反撃

男「こちらはアブソリュートだ。ここの峠の一番速いやつと勝負がしたい」
男の乗っていた車はMR−S。
こいつか。
葵は確信した。
葵「俺だ」
男「あんたか……俺は工藤潤、あんたは?」
葵「篠原葵だ」
潤「葵か……覚えとくよ」
自分の勝利リストにでも載せるってか?上等だ。
潤はMR−Sに乗り込んだ。
そしてMR−Sは峠を攻めていった。
おそらく練習にいったのだろう。
和佳奈が駆けつけた。
和「葵君」
葵「和佳奈…」
和「大丈夫なの?」
相手は一度ちぎられた経験がある。
だが、敗北は次の勝利のカギとなる。
葵「多分、大丈夫ですよ。それにあいつの弱点かもしれないものがありましたから」
和「弱点?」
葵「あいつの車はMR−S、ということです」
和佳奈はわけがわからなかった。
和「MR−Sが、弱点ですって?」
葵「ま、勝ってみせますから、その時までの宿題ですよ」
葵はレビンに乗り込んだ。
そして練習に向かった。





臣「宮崎さん、葵のやつ、勝てるんですかね」
和「いえ、それが……勝てるかもって」
眞「勝算があるって?」
和「ええ、でも………勝算はあの車がMR−Sだということなんですけど……」
臣「え?」
眞「MR−Sだから勝てる?」
和「どういう事なのかしら…………」






練習が終わり、2台が並んだ。
カウントは臣。
臣「カウント行くぞっ!」
2台の車からエンジン音が唸る。
臣「5!……4!……3!……2!……1!……」
数えながら、指を折り曲げていく。
臣「ゴーッ!」
2台がロケットスタート。
先行は…………葵。
和佳奈達は2台の方を見た。
眞「先行は葵か」
臣「さて、MR−Sはどう動くか、か」
和「それにしても……葵君の言葉が……」
臣「MR−Sだから勝てる、か」
眞「………なあ、宮崎さん」
和「はい」
眞「MR−Sってどんな車なんだ?」
和「あまり私も知らないんですけど、トヨタの最新型のスポーツカーという事ぐらいしか……」
眞一郎は和佳奈の言った言葉にはっとした。
眞「それだ」
和「え?」
眞「それが葵の勝算だ」





もうそろそろ和佳奈達は俺の言った勝算の理由がわかっただろう。
さて、MR−S退治をしますか。
コーナーが見えた。
ややきつめの左。
ぐっとブレーキペダルを踏む。
スキール音が流れる。
瞬時にハンドルを左へ。
ズルッと車体のリアの部分が外へ流れ出る。
コーナーに突入し、できるかぎりインへ寄る。
そのままアウトへ出て、加速。
ターボチューンはメカチューンと違って突っ込みには負けるもののコーナーを抜けた後の立ち上がりはメカチューンを上回る。
葵がターボチューンにした理由はそれだった。
峠の走りで速くなるにはざっと3種類のポイントがある。
1つは直線。
2つ目は曲がり。
そして最後はコーナーとコーナーのつなぎだ。
葵は3つ目のポイントに目をつけ、立ち上がり重視の改造、つまりターボチューンにした。
立ち上がりを重視したことによって、つなぎの部分を見事にカバーした。





本当に2週間前に見た車か?
たまたま練習しに行って抜いたあのレビンがこうもすごい走りを見せるとは。
潤「ったく、これだから遠征は面白えよ」
潤は一人愚痴った。
だが、相手がレビンだろうとポルシェだろうとぶち抜く。
この最新型のMR−Sに勝ち目はない。






眞「そうか、そういうことか、葵のやつ」
臣「どういうこった?」
眞「葵の勝算の理由は最新型にある!」
和「え……あっ」
臣「最新型だからって…………あ」
眞「そう。MR−Sは最新型だ。それゆえに日が浅いって事なんだ」





最新型。
響きはいいが、悪く言えば年期はヒヨッコということだ。
つまり、どんなに走り込んだとしても、MR−Sという車の全てがわかるにはまだ日が浅いのだ。






葵はそれが勝算につながるとにらんだ。
そこをつけば勝てる。
とはいえ、相手もそれなりの練習をしている。
葵「至難、だな」
まず、逃げ切りは無理。





葵の予想通り、3つコーナーを抜けた直後に抜かれた。





思い過ごしか。
しょせん、地元レベルか。
後はバックミラーからその存在を消すまで。
それでこそアブソリュートの名にふさわしい終わり方だ。
潤はアクセルをベタ踏みした。






葵「何だよ、こいつ…」
馬鹿っ速。
後ろから見るとうまさがよくわかる。
アブソリュートとはよく言ったもんだ。
葵「けどよ…」
完璧なものはこの世に存在しない。
唯一あると言えば、和佳奈そのものだろうよ。
今は和佳奈のために稲垣芹禾と戦わせる舞台を作るのみ。
葵「負けるわけにはいかねえんだよっ!」
2速にシフトダウン。
そのままエンジンブレーキを使ってフットブレーキを使わないドリフト。








その後、ギャラリーはMR−Sの勝ちかと思われたが、その予想は外れ、チギられるはずのレビンがペースアップした。





くそったれが。
あいつが後ろに回った途端に急に走りが良くなった。
俺の走りを覚えていっているのか。
走りの天才、か。
こんな所で天才と出会うとはな。
だが、それは俺達アブソリュートの目の上のタンコブだ。
障害になるものは全て消す。





