絶対

和佳奈が芹禾と会った時と同時刻、葵は眞一郎達と会っていた。
臣「そっか……宮崎さん、走り屋引退か……」
眞「で、葵」
葵「うん?」
眞「お前は、これからどうするんだ?」
葵「………わからない」
眞「じっくり考えればいいさ」
臣「宮崎さんを説得するもよし、葵だけでプロジェクトを実行するもよし、だ」
葵「…………」
眞「そういや、葵はアブソリュートってチーム、知ってるか?」
葵「アブソリュート?」
臣「お前達と同じ遠征チームだ」
葵「知らないな」
眞「この辺りのチームがアブソリュートにやられている」
臣「いずれはここにも来るはずだ」
葵「ちなみに、リーダーは?」
臣「ん、名前はわかんねえけど、クルマはST205だったな」




その後、葵は臣達と別れ、家路へと向かった。
その途中、峠に入った。
今日はとばす気がしなかった。
これからどうすればいいのだろうか。
そう考えていた時、視界が一瞬真っ白になった。
葵「うっ………」
パッシングだ。
今日はバトルをやる気にもならなかった。
ウインカーを出して、後ろの車を抜かせた。
車種はMR−S。
トヨタの最新型のスポーツカーだ。
そして、MR−Sが通りぬける。
その時、葵は眞一郎の言ったアブソリュートを思い出した。
まさか、な。
そう思い、通り抜けるMR−Sの横を見た。
ちょうど、葵の視界にMR−Sの貼ってあるステッカーが目に入った。
そのステッカーには、

『ABSOLUTE』

葵「何だと!?」
葵は怒鳴った。
アブソリュートがこんな所に!?
追おうとしたが、すでに遅かった。
すでにMR−Sは先の方にいた。
駄目だ、間に合わない。




葵「くそ…………」
葵は地元の峠に戻り、コーヒーを飲みながら考えていた。
あそこは臣達の近くの峠だ。
おそらく1、2週間後には臣達のホームの峠に来るだろう。
確か、アブソリュートの大将はST205使いだったな。
というと、あのMR−Sは部下ってことになる。
部下であのテクか。
大将はどのぐらいの腕を持っているのだろう。
不安はなかった。
むしろ欲が出てきた。
アブソリュート、ぶっつぶしたいな。
そんな事を考えると、どこからかエンジン音が聞こえた。
……プシャァァァッ…………。
ロータリーサウンド。
まさか…………。
ロータリーサウンドの聞こえた方へ行く。
車が見えた。
黄色のFD。
葵「和佳奈!」
葵は無意識のうちに和佳奈の名を呼んでいた。
そして乗っていた和佳奈も葵を見た。
和「葵…君」
和佳奈は車を止め、車から降りた。
和佳奈は葵の元に駆け寄った。
葵もまた和佳奈の元に駆け寄った。
和「葵君、どうし」
葵は和佳奈を抱いていた。
和佳奈は当初は恥ずかしいから離してほしいと思ったが、思ったよりも心地よかった。
次第に和佳奈は葵に体を預けていた。
葵「………あっ」
葵は今の状況に気付き、ぱっと離れた。
葵「ご、ごめん」
和「い、いえ…」
葵はなんであんなことしたんだろうと、ドキドキしていた。
葵「えっと、和佳奈」
和「はい…」
葵「どうして、ここへ?」
和「ええ、やっと見つかったの」
葵「見つけたって、何を?」
和「私が走り始めた理由が」
葵「………」
和「ある人のドラテクを見て、私は走るのを始めた」
葵「その人って?」
和「…稲垣芹禾。アブソリュートのリーダー」
葵は衝撃を受けた。
ここに、来たってことか。
葵「そうか…………和佳奈」
和「はい?」
葵「あなたは、これからどうするんですか」
和「……………あの人に、挑戦してみたいと思います」
葵「……わかった、でも」
和「でも?」
葵「俺も一緒です」
和「葵君………」
葵「今回は俺達だけじゃありません。この峠、それに周辺の峠が全力をあげての勝負です」
和「……うん」
葵「アブソリュート完全粉砕のため、臣達の力も必要です」
和「でも、どうして葵君がアブソリュートを?」
葵「アブソリュートのメンバーが近くの峠を攻めていた」
和「……」
葵「実を言うと、そいつを追おうとしたけど、あっという間にチギられた」
葵君の腕でも……。
葵「峠を守るのも必要だけど、借りを返したいものでね」
和「うん……」
葵「……………よかった…」
和「え?」
葵「和佳奈が走りを続けてくれて……」
和「だから……」
葵「ん、多分……」
頭をかきながら先ほどの抱擁を思い出した。
葵「さてと、これからどうします?」
和「多分、ST205の人はそうそう簡単には現れません」
葵「まあ、確かに」
和「まずはメンバーに一人ずつ勝つしかないですね」
葵「……そうですね」




翌日、葵は臣達に和佳奈復活の吉報、そしてアブソリュートとの総力戦のための選抜チームのメンバー勧誘を伝えた。




2週間後。
臣達の峠に一台の車が来た。
後書き
1話目の別視点からのお話ということです。
実は結構こういう『この時、あいつは』という展開が結構好きです。
この話、松岡圭祐氏の作品である催眠や千里眼から参考にしました。
催眠、千里眼で有名な松岡圭祐氏の書き方(文章構成とでも言うのかな?)がこういう感じで書かれています。
まあ、これと同じというよりも松岡氏の方がうまいんですけども(それは当たり前だ)。
ある程度話が進んだらパッと別の人の視点になるというのがひっきりなしにあります。
他の方の小説とかも他の人の視点に変わるというのはありますが、松岡氏の場合は区切りをせずに他の人の視点になるということです。
まあ、ひらたく言うと主人公がなんらかの動作をしている最中にもかかわらず別の人の視点に切り替わるということです。
俺の説明だと「はあ?」という返事が来そうなので読んでみればわかると思います。
この後どうなるんだろうと非常に気になって読みふけたのは初めてですね。
松岡氏の小説はある種全員主人公みたいな感じですね。
こういう人のようにうまく書ければいいんですけどね。
…………しかしそのまんまだとパクリになるしな(悩)。
さて、次回はこの話の続きですね。