過去の精算

葵「なあなあ、卒業旅行にでも行かないか?」
涼「……そっか、あとちょっとで卒業か」
綾「私はいいですよ」
和「ええ、私も」
葵「涼は?」
涼「ああ、俺もいいけど……どこにする?」
葵「ん、場所は決まってる」
綾「どこですか?」
葵「温泉」
涼「温泉?それはまたずいぶんな所だな…」
葵「京都は高校ん時に行ったし、かといって都会は好きじゃないから、それだったらのんびりした所の方がいいかなと思ってさ」
涼「俺は別に構わないけど、綾さんと和佳奈さんは?」
綾「ええ、私も街中はあまり好きじゃないのでいいですよ」
和「私も。そっちの方がいい思い出になるかもしれませんから」

涼「………結構遠いな。というか秘湯という雰囲気だな」
回りは一面山、山、山。
人よりも動物の方が多そうな場所だ。
葵「ここはあんまし知られていない所でな。ここだったらゆったりできそうだなと」
涼「………どうやって調べた?」
葵「んー、インターネットで少し調べてたら秘湯に関するサイトがあったんだ。そしたらここが掲載されてたんでな」
綾「素敵な所ですね。緑がいっぱいで…」
和「こういう所はなかなかないですからね」
涼「予約はしてあるよな?」
葵「その辺は大丈夫だ。きちんと予約してあるよ」

そして女将さんに部屋を案内してもらう。
涼「おい葵」
葵「なんだ」
涼「普通は俺と葵、綾さんと和佳奈さんだろ?普通は」
葵「別にいいじゃん」
涼「いいじゃんつったってさあ……」
何も俺と綾さん、葵と和佳奈さんに分けなくてもいいのに…。
綾「私は……いいですけど」
まあ、俺だってそっちの方がいいけどさ。

食事も終わり、そろそろ夜に近づきつつあった。
涼「そろそろ、お風呂だな」
綾「確か、露天風呂でしたね」

涼「……葵、入ってたのか」
葵「ああ」
風呂にざぶっと浸かる。
涼「ふう………」
葵「そういや、就職決まったんだったな」
涼「ああ。お前は?」
葵「俺はまだ医者にはなれないし、研修のために名古屋へ行く」
涼「研修って…………どのぐらいだ?」
葵「わからん。3年はかかると思う」
涼「……………和佳奈さんはどうするんだ」
葵「………一緒に来て欲しいと言った」
涼「それで、どうなった?」
葵「………わかったって」
涼「そうか…………っておい、喜久子さんは?」
葵「彼女は残るそうだ」
涼「…………そういや、健司が喜久子さんのボディガードに行っているみたいだけど」
葵「ボディガード、とまでは行かないだろうけど、喜久子さん1人じゃ危ないからな」
涼「………もしかすっと…」
葵「…………おいおい、まさかくっつくって言うんじゃないだろうな」
涼「いや、わからんぞ。あいつ年上好みだったからな」
葵「え、じゃあ何だ。今夜進展するかもってことか?」
涼「…………ありえるな…………あ、そういや……どうなってる?」
葵「いきなり話を変えやがって…………ああ、したよ」
涼「そりゃ良かった。自然消滅は免れてるわけか」
葵「ま、同行してくれるわけだからな………で、お前さんは?」
涼「………あれから一度もしてないが」
葵「……よく我慢できるな」
涼「我慢しているわけじゃない。その気になればやれるだろうけど」
葵「……すごいな」
涼「別にすごくはないだろ」
葵「ま、お互いにうまくいっているわけか」
涼「そういうことだね」
葵が立ち上がる。
葵「じゃ、俺は先に上がるよ」
涼「ああ」
ぐうっと背伸びをした。
涼「ふう……」
後少しで別れちゃうんだなあ……。
涼「…………ん?」
ふと、奥の方を見ると、何かがいたように見えた。
涼「……………野猿?」
まあこんな秘湯じゃ入っていても不思議ではないが。
………まあ猿と戯れるのもいいだろう。
早速そちらの方へ向かった。

少し進むと、狭かった通路が急に広くなった。
涼「何だ、第2風呂か」
しかし、猿の姿はいない。
確かに何かが風呂に入っている音がしたのだが。
涼「おかしいな……確かにいるはずなのな…」
声「えっ、涼さん!?」
今のは…
声のした方を向く。
涼「………綾さん………何で……男湯に?」
綾「こ、ここ………女湯ですよ」
涼「え?」
確かに男湯のはずだ。
涼「向こうの通路っぽいとこから来たんだけど……あ」
改めて通路を見ると、おそらくいつもは閉じているのであろう扉があった。
涼「じゃあ……俺……」
こくこくと綾が真っ赤になりながらうなづく。
間違えて入ってきてしまった。
声「綾ちゃん、どうしたの?」
まずい、和佳奈さんまでいるのか。
戻る時間はない。
すぐさま深呼吸をして、潜った。
綾「あ、ううん。何でもないの」
和「?………そう。あ、私そろそろ出るから」
綾「わかりました」
和佳奈が出ていった。
涼「ぶはっ!」
湯から飛び出す。
涼「ふう…………なんとか危機は去ったか」
綾「もう………もし和佳奈ちゃんが入ったばかりだったら大変でしたよ」
涼「……他は?」
綾「今日は、私達だけみたいです」
涼「………ということは……」
綾を見る。
途端に綾が真っ赤になる。
綾「……………それは……その……」
涼「まあ、予行演習ということで」
綾「もう……」
涼「別に恥ずかしい事はないと思うけどなあ……3度程見てるし」
綾「………2回じゃないんですか?お見舞いの時と………その……」
……………………思い出した。
夏季講習の日だ。
綾「…………涼さん?」
涼「………ごめん、綾さん…」
綾「え?」
涼「夏季講習の時さ…………綾さんの下着姿を見てないって言ったよね」
綾「……はい」
涼「………見ました」
綾「……………」
涼「………………怒る?」
綾「……ふふっ」
涼「え?」
綾「怒りませんよ。もし、その時に見たと言っても……軽蔑はしませんよ」
涼「どうして?」
綾「見られたという事よりも、正直な人って思いますから」
涼「…………ふう」
ようやく過去が懺悔できた気がする。
肩の荷が降りた気分だった。
涼「……出よっか」
綾「はい」

後書き

さて、このプロジェクトも終わりになります。
残り1話。
このプロジェクトが終わっても、別のプロジェクトへと発展していきます。
綾に関するプロジェクトではこれが最初の終わりへとなります。
それでは最終話となる次回にて。