょう。チョコをもらった後、本文では綾を抱いて告白するんですが、もう1つの場合は、勇気が出ずに、呼び止められなく、その日の夜、おじいさんが死んだという事を母親から聞いて、葬式に行くのですが、葬式が済んだ後、綾をなぐさめにいこうとして、綾のところにいくと、綾は葬式の最中には泣かなかったんですが、涼と2人きりになってから、わっと泣き出すんですよ。そして綾を落ち着かせて、帰ってから2、3日考えてから、綾を呼んで告白する、といった話なんですよ。ちなみに考えている間に、秋のところで使われた頭の中での対話がまた起こるんですよ。つまり、秋の所でこんな不思議な対話が使われたのは、この伏線だったわけです。こうして考えてみるともう1つの方がおもしろいのでは、と考えてしまいます。おそらく、そっちの方でも『こっちの方がおもしろそうだよ』なんて言うかもしれません。しかし、私の中の良心が、『悲しませてはいけない。泣かせるのなら嬉し涙を』という反論ができ、この結果このような形になった。そしてその意識が春2を作成する結果となった。完成度85%』

春2

『あーあ、泣かしちゃったよ(笑)プロフィールの設定では雷が嫌いなわけでもないんですが、やっぱり女の子だから怖いんだろう、いや、怖いはずだ。という偏見が出来ました(笑)この章だけでなく、全ての話の中でもそうなのですが、こういうベタベタなシチュエーションは自分がやりたかったことなんです。そう、雷を怖がって抱きついたり、間接キスも全て私がやりたかったことなんです。もちろん泣かせることも。実はひそかに悲し涙を流させたかったんですけど。(笑)完成度95%』

…つーわけで、コメント一覧&完成度でしたが、『シャイニング戦記』にせよ、『綾』に関してもですが、完成度100%はありません。
完成度100%にしてしまったら、『これは完璧だ』という自惚れが生じて、精進することがなくなってしまうんです。元々人間は不完全なもの、不完全なものが作ったものは不完全でしかありえない、ということです。
というより、ことあるごとに誤植、つじつまが合わないんで、100%になるわけがないんですけど。(笑)

さて、これにて一応『綾』は終りですが、もしかするとやるかもしれません。
ある程度できちゃっているんですよ。だからその気になれば本当にやります。
ただ、まだやる気にはないな、と思っています。
もしかしたら不意打ち気味に作るかもしれません。