双頭

MR−S撃退後から2週間。


臣「あれから何の進展もなしか」
和「ええ、私達の峠にもきていません」
眞「となると、遠征はあきらめたってことか?」
葵「いや、潤を含めてトップが5人だ。連勝を止めたここにリベンジとして来るはずだ」
臣「残りは4人、か」
和「いずれは第2の刺客が来ますから、待つしかありませ」
その時、スキール音が聞こえた。
眞「来たのか?」
臣「音からすると…………2台だ」
葵「2台?」
和「もしかすると、1対2の変則バトルになりそうですね」



2台のライトが見えた。
葵「車種は………FCと………」
臣「インプレッサか…………」



2台の車が和佳奈達の前に止まった。
FCのドアから出てきたのは女性だった。
女性というより、女の子と言った方がよさそうな顔つきだった。
そしてインプレッサから出てきたのも女性、というよりも女の子だった。
臣「2人とも……!?」
それもただの2人ではない。
双子だ。
眞「双子の走り屋、か」
FCの女性「あなた達がプロジェクト・ギアね」
その風貌にあった可愛らしい声だった。
が、その声質と違って強気な言葉だった。
そして一方はというと、
インプレッサの女性「お、お姉ちゃん……」
FCの女性と違って弱気な声だった。
実生活でもFCの女性の方が主導権を握っていそうだった。
FCの女性「大丈夫、美夏。どうせすぐに片付くから」
美夏と呼ばれたインプレッサの女性はうなづいた。
眞一郎はFCの女性の言葉にカチンときた。
眞一郎はこの手のタイプの女性が嫌いだった。
すぐに片付くだと?
上等だ、片付かないようにしてやるよ。
眞「ああ、俺達がそうだ」
FCの女性「それなら話が早いわ、早速勝負よ」
眞「内容は?」
FCの女性「こっちの2台とそちらの1台でのバトルよ」
予想通りのバトル方法だった。
臣「で、勝敗は?」
FCの女性「私、西村梨花と美夏のうちどちらかを抜いたままゴールすればおたくらの勝ちで、抜けないままゴールは負けってシステムよ。もちろん私達2人抜いてのゴールも勝ちよ」
眞「並列での走行は勘弁してくれよ」
その場合だとどうやっても抜きようがない。
梨「大丈夫、そんな卑怯なやり方はしないわ」
梨花はそう言ってFCに乗り込んだ。
美「あ、そ、それじゃよろしくお願いしますね」
美夏もあわててインプレッサに乗り込む。
葵「さて、と。誰が行く?」
眞「俺に行かせてくれ」
臣「お前の嫌いなタイプそうだもんな」
眞「ああいうのは一度尻を叩かんといかんからな」




美夏の携帯が鳴った。
美「もしもし」
梨「私よ」
美「お姉ちゃん」
梨「どうやらR34のドライバーね」
美「あのかっこいい人?」
梨「まあ、かっこいいは別として、いつも通りいくわよ」
美「うん、わかった」




臣「よーし、カウント行くぞ!…5!…4!…」
カウントが始まり、そして0になった。
臣「ゴーっっ!」
3台同時にロケットスタート。
先頭は眞一郎。
続けて梨花、美夏となった。




先行逃げ切りは俺の趣味じゃないな。
眞一郎は愚痴った。
後ろの方だと前の車のドライバーの技術、車そのものの性能がわかるからだ。
しかし、この場合だと相手を知るどころか自分を知られてしまう。
先行というのはデメリットの要素がかなり多い。





さすがにやるようね。
潤ちゃんがやられたのもうなづける。
まあ、私達には勝てないでしょ。







2人が仕掛けたのは中盤だった。
コーナーを抜けた時だった。
美夏がアウトから抜いた。
続けて、梨花も抜いた。
その時、梨花は眞一郎に向かってあかんべーをした。
ちゃんと眞一郎に見えるようにだ。
眞一郎はそれにカチンときた。
だが、そんなのでいちいち怒っていられない。
冷静にならなければ負けだ。
なんとか怒りを抑えようとした。
だが、梨花は続けざまに、
ゴンッッ
FCのテールランプの所が眞一郎のR34のヘッドライトに当たった。
いや、当たったというより当てたという方が正しい。
そのゴンッッの音で眞一郎はキレた。
途端にバンッとアクセルを踏む。
そして今まで聞こえなかったR34のエキゾーストが唸った。





そしてその音は臣達にも聞こえた。
臣「今のは………!」
葵「FCやインプレッサじゃないな」
和「ということは、眞一郎君の?」
臣「だとすると………やばいな」
葵「あんなエキゾースト聞いたことないな」
和「かなり余計にふかしていますね」
臣「いや、あいつのエンジンはタフだから問題はないんだ。あいつそのものがヤバイんだ」
葵「ヤバイって、あいつがキレたっことか?」
和「だとしたら、我を見失って事故の可能性が…」
臣「いや、ヤバイのは事故とかじゃなく、あの双子らがヤバイんだ」
葵・和「え?」
臣「いつもの的確な走りをやめて、絶対に勝つ走りに変わるんだ」





あのガキども。
痛い目に会わせないと反省しないようだな。
まずは妹か。




あのR34の人、かわいそうだな…。
あとはそのまま我を失って自爆。
これがいつも通りのやり方。
せっかくかっこいい人だったのに。



そう思った直後のことだった。
コーナーに突入した直後、ゴンという衝撃があった。



その後ろにはR34がいた。
原因はR34が後ろからドンと押したのだ。


強く押したわけではない。
コースアウトをさせるほど強く押すのは必要ない。
理想のラインをある程度外す分だけでいい。
その隙間を何もなかったかのように抜けばいい。



葵「何だ、その勝つ走りってのは」
和「まさか、相手にぶつかって壊すんじゃ………」
和佳奈の不安に、臣は笑った。
臣「いや、そうじゃないさ」
葵「じゃあ、一体……」
臣「単純に言うと、プロの走りに変わるってことだ」




