学校の怪談

夜。
葵「涼、レポート忘れたんで一緒に学校へ取りに行こう」
涼「断る」
がちゃっ、と電話を切った。
再びプルルルル…と電話が鳴った。
涼「………」
無言で取った。
葵「そういう態度を取るなら、俺にも考えがある」
案の定葵だった。
涼「……どういう事だ?」
葵「お前に貸している令嬢オンリーのビニ本の事を藤原に教えてもいいんだな?」
涼「うっ………貴様」
ビニ本と言うのがなんともまあ。
葵「ばれたくなかったらおとなしくついてこい」
涼「……わーったよ。いきゃあいいんだろ」
葵「まだそんな態度をとんのか。それだったらお前に貸している、ろ」
涼「わかりました!一緒に行きましょう!!」
葵の声をかき消すように怒鳴った。
うう………まさかこうも弱みを握られるとは…………。

校内を歩く。
ハンドライトが辺りを照らす。
歩いているのは男2人。
涼「なんでレポを忘れるんだよ」
葵「いやなに、便所行ってたらすっかり忘れちまってな」
涼「お前の記憶はトコロテンか………」
しかもよりによって、レポートのある場所が医学科のところだからシャレにならない。
涼「学校には必ず7不思議みたいのがあって、必ずと言っていいほど生物室のようなところに1つ不思議があるんだよな」
葵「………例えば?」
涼「よく、半分腸とか内臓が見えてる人体模型ってやつが、歩くとか」

葵「そういう事を今話すな――――――っっ!!」
涼「お前が聞いてくるから言っちまったじゃねえか!!」
葵「医学科の教室へは必ず生物室とか通らなきゃならないんだよ!」
それを聞いて、
涼「……………やっぱ帰る。お化けには会いたくないからな」
スタスタと元の道を戻った。
涼と葵の距離がある程度離れると、
葵「藤原に言ってもいいのか?お前に貸してる、ろ」
涼「わ――――――っっ!それ以上は言うなっっっっ!!!!」

で、肝心の生物室の前。
涼「まあ、中に入るわけじゃないからそのまま通ればいいわけだから」
葵「…………中に入るんだが」

涼「なんで入んなきゃなんねえんだ――――――!!!」
葵「俺に文句抜かすな。ここ通らないと教室に行けないんだ」
うげ……………。

カチャリと鍵を開けた。
涼「……って、何でお前が鍵持ってんだ?」
葵「ああ、俺が室長だから」

涼「お前のところ、大丈夫か?」
葵「なんだ、その『そんなんだから医療ミスが起きるんだよ』って顔は」
涼「お前じゃ不安だ」

ドアを開けると、まず早速来たのはホルマリンの匂いだった。
涼「うっ………やだな、この匂い」
葵「そっか?俺はもう慣れた」
涼「お前はここ毎日通ってるからそりゃ慣れなきゃ変だろ」
葵「ここは色んな生物が漬物になってるからな」
涼「例えば…………どんなの?」
葵「カエル、鯉にフナは当たり前で、鳩もあれば鮭もいる」

涼「その鮭、メス?」
葵「…………………お前、食べようとしてるな」
涼「で、メスかオスかどっちだ」
葵「メスだけど、卵はないぞ」
涼「え、何で?」
葵「いや、俺も聞いたんだけど、何でないのかわかんないんだ」
涼「………誰か、食ったのか?」
葵「…どうだろう」
涼「別の意味で7不思議だな」

涼「しかしまあ、色々といるなあ」
ホルマリン漬けになっている生物を見ていると、何かが動いた。
涼「おい、今、何か動かなかった?」
葵「気のせいだろ」
涼「いやだって、死んでんのに動いてんだぞ」
葵「ネズミでもいたんだろ」
涼「ネズミねえ……」

