男「おーい、涼―」
俺は声のした方を振り向く。
そこには見慣れた男がいた。
篠原 葵(しのはら あおい)。
1年の頃から同じクラスで、3年目になる。
もっとも、入学時のクラスがそのままずっと続くため、3年目になるのはしょうがないのだが。
涼「なんだよ、葵か」
葵「なんだってことはないだろ」
涼「で、何か用か?」
葵「ああ、大ニュースだ」
涼「大ニュースぅ?」
葵「転校生が2人来るんだ」
涼「へえ……」
葵「へえってお前、なんて興味のない声を……」
涼「興味ねえもんはねえんだよ。どうせ転校生っても2人とも男だろ」
葵「いや、2人とも女だ」
涼「へえ……ってなんでお前知ってんだ?」
葵「だって、2年の時の修了式であった………ああ、お前は部活だったな」
涼「で、どう?」
葵「ああ、かなりの美人だが」
涼「え、ほんと?」
葵「今お前、声高くなったぞ」
涼「ブスだったら別に興味ないし。で名前は?」
葵「藤原 綾って名前だ」
涼「……綺麗な名前だな」
葵「その子が修了式に来て、でもう1人は今日来るんだ」
涼「そっちの方は?」
葵「ああ、先生から聞いたところ、宮崎 和佳奈(みやさき わかな)って名前だ」
始業式が終わり、教室でホームルームが始まった。
藤原 綾は今日は風邪でお休みのようだった。
そして、もう1人の転校生、宮崎 和佳奈の紹介が始まった。
肩まであるセミロングの黒髪で、かなりの美人だった。
美人6割、かわいい4割といったところか。
宮崎の紹介をしている最中、葵は和佳奈をじーっと見ていた。
転校生というのは珍しいのだろう。
ホームルームが終わり、帰宅となった。
なお部活は休みである。
葵「あっ、涼。これからどうする?」
涼「いや、さっき先生から呼ばれたんだ?」
葵「なんだよ、成績不振でピンチか?」
涼「んなわけねーだろ、俺は成績優秀なんだから」
葵「自他ともに認める秀才かい」
涼「と、いうより要領がいいだけだ」
葵「………そうか」
涼「…葵?」
葵「いや、なんでもねえよ。じゃあな」
涼「あ、ああ」
帰り道、葵はぼけーっとしていた。
………惚れたのかな…俺。
和佳奈さんに。
…かもしんねえな…。
思えば思うほど、胸が痛い。
涼の奴は……どうなんだろ。
翌日。
昼食になった。
葵「涼、話がある」
涼「ん、ああ」
葵「屋上で待っている」
涼「わかった」
そう言って、葵は屋上へと向かった。
涼「なんだ、あいつ」
一体、何の話なのだろうか。
……まさか、綾さんの事か……?
屋上へ出た。
屋上には葵だけいた。
涼「悪い、待たせて」
葵「気にすんな」
購買で買ったパンをほおばる。
葵「なあ、涼」
涼「うん?」
葵「お前、転校生に惚れたろ」
涼「んっ、ぐっ……」
パンを喉につまらせた。
葵「あっ、悪い悪い」
牛乳で流し込んで、つまりを解消した。
涼「な、なんだ一体……」
葵「言わんでもわかる」
涼「……よくわかったな」
葵「……………俺と同じみたいだったんだ」
涼「………ってことは、お前も?」
葵「ああ、間違い無く惚れた。問題は……」
涼「問題?」
葵「惚れた相手がダブっている可能性がある」
涼「そっか……場合によっちゃ、血を見る争いになるな」
葵「…よし、ここはせーので言おう」
涼「よし……ダブったら、正々堂々とな」
葵「ああ………せーのっ!」
涼「綾さんっ!」
葵「宮崎さんっ!」
お互いが別々を狙っているということで2人同時に安堵の溜息をついた。
涼「ふーっ、ダブりはなしか」
葵「ああ」
涼「よしっ、俺は綾さんで、お前は宮崎か」
葵「おおしっ。お互い頑張ろうな」
綾「くしゅっ」
くしゃみが何故か出た。
綾「まだ風邪、治っていないのかな……」
和「くしゅんっ」
こちらもくしゃみが出た。
和「風邪…ひいちゃったかな………」