残るは1人。
おそらく先程のを見たはずだ。
ぶつけられまいとそれなりの対応をするはずだ。
無論、俺の必勝法はそれだけではない。




なんて男なの。
あんな方法で美夏を抜くなんて。
とんだ逆効果ね。
けど、美夏にそれをやった以上、私には通用しない。
私まで抜かれてたまるか。




眞一郎はキレていてもコースのライン取りは乱れることはなかった。
美夏を抜いた後、ゆっくりではあるが梨花を追いついてきた。
抜くのは時間の問題だった。





そしてコーナーをいくつか抜けた後、眞一郎が仕掛けた。
美夏の時と同様に梨花が次のコーナーに入った直後だった。



梨花は驚愕した。
バックミラー、サイドミラーにR34の姿はなかった。
消えた…………!?
一体どこに……。
梨花が左を向いた。
そこに、R34はいた。
しかも、ほぼ真隣にいた。
梨「きゃあっ!」
叫ぶしかなかった。
いつの間に私の隣に。





臣「俺もくらったことがあるんだが、あれは回避しようがなかった」
葵「消えるライン、か」
和「なんです?消えるラインというのは」
臣「車に乗っていると、見えない部分、死角ってあるだろ」
和佳奈はうなづいた。
葵「その死角から突っ込めば相手は消えたように見えるんで、消えるラインって呼ぶんだ」
臣「ただ、これは相手のレベルが高くないとうまくいかない技なんだ」




外見は梨花が眞一郎に道を譲ったように見える。
だが、その中ですさまじいテクニックが隠れていた。




まだよ。
まだゴールは過ぎていない。



梨花はまだあきらめていなかった。
ゴールが過ぎるまであきらめない。
だが、眞一郎はそんな思いを踏みにじる。


コーナーを抜け、次のコーナーに向かう時だった。
突如、R34のブレーキランプが点灯。
それにつられて梨花もブレーキ。




つまさきを乗せるだけでいい。
たったそれだけで『ブレーキランプは点灯する』。
そして、本当の減速を始めた。



フェイントブレーキ。
これもプロの使うテクニックだった。





臣「何、フェイントブレーキもかよ……わかった」
臣は携帯を切る。
葵「そんなのも使うのかよ…」
臣「あいつ、かなりキレているな」




抜いてもなおこうも攻めてくるなんて。
最悪の敵を挑発してしまった。
けど、私だけでも抜かないと。




フェイントブレーキを使った段階ですでに勝負はついていた。
フェイントブレーキは敵のリズムを狂わすのが主な使い方だった。
そして梨花のリズムは完全に崩れていた。



次のコーナーで眞一郎はトドメに入った。
先程とは違って、オーバースピードでコーナーに突っ込む。
梨花もそれに負けまいと同じスピードで突っ込んだ。



その時点で梨花の負けは確定した。
FCはかなりのコーナリング性能を誇るが、それは一定のスピードでの話だ。
限界領域を超えたスピードではコーナーを抜けるのは無理だった。
一方、眞一郎は一見オーバースピードではあるが、限界を超えてはなかった。
眞一郎は悠々とコーナーをクリア。
そして梨花は曲がりきれず、スピン。
フェイントブレーキによってリズムを狂わされた。
フェイントブレーキにひっかかったのが負けへとつながった。




臣「……眞一郎が勝ったか……で、相手は………ああ……わかった…」
携帯を切る。
葵「勝ったか」
和「双子の方は?」
臣「無事に負けた」
葵「そっか、で当の本人は?」
臣「そのまま帰った。あいつはキレるとそのまま帰っちまうからな」


そして数分後、2台が戻ってきた。
葵「クルマは無事だったようだな」
臣「ま、なんにせよあいつと戦ってケガなしは奇跡みてえなもんだよ」
和「すると、臣君も?」
臣「んー、少しへこんだ程度だけどな」
葵「つくづくあいつを敵に回したかねえな」
それはお前もだよ。
そう言いたいが、葵の能力を本人に教えると分が悪くなるので言うのをやめた。
梨「完敗、ね」
梨花は溜息をついた。
葵「相手が悪かったな」
美「あ、あの…さっきの人は?」
臣「あいつならもう帰っちまったよ」
美「そうですか…」
美夏はしょぼんとした。
梨「あんなやつのどこがいいの…」
美「えーっ、かっこいいのに……」
臣はぽかんとした。
臣「かっこいいねえ……」
眞一郎はルックスではいい方に入るが、あまりモテてはいない。
美夏のようにかっこいいという女性がいるのは珍しい。
臣「そっか、じゃ、その事を眞一郎に伝えとくよ」
美「え、い、いや、いいです」
臣「そうかい?あいつにも春が来たってのに」
葵「そういうお前は?」
臣「……冬だよ」
臣は苦笑いをした。
後書き
今回の新キャラは双子です。
元々、双子かつ女性という設定が好きなので、どこかで使えないかなと思っていましたが、ちょうどいいタンミングでしたので使いました。
ちなみに梨花と美夏の読み方は『りか』と『みか』です。
双子ですから『か』という共通の言葉を使い、かわいいと思われる名前にしました。
ちなみに美夏はビートマニアUDXの3rdから出演している筑波ミカからいただきました。
さて、次回もまた新キャラの予定です。