復活

眞「ふわぁ…………」
眞一郎は大きい欠伸をした。
ここ3時間ぐらい車が一度もこない。
こんなに暇なのは久々だ。
時計をちらりと見た。
あともう少しで閉店だ。
このままこないような気がした。
ふと、車のヘッドライトに気づいた。
そして少しずつではあるがエンジン音が聞こえてきた。
ターボ特有の音だ。
そして、車がようやく見えるようになった。
あれはレビン。
それも赤くてターボチューン。
となると……………葵か?
葵が乗っていると思われるレビンは、ガソリンスタンド内に入ってきた。
葵が乗っていようと客は客だ。
眞一郎は仕事をこなすことにした。
眞「いらっしゃいませー」
眞一郎はレビンを近づいた。
ドライバーに近づくと、眞一郎の予想通り、ドライバーは葵だった。
葵は驚いた顔をしていた。
葵「まさか眞一郎がここで働いているとはな…」
眞「そういや言ってなかったな」
葵「あっと、ハイオク満タン、それと洗車を」
眞「あいよ」




ガソリンを入れ終え、洗車作業に入った。
眞一郎のガソリンスタンドでの洗車はスタッフが代わりに運転して洗車する機械まで動かし、洗車する方式だった。
代行は眞一郎ではなく、別のスタッフだった。




眞「なんでまた、こんな所に?」
葵「ああ、見知らぬ所の運転が好きなんでな」
眞「そっか…………んで、宮崎さんは?」
葵「和佳奈か…………」
葵の言い方が気になった。
なにかあったようだった。
眞「何か、あったのか」
葵「和佳奈は、走るのをやめたよ」




臣「宮崎さんが走りをやめたって!?」
その翌日、臣の耳にもそれは届いた。
臣「何でだ?あんなにうまいってのに………」
眞「彼女の判断だ。俺らにはどうしようもない」




葵「なぜなんです?」
葵は和佳奈に問い詰める。
和「……………」
葵「どうして、プロジェクト・ギアを…」
和「………このプロジェクト」
葵「…え?」
和「このプロジェクトに意味がなくなりました」
葵「意味が……なくなった?」
和「もう、この辺りに強い人はいなくなった」
強者がいなければ、あとは弱者のみ。
それはつまり最強となる。
ゆえに、弱者との相手は無意味だと、和佳奈は考えた。
葵「だからって、なにもプロジェクトをやめる理由は…」
和「……ごめんなさい」
和佳奈はそうつぶやき、FDに乗り込む。
葵「和佳奈!」
葵の言葉から逃げるように去っていった。




数日後。
和佳奈は峠の山頂付近にいた。
ただ、今までと違ってまったく車を飛ばさず、普通の運転だった。
普段ならもっと飛ばしていた。
だが、やる気がわかなかった。
このまま走るのをやめて、今までのお嬢様の生活に戻ろうか。
そんな事を考えていると、唸るエンジン音が耳に入った。
葵の車ではない。
臣?眞一郎?
それでもない。
車のライトが見えた。
4つのライトが和佳奈の目を覆った。
たまらず和佳奈は目を背けた。
あれは………ST205?
車のカラーは深夜に溶け込みそうな黒だった。
黒のST205。
和佳奈は衝撃を感じた。
『あのST205』が?
和佳奈から少し離れたところでセリカは止まり、エンジン音が止んだ。
そしてST205から、男が降りた。
和佳奈はその男に見覚えがあった。
あの人は…………。
そうだ。
思い出した。
私のあこがれの人。
今、なぜ私がここにいるか。
その答えがあの人だ。
男は和佳奈に気づき、少しだが近づいた。
男「お一人かい?」
和「今、この場は…ですけど」
男「いや、ナンパじゃないよ。少し時間潰しに談話を」
和「なら、いいですけど…」




稲垣芹禾。
それがこの男の名だった。
名前は知らなかった。
初めて峠に行った時、最初のドリフトを見たのがこの人のST205だった。
なんともいいようのない興奮があった。
あんな事を体感したい。
そうすれば、きっと何かが見える。




ある程度話をしているうちに、別の車が来た。
車から男が飛び出した。
男「芹禾さん、遅れました」
芹「気にするな。それじゃ行こう」
芹禾は行こうとしたが、
芹「あ、悪い。先行ってくれ」
男「はい」
男を先に行かせ、芹禾は和佳奈に、
芹「ありがとう。談話してくれて」
和「いいえ」
芹「それと、こういう風に話しかけておいて勝手に帰ってすまない」
和「いえ、いいですよ。そちらはやる事があるみたいですし、それに」
芹「それに?」
和「話を聞いていて、私もやる事思い出しましたので」
芹「そうか……楽しかったよ。それじゃ」
芹禾はそう言って、車に乗り込んだ。




そして、再び和佳奈だけになった。
思い出した。
あの人を、目指していたんだ。
あの人に、近づけただろうか。
和佳奈は車に乗り込み、エンジンを入れた。
確かめよう。
一気にアクセルを踏み、スキール音を出す。
先程の上りの時のスピードの比ではない。
コーナーが見えた。
ブレーキを踏む。
その途端、ぐふっと車の全体重が前にうつる。
クラッチを踏み、3速、2速とシフトダウン。
瞬時にハンドルを切る。
スキール音とともに後輪のタイヤを滑らせ、後輪を横に出す。
そしてそのままコーナーを抜ける。
そして再びコーナー。




その夜、スキール音とロータリーエンジン独特のエンジン音が鳴り響いていた。
後書き
プロジェクト・エボリューション(略・プロエボ)第一弾の小説です。
今回、新たに新キャラを作りました。
ちなみに『せりか』と読みます。
なお、車種についてですが、車名はセリカです。
AE86みたいに走り屋風にしてしまうとどんなのかわからないと思いますので。
せりかとセリカ、これは意図的につけました。
自分の名前と芸能人の名前が一致すると結構気になるものだと思ってつけました。
名字は稲垣吾郎からとりました。
結構ジャニーズが好きなため、これ以降新キャラが出た場合、もしかすると他の方の名字を使うことになるかもしれません。
このプロエボも車ものの小説ですが、前作のギアよりもバトルをより迫力のあるようにしたいものです。
それでは次回にて。