チューベローズ

場所は清水寺。
ここから京都の街が一望できるのが清水寺が多くの寺の中でも人気のある理由だろう。
春「ここから見るとすごいですね。光一君」
しかし光一の返事は無い。
春「光一君?」
後ろを向くと光一がいた。
しかし、後ろにいるものの、光一は反対側の壁にくっついていた。
春「光一君、せっかく綺麗な景色ですから見ましょうよ」
光「い、いや、いいよ」

実のところ、光一は高所恐怖症である。
仕方なく光一は春香にひっぱられるかのように高所恐怖症にとって鬼門とも言える清水寺へと来てしまった。
春「……………光一君……もしかして」
光一の行動で完全に理解したようだ。
光「すまん………高い所はどうしてもな…」
春「大丈夫ですよ。高い所にいるからっていきなり崩れ落ちたり気を失って転落するなんてないですから」
…………そんな事を言うから余計不安になる。
光「……本当か?」
春「大丈夫ですよ」
光「じゃあ……ちょっとだけ…」
そろりそろりと壁から離れ、手すりの辺りに近づく。
その時、春香が光一の後ろに回る。
光一はゆっくりとその景色を見回した瞬間、
どんっ
後ろから押された。
光「ぎゃあっ!」
バッと後ろを見た。
春香だった。
光「あ……ぁぁ……」
ずるずるとだらしなくその場に崩れ落ちる。
春「そんなに嫌いなんですか?」
光「怖いよ」
春「大丈夫でした?」
光「……大丈夫じゃねえよ。なまら(※)怖かったよ」

※なまら=北海道の方言ですごく、とてもという意味。

その後、哲学の道から銀閣寺へと向かい、その後団体行動で夜を迎えた。
光「どうする?夜」
夜は自由行動となっている。
部屋で疲れを取るのもいいし、京都の街を歩くのもいい。
春「京都タワーを見ていませんから、行こうと思います」
光「……先生に聞いてみるか」

光「いいんすか。夜出ても」
先生「ああ、別に構わん」
光「いやしかし、京都の夜にゃ出るんでしょ?暴走族」
先生「ああ。たっくさん出るぞ」

光「いや違う。俺は暴走族が見てぇって言ってんじゃねえ」
『楽しみにしてろ』みたいな顔されても。
先生「まあ、そこへ行かなければ問題はない」
光「それもそうっすね」
肝心の暴走族がいる場所は京都タワーよりもかなり遠い場所だからだ。

春「じゃあ、光一君。一緒にいこ」
光「………え゛」
このお嬢さんは俺が高所恐怖症を知っての発言だろうか。
光「昼間の件を知ってて言ってるのか?」
春「ええ」
……………目眩を起こしそうだ。

で、京都タワーに到着。
展望台まで一気にエレベータで上り、エレベータから降りるとそこは展望台。
光「うっ……」
思わずエレベータの中に戻る。
春「ほら光一君、勇気出して」
光「そうは言っても…」
足がぶるぶる言ってる。
春「……じゃあ、これならどうです?」
きゅっ、と光一の手を握る。
その手の暖かさに意識が集中した。
そのおかげか、足の震えは止まった。
春「ほら、大丈夫ですから」
光「あ、ああ…」
恐る恐る展望台の夜景を見る。
春「下は見ちゃいけませんよ」
光「ああ……」
下は見ないように、真正面の夜景のみを見る。
光「すごいな…」
春「綺麗ですね」
光「…………この状況を除けば」
どうやら他の生徒もここに来ているようだ。
展望台と言っても割と狭い。
30人もいればぎゅうぎゅうだ。
そして今、ぎゅうぎゅうの状態になっている。
光「春香、早い所降りよう」
このままだと酸欠しそうだ。
春「そうですね」
春香も賛成。
エレベータの前までなんとか辿り着く。
階段から来ている生徒によって展望台の密度はさらに高くなる。
バランスを崩してタワーそのものが倒れるんじゃないだろうか。
エレベータが開いた。
素早く中に入りこむ。
中には誰もいなかった。
恐らく下り専用だろう。
続けて春香も入ってくる。
そしてこのぎゅうぎゅうから逃れようと多数の生徒が入ってくる。
かと思いきや、左右同時に多数の生徒が入ってきたため、入口でぶつかり、動けなくなった。
さらにぎゅうぎゅうなので動きようがないため、完全にエレベータの入口には人間の壁が出来あがった。
春「………どうします?」
ぎゅうぎゅう詰めから逃れた2人は冷静にこの状況を見ていた。
光「うーん………」
ぽちっ、と閉じるボタンを押した。
生徒「あーっ、光一!閉めんな!」
光「しょうがないだろ。お前ら出れないみたいだし」
生徒「薄情者!」
光「頑張って階段で下りて来い」
ぱたんとドアが閉まった。
春「ふふっ……」
春香がくすくすと笑う。
光「ははは…」
光一もつられて笑った。

後書き

今回光一が高所恐怖症なのが初めてわかったと思いますが、これは北海道にいた時に屋根の雪かきをしている時に誤って落ちたからです。
それ以降は屋根に登らなくなりました(笑)。
ちなみにエレベータは景色が見えないやつなら平気です。
京都タワーのエレベータは………どうだったかな(笑)。
それでは次回にて。