KILLING MY LOVE

だめ、ぶつかる。
和佳奈のFDがガードレールに激突する。
ぶつかった瞬間、ドンという音がした。
そして次にきたのは横Gの衝撃だった。
体の方はシートベルトで固定されているものの、ずれ落ちそうだった。
だが、頭部はシートベルトなんてない。
横Gに耐え切れず、サイドウインドウにぶつかる。
ぶつかる、というものじゃなかった。
殴りつけられたという方が合っていたかもしれない。
ガツンという鈍い音とともに激痛が走る。
わずか1、2秒の出来事だった。
和佳奈にとってはその何倍もの時間でそれを感じた。
体を起こそうとしたが、途端に体中に激痛が走った。
和「うあっ……!」
たまらずうめき声を出す。
頭がボーッとしてくる。
こめかみに熱い液体のようなのがツツーッと垂れてくる。
なんとか手を動かし、それに触れ、見てみる。
和「ひっ…………」
血。
和佳奈は恐怖を感じた。
普段は血なんてそうそう見るものではない。
仮に見たとしてもすり傷か切り傷程度だろう。
だが、和佳奈の手にはそれ以上の量の血だった。
元々和佳奈はホラー系統の映画が大の苦手でスプラッターのあるシーンは怖くて泣き出すか手で顔を覆って見ないようにしている。
体中が震えた。
血を見たせいだ。それも自分のを。
なんとか抑えようと自分を抱くように腕をぎゅっと掴む。
洋服が血で汚れてしまうがそれどころではない。
和「……痛いよ…………怖いよお……………」
和佳奈は知らず知らずの内に泣いていた。
誰か………誰か…助けて………………。
ふと、スキール音を耳にした。
そしてエンジン音とともにターボならではの音。
何度も聞いた事のある音。
葵君だ。
その音が次第に大きくなっていく。
そして車が見えた。
車は赤いレビンだった。
間違い無い。葵君のだ。
ドアから葵が出てくる。
必死の顔だった。
和「……………葵君……」
良かった………来てくれた……。
再び頭痛が走り、意識が遠くなった。
そして和佳奈は薄れていく意識の中、たった一人の男の名を思っていた。
………………………葵…君………………。

葵はドアを開けた。
ベッドには和佳奈がいた。
葵「和佳奈さん」
和佳奈は声に気付いて葵の方を振り向いた。
和「あ、葵君………」
葵「元気そうで良かった………」
先日、和佳奈はタイムアタック中に事故車と遭遇し、事故車を回避しようとしたが、車が思った方にいかず、そのままガードレールに刺さった。
和「ごめんなさい………葵君に迷惑かけて………」
和佳奈はしゅんとなった。
葵「和佳奈さん」
葵はすっと和佳奈に近づく。
そして頬を撫でる。
和「あ……」
和佳奈は頬を真っ赤に染める。
和佳奈はこういうのには慣れていなかった。
葵「俺はあなたの悲しむ顔は見たくありません」
和「はい…………」

幸い軽傷で済んだため、ちょうど今日が退院日だった。
和佳奈の愛車であるFD3Sは修理工場に入院中だった。
その代わりとして葵のターボレビンで和佳奈を家まで送る予定だった。

助手席のドアを開ける。
葵「どうぞ、和佳奈さん」
和「ありがとう」
葵「バケットシートじゃないけど、大丈夫ですか?」
和「はい、大丈夫です」
葵「あまり飛ばさないですけども、怖いと思ったら言ってください。スピード緩めますから」
和「はい」
葵は和佳奈の様子を見て思った。
事故のショックはあまりなさそうだ。
彼女の様子はとても落ち着いている。
車に乗っている彼女しか知らない人は別人のように見えるだろう。
だが、こっちが本当の和佳奈なのだ。

ふと、葵はある場所を思い出した。
葵「あ、そうだ」
和「どうかしたんですか?」
葵「ちょっと見せたい所があるんですけど、いいですか?」
和「見せたい所、ですか?」
葵「ええ、俺のとっておきの場所を」

山道を登り、山頂付近まで来た。
和「ここは………?」
葵「観光雑誌に掲載されてない観光スポットですよ」
確かに、ここまで来るのに舗装されていない道をかなり登ってきた。
おそらくこの付近に住んでいる人もわかりづらいところだろう。
葵「お、そろそろかな」
葵は時計を見る。
和「そろそろって?」
葵「俺があなたに見せたかったものですよ」
葵は夕日を方を指差す。
夕日がゆっくりと海へと沈み、そして海は赤く輝いているようだった。
幻想的な光景だった。
和「わあ……」
和佳奈は感動した。
地元にこんな素敵な場所があったなんて…………。
葵「どうです、この景色」
和「素敵です………こんな景色見たことありません」
和佳奈は横にいる葵の腕をきゅっと抱く。
葵「わ、和佳奈さん…」
和佳奈は首を振った。
和「和佳奈でいいです………」
葵「………………和佳奈……」
和「ありがとう………葵君…」

日没後、山を降りた。
葵「暗くなっちゃいましたけど、大丈夫ですか?」
和「ええ、大丈夫です」
和佳奈の家の門限はまだ十分時間があった。
和「それに、親に連絡すれば朝帰りでもいいですし」
葵「えっ!?」
葵はすっとんきょうな声を出した。
和「ふふっ、冗談ですよ」
しかし、葵は和佳奈の冗談に複雑だった。
それはそれでも良かったのだが…………………。
葵「そういえば、夕飯まだでしたね」
和「あ、そういえば……」
葵「喫茶店でも行って軽く食べますか?」
和「いいですね」
葵「まあその後は腹を休めるということで、ホテルでご休憩というのは?」
和「ええっ!?」
和佳奈は瞬時に赤くなった。
和佳奈の顔を見て、葵はくすっと笑った。
葵「冗談ですよ、和佳奈」
和「もうっ………」
葵「まあ、冗談でなくてもいいんですけど」
和「………………」
先程以上に真っ赤になり、その顔を見て葵が笑い出す。
和「んもーっ!葵君っ!」
葵「はははっ、行きますよ」
アクセルを踏み、夜の中を駈けていった。

後書き

今回は車につきものの事故です。
…………これを書いてる時に気付いたのですが、どうも俺の作品は女性が死ぬか事故もしくは危険な目にあうのがお決まりとなっていたようです。
今回の和佳奈もそうですし、綾も事故っています。
Yaya氏にしか見せていない小説も全ての女性がこの決まり事にあてはまっています。
……………嫌な決まり事だな。(苦笑)
それに比べて男共はほぼ健康ですね。
おそらくこれ以降の作品もきっと女性がこの決まり事のせいでひどい目に会うんでしょうね…………。(溜息)
話は戻りますが、事故は1回くらいした方がいいのではないかと思います。
事故の恐怖は体験しなければ本当にわからないものです。
事故に遭えば色々とわからなかったものが見えてくるはずです。
実際に俺も遭いましたが、色々とためになることがありました。
ただ、事故というより自爆みたいなモンですが………。
さて、今回のタイトルは恒例のスーパーユーロビートから。
キャラについてですが、第1話のキャラから。
どうも新しいキャラクターが生まれず、逆に今までのキャラでどんどん話ができていってしまい、ほとんどこのシリーズの主役という事になりました。
おそらく、次回は臣と眞一郎の話になります。