咆哮

臣「車種は?」
眞「シビック……EK9だ」
シビックはそのクラス内では最強を誇る。
ホンダ独自のVTECと呼ばれる強力なエンジンを搭載しているためでもある。
さらに、数あるシビックの中で最強を誇るのがEK9だ。


EK−9から男が降りた。
男「あんたらか?ギアってのは」
やや関西なまりのあるしゃべり方だった。
葵「ああ」
男「俺は長瀬、長瀬茜。アブソリュートのメンバーだ」
やはりか。
アブソリュートのトップは5人。
MR−Sの潤。
FCの梨花。
インプレッサの美夏。
そしてこの茜と芹禾でちょうどだ。
ということはこの茜に勝てば芹禾に挑める。
茜「で、相手は誰だい?」
臣「俺だ」
臣が名乗りをあげた。
茜「よっしゃ、早速行くで」
臣はうなづく。
茜は早速クルマに乗り込んだ。
和佳奈達が臣に駆け寄る。
眞「臣、がんばれよ」
臣「ああ」
葵「相手はハチロクの最大のライバルだ。気合入れてけよ」
臣「まかせろって」
和「臣君、がんばってね」
臣「大丈夫、宮崎さんを最高の舞台に昇らせてみせますよ」
臣はクルマに乗り込んだ。




葵「カウント行くぞっ!」
カウント開始。





カウントゼロ、先行は臣。



相手はあのアブソリュートだ。
簡単に勝てるもんじゃない。
まずは7割で攻めこんでみるか。



眞「いつも通りのパターンだな」
葵「勝てるのか、それで?」
眞「……厳しいな」
和「それじゃ、臣君の負けってことに…」
眞「いや、それはない」
眞一郎はきっぱりと言った。
眞「あいつには最強の武器があるんだ」




確かに速い。
とてもハチロクとは思えないシロモノだ。
いいクルマにハチロクの皮でもつけてんのか?
アブソリュートでもトップクラスに入る。
だが、抜けないほどではない。
 この程度のクルマは見飽きた。




中盤に差し掛かる頃、茜が仕掛けた。
ストレートに入り、茜のEK−9が臣のトレノを抜いた。




葵「最強の武器?」
眞「ああ、あいつの切り札があるんだ」
和「それは、前に聞いた慣性ドリフトじゃ…」
眞「まあ、それもあるけど、本当の切り札は宮崎さんとのバトルで出したよ」
和「そういえば、一度抜いたあと、ものすごいペースを上げてきましたけど、あれが?」
葵「じゃあ、それまで手を抜いていたってのか?」
眞「そういうことにもなるが、そうそう切り札ってのは簡単に出すモンじゃないんだ」
葵「一体、なんなんだ?切り札ってのは」
眞「一言で言うと、エンジンだ」




あっさりと抜かれたか。
まあ、これはわかりきっている事だ。
さてと、反撃に出るか。
臣はタコメーターを見るのをやめて、前方と耳に集中した。




葵「エンジン?」
眞「ああ、あいつのクルマに搭載したエンジンはハチロクのエンジンではなく、ヒャクイチのエンジンを改良したやつなんだ、ざっと1万回転」
和「それじゃ、通常のエンジンよりも馬力があるから、ペースが上がったんだ」
葵「けど、あいつのクルマ、前に見たけどタコメーターしかなかったぞ」
眞「そう、そこなんだ。相手にメカチューンだと知られるのを回避しているんだ」
和「タコメーター、ノーマルのではせいぜい8千回転じゃ…」
眞「通常のバトルではトップの2千回転を封印しているが、今回や宮崎さんの場合には封印を解除する必要がある。そしてトップ2千回転は、耳がタコメーター代わりなんだ」
葵「ちょ、ちょっと待てよ。それじゃあ臣は1万回転の音を聞き分けていると?」
眞「ああ、あいつが言うにはエンジンが泣くような音をしたらシフトアップのタイミングなんだそうだ」
和「絶対音感、ですね」
葵「なんです、それ?」
和「音楽家がもっている才能で、一種の天才の能力の事ですよ」
葵「ものすごい能力だな…」
お前もすごいもの持ってるよ。
そう言いたいがそれを言うと分が悪いので眞一郎は言うのをやめた。





どうなってんねや。
急にペースが上がりやがった。
さっきまでのは手ぇ抜いてたってのか。
…………このぐらい歯応えがないと面白味があらへん。
でなければ県外遠征の価値はない。





聞こえる。
1万回転の声が。
あのファントムトレノに勝ってから、あの声が聞こえる。
次は左、気をつけて。
ここで3速よ。





葵「メカチューンは曲がりに強い。元々曲がりの強い臣には鬼に金棒だな」
和「うってつけのチューンですね」
眞「あいつが本気になると、エンジン音も特殊に聞こえるんだ」
葵「特殊?」
眞「ああ、あいつのエンジン音から、もうひとつのクルマの音が聞こえるんだ」




バックミラーには臣のトレノが映っていた。
時折、トレノが二重に見える。
…本当に幽霊かも知れへん。





そして舞台は中盤を過ぎ、終盤に入った時だった。
臣がついに反撃に出た。
封印を解除したエンジンは茜を驚愕させるほどの突っ込みを連発する。
すでに臣は茜を凌駕していた。





そして残りのコーナーも数えるほどになった時、
アウトから臣が攻めてきた。
外側は谷になっており、その証拠にガードレールが二重になっている。
ここのコーナーはアウトからではクリアはほとんど無理な事で有名だった。
ここでいくつもの事故がそれを物語っている。
茜もここを練習で何度も走っているため、その難易度はわかっている。
茜「馬鹿な!死にてえのか!」
臣「曲がる!絶対に曲がる!」
このクルマと、あいつがそう言っているんだ。
ガードレールが目前まで迫る。
その先は漆黒で、地獄のように見えた。
ガードレールまで、10センチ………5………3……1…………




次の瞬間、先程のガードレール接近を、巻き戻しするかのように動いた。
残った。
臣「っしゃああ!」
茜「………ふざけんなあっ!」
茜は絶句した。
どうやったらこのコーナーを抜けれるんだ。
このトレノ、幽霊や。





そしてそのまま、臣が先頭をキープしてゴール。
これによって、アブソリュートのトップクラスは芹禾のみとなった。
後書き
つーわけで、今回の新キャラは初の関西系です。
関西弁ははるか昔に書いたことがありますが、ざっと……6、7年振りに使ったことになります。
なお名字の長瀬はTOKIOの長瀬智也から。
さて、次回はとりあえずラストです。
まあ、芹禾王子ぶっ倒して終わりというのはありません。
それに次で終わるわけがない(謎)。
というわけでまた次回にて。