ライラック

涼「うーん………」
信「どうしたんじゃ?鏡の前でにらんで」
涼「いえね、ここ最近まったくと言っていいほど老けないんですよ」
信「………お主、年いくつじゃ」
涼「もうすぐ40ですよ。そうなりゃしわとか白髪とか出てもおかしくないんですけどねえ」
信「そのままじゃな」
涼「ええ、結婚してからずっと老けないんですよ。それは俺だけじゃなく綾もですけど…………つーかおじいさんや母さんもでしょう」
信「………ふむ、綾や幸枝と一緒にいる事で老けない遺伝が我々にも伝わったようじゃな」
涼「…呪いじゃないですよね」

春「ただいま帰りました」
涼「おっ、春香。お帰り」
春「お父さん、おじいちゃん。ただいま帰りました」
信「うむ、お帰り」
涼「ああ、始業式か。道理で早いと思った」
春「はい。明日から転校生が来るみたいなんです」
涼「転校生……」
春「まだどんな人かはわかりませんが男子みたいです」
涼「……そっか…」
春「……お父さん、どうかしましたか?」
涼「いやなに、ちょっと昔を思い出してね」
綾「どうかしましたか?涼さん」
春「あっ、お母さん。ただいま帰りました」
綾「お帰りなさい。春香」
涼「春香のクラスに転校生が来るみたいだ」
綾「あ、そうなんですか………」
春「………?」
涼「まだどんな男子かわからないみたいだけど」
信「まあ、蓋を開けてからのお楽しみといったところじゃな」

春「それじゃ、私は明日の準備します」
春香が自分の部屋に戻って行った。
涼「………転校生か」
綾「一緒ですね」
信「もしかすると………のう……」
涼「春香とくっつくかもしれないって事ですか?」
信「その可能性はあるの。現におぬし等がそうじゃ」
涼「ま、俺が認めた男じゃないとだめですよ」
信「それもそうじゃな。わしも認める男じゃないとの」
綾「ふふ、春香が産まれてからずっとですね」
涼「……ずっとで思い出しました。いい加減にひいおじいちゃんって言われなさい」
信「なんでじゃ。言いにくいじゃろう」
涼「俺と綾が同じ立場になっちゃうじゃないですか。納得いきませんよ」
綾の母「あら、別にいいじゃない。私だって『お母さん』って呼んでもらってるから」
涼「………それこそ問題だと思うんですが」

男「ふー、あんまり変わってないなあ……」
10………2年振り。
かなりの年月が経過したが、この町はあまり変わっていない。
嬉しかった。
町が持っている色、とでも言うのだろうか。
それが変わっていなかった。
ここの町は好きだった。
正確には好きな人がいた所。
もしかすると初恋だったかもしれない。
突如、父親の転勤でそれは淡いものへとなってしまった。
だが、今ここにいる。
…………あの娘はいるのだろうか。
わずかながらだが家は覚えている。
かなり大きい家だったから今でも覚えている。
確か、ここのところを曲がって……。

春「お父さん、ノートを切らしたので買いに行ってきますね」
涼「ああ。行ってらっしゃい」
春「それでは行ってきます」
パタン、と戸が閉じた。
涼「…………はあ〜、いい娘に育ったなあ……」
深く溜息をつく。
涼「お父さんは嬉しいもんだよ…」
信「………親バカじゃの」
涼「いいじゃないですか。あんなかわいく俺好みになった娘なんですから」
信「やれやれ、良明も生きておったら同じになってたろうな」
涼「おじいさんだって、母さんが立派に成長した時だって、嬉しかったでしょ?」
信「まあの。わし好みにしたからの」

そのまま大人になったみたいだね。
よくそんな風に言われる。
子供の頃とあまり変わっていないようだ。
童顔、というわけではない。
おそらくここの人達に会ったら『ずいぶん大きくなったね』と言われるだろう。
だが『変わったね』と言われる事はないのだろう。
別にそう言われたいわけではない。
むしろ言われたくはなかった。
それが自分だからだ。
自分である限り、それを変えたくはない。
彼女は一目見たらあの少年だとわかるだろうか。
いや、きっとわかるのだろう。
むしろこちらがあの彼女だとわからない可能性がある。
12年という歳月は十分に人を変える事ができる。
………大きい家が見えた。
多分、あそこだろう。
そう思っていた時だった。
その反対側、向かいの家から女性が出てきた。
………。
…。
女性と目が合った。
あの頃の雰囲気と変わっていなかった、女性がいた。

春「光一君……」
光「春香……………」

後書き

さあ、新プロジェクト『FLOWER』の幕開けです。
………最初かなりシリアスですが続きはまたいつも通りかもしれません、というかいつも通りです(笑)。
関係が綾や和佳奈の時とは微妙に違いますからね、この作品独特の感覚でやってみたいと思います。
さて、タイトルについてですがプロジェクト名からあるように花言葉を使っています。
あえてここでは書かないので調べてみて『ああ、なるほど』と改めて話を理解してもらいたいです。
それでは今作のメインキャラである春香と光一のプロフィールです。

如月 春香

公立の高校に通う16歳。高校2年生。
幼少の頃からツインテールの髪型を続けている。
稀にストレートに戻す時があるが母親の綾にそっくりに見える。
趣味は料理。綾から教わっているが、綾の母も一緒だと料理修行のようになる。
その甲斐もあってか、綾に劣らない腕前に(それでも作れる料理はあまり少ない)。
寝顔は涼譲りで、誰もがかわいいと思えるほど。
学力、スポーツ面でも優秀。
天は二物を与えたと涼は語る。

松浦 光一

幼少時、春香を一目見て惚れる。
父親の転勤によって初恋が消えたと思われたが、12年後に再びこの町へ戻る。
中学時代に空手を習う。元々運動神経がいいらしく、黒帯を取るのに時間はかからなかった。その後も実力を挙げ、インターハイでベスト32に(試合直前に急性盲腸炎で不戦敗)。
かなり眠りが深いらしく、ちょっとやそっとでは起きない。
なお学力は上の下。
左の頬を触られるのが嫌い。

さて、光一についてですが松浦という名字の由来は………あややと言えばわかりますね(笑)。
あくまでもこのプロジェクトは綾の派生作品ですから。
左の頬については……ニヤリとしますね。
今回のコンセプトが『らぶコメ』ですから、今までにないものを作れるといいなあと思います。
彩のエピソードもある程度影響があると思ってもらって結構です。
若干彩にて布石を投じた部分もありますので。
ま、高校2年ですから長い目で見てやってください。
それでは次回にて。