前半が終わり、後半にさしかかる。
前半スタート時の逆の展開になった。





臣はトランシーバーを切った。
臣「葵が抜かれた!」
眞「くっそー、最新型でもかなり走り込んでるってか」
和「いえ、大丈夫です」
臣「え、だってあいつ、先行なのに…」
和「わざとですよ」
眞「わざと?」
和「ええ、葵君の得意ポジションは後ろですから」
眞「……思い出した!」
臣「どうした?」
眞「あいつとバトルした時だ」





眞一郎のR34に葵のレビンがくっつくように追う。
眞一郎は驚愕した。
相手の力量がわかって、一度抜いたはず。
それなのにペースが上がっている。
眞「どういうこったよ…!」
全力ではなかったのか?
いや、どうみても全力で走っていた。
バッ!
眞一郎の視界が真っ白になった。
パッシング。
眞「冗談じゃねえぞ!」
眞一郎は怒鳴った。






眞「あの時はマジでやばかった…」
和「葵君は、後ろにいることによって、相手の走りを吸収するんです」
臣「そしてそれを自分流にアレンジしてよりよい走りへと進化するのか」
和「ただ、葵君はそれを自覚していないんです」
眞「……天才と自覚していない天才、か」





潤「つうっ……!」
葵がパッシングしてきた。
まさかあおられるとは思わなかった。
くやしいが、俺の方がわずかに遅いようだ。
だが、こんなところで負けるわけにはいかない。
潤「アブソリュートを…なめるなぁっ!」






どういうわけか、向こうのペースが落ちてきている。
タイヤがズルッているのだろう。
チャンスだ。







潤は後悔した。
いやな敵と会ったもんだ。
だが、なんとしても逃げ切る。






潤の走りはいつしか攻めから守りの態勢に入っていた。
葵はそれを逃しはしなかった。
あとはぶち抜くタイミングのみ。





すでに2台は最終コーナーに近付きつつあった。





最終コーナーが見えた。
外側が谷となっている右コーナーだ。
このコーナーの後はほとんど直線だ。
ここで決着が決まると言っても過言ではない。





あとはここだけキープすれば勝ちだ。
インをついていれば勝てる。
潤はこのまま逃げの態勢に入った。





多分、MR−Sはインをキープしたままコーナーに入る。
それを逆手にとる。
葵はアクセルを全開にした。





コーナー直前で2台が並んだ。
そして、レビンが加速した。





潤「何考えてやがんだ!」
潤は怒鳴った。
死ぬ気か!?


葵「死ぬ訳ないだろ」
こうするんだよ。
シフトダウンの直後、ヒール・アンド・トゥ。
そしてハンドルを右に入れた。





なんだと。
葵のレビンが潤のMR−Sを覆い被さるようにアウトからドリフトをした。
これでは本来の加速を出せない。
出してしまうと接触し、スピンしてしまう。
潤「くっそぉ……!」





コーナーを抜けた。
葵「っしゃあ!」
ターボパワーで一気に加速し、MR−Sをブチ抜く。
そしてそのままゴール。






ゴール後、
潤「あんた、速いな」
葵「まあ…な」
本当はこの峠の最速者ではないのだが、それを言うとさらに傷つきそうなのでやめた。
葵「ところで、教えて欲しいことがあるんだが」
潤「何をだ?」
葵「お前達アブソリュートのメンバーの事」
潤「!……知ってどうするんだ」
葵「ん、このまま守りの態勢じゃ埒がいかないもんでね」
潤「……本気か?」
葵「といっても、俺だけで挑むわけじゃないよ」
潤「FDに乗っていたやつか」
葵「なんだ、知っているのか」
潤「んー、知っていたというより……何かを感じた」
葵「オーラ、か」
潤「ああ、あのFDからとてつもないものを感じた」
葵「そっか…………で、メンバーは?」
潤「あ、悪い。トップクラスのやつは俺を含めて5人だ」
葵「となると、残りは4人か」
潤「そういうこった」
潤はMR−Sに乗り込んだ。
潤「ま、とりあえずがんばれや」
葵「おう」
MR−Sは峠を降りていった。
葵はその場でへたり込む。
緊張の糸が切れた。
葵「ふーっ……」
ギリギリで勝てた。
よくもまあ勝てたもんだよ。
潤の言葉を思い出した。
残りは4人。
葵「あとこんなきついのが4回も……」
ふと、耳を澄ますとロータリーサウンド、それに4A−Gサウンドが聞こえた。
すでに勝ったとの連絡が伝わったはずだ。
葵「ふー……」
その場で大の字に倒れた。
まだ心臓がバクバクいっている。
今夜は眠れそうにない。
後書き
どうも作風が松岡圭祐風になっていくのがわかるような気がします。
ちなみに、今回登場した潤君ですが、潤だけでなく前回登場した芹禾王子(笑)にもプロフィールがありますが、それらの資料はもう少ししましたら発表することにします。
最近、ちょっと峠に行ってやや飛ばして似非走り屋みたいなのをやりました。(車は軽ですけども)
走ってみてわかったことがあります。
漫画とかアニメではバンバンドリフトをかましていますが、はいそうですかと簡単に出来ません。(つーかそれが当たり前)
難しいもんだね、車ってもんは。
かなり怖かったのですが、結構楽しかった。
また暇になったら行ってみたいと思います。
それではまた次回にて。