生物室を抜けると、教室があった。
涼「ここか?」
葵「ああ、ちょっと待っててくれ」
葵が教室の少し奥に行き、机の下を探した。
葵「えーと、確かここに………………あった!」
涼「よーし、とっとと行こうぜ。何があるかわからんからな」
葵がこちらに戻り、生物室へ続くドアを開けた瞬間、

先程話した、人体模型が立っていた。

涼・葵「ぎゃあああ――――――っっっ!!」
叫ぶと同時に、2人同時で蹴り飛ばした。
人体模型は吹っ飛び、バラバラになった。
涼・葵「とおっ!」
バラバラになった人体模型の上を飛び越え、一気に生物室内を抜け、廊下に出た。
涼「な、な、な、な、何であんなのがいるんだ!?」
葵「知らねえよ!とっとと逃げんぞ!!」
と、葵が持っていたハンドライトが、急に光を失い、辺りは暗闇になった。
涼「げっ!どっちへ行けばいいんだ!?」
生物室は廊下の真ん中にあたるため、どちらが近いのかわからない。
葵「とにかく、下手に別の道を行くとやばいからさっき来た道を戻ろう」
涼「賛成!」
2人は真っ暗闇の中を駆けた。

涼「おい、どっちだ!?」
葵「くっそー、どっちだったかな」
今日はよりにもよって新月。
月の明かりを頼りにすることはできない。
自分の記憶力が全てだった。
目の前の3メートル先が何も見えないという状態だった。
後ろから、カタン、カタンという音がした。
プラスチックのような硬いものが地面に当たっている。
涼「まずい、さっきの人体模型だ」
葵「あー、くそっ、どないしよ………」
……………左よ。
誰かの声がした。
涼「聞こえた?」
葵「ああ、左って」
涼「………信じてみるか」
葵「ああ。人体模型が来たらまた蹴るまでだ」
2人は左に向かって突っ走った。

しばらく走ると、地面の感触が変わった。
小石だ。
涼「外…か?」
葵「ああ。なんとか助かったか」

校門を抜け、一息ついた。
涼「……………っふ――――――…」
葵「どうやら人体模型も来ないみたいだな」
助かった………………。
涼「あの声がなかったらやばかったな。先生がいたのかな」
葵「いや、先生達はお盆でいないんだ」
涼「……じゃあ、生徒が残ってるんじゃ」
葵「いや、今日は完全に休校日だから誰もいない」
涼「じゃあ…あの声って」

涼・葵「―――――――――――――――――――――――――――――――――っっっっっ!!!!」
2人は全速力で自宅に戻った。

綾「和佳奈ちゃん、涼さんの姿が見当たらないけど……」
和「確かにいないけど、葵君も……」
綾「風邪かな………帰りにお見舞いに行ってみるね」
和「じゃあ、私も葵君の家に行ってみるね」

涼の部屋をノックする。
綾「涼さん、綾ですが」
返事が無い。
綾「?…………入りますよ」
部屋に入ったが、誰もいない。
綾「………………涼さん?」
ふと、視線を感じた。
視線を感じた方を見ると、押入があった。
ここにいる事はないだろう。
念の為、ということで押入を開けた。
しかし綾の考えとは裏腹に、涼がいた。
綾「りょ、涼さん…!?」
涼「綾さんか………良かった」
そう言って、ぎゅっと綾を抱き締めた。
綾「涼さん!?」
涼「ごめん、ちょっとだけこうさせて…」

綾「何が、あったんですか?」
涼「……とんでもないのを体験してね。葵と一緒に」
綾「葵さんもですか…?」

葵「ああ、和佳奈さんか」
和「どうしたんですか?こんなにやつれて……」
葵「…………………………………………」
和「……葵君?」
葵「…………涼と一緒に、幽霊を見た」

2人の男が幽霊の事を話した直後、笑われて、2人の男がどよ〜んとなったのは言うまでもない。

後書き

作者自身、忘れていた事ですが、この2人がこのインフィニティの主役ですから。
まあ今後もこういった2人で何かやらかすようなのを書くと思います。
それでは次回にて。