涼「演劇?」
葵「そ。大学祭でのイベントで、俺らのクラスが演劇をやるんだ」
綾「何をやるんですか?」
葵「白雪姫」
和「白雪姫ですか。それで、キャストは?」
葵「これから決めるみたいなんだけど……全部ひっくるめてくじ引きなんだ」
涼「もの凄い公平だな。立候補はないの?」
葵「それだとやりたくない役とか出るからな」
綾「くじ引きはこれからですか」
綾「私は照明ですね」
和「私は黒子です」
綾「葵さんは?」
和「あ、今くじを引いてる所です」
綾「………ものすごい顔をしていますけど」
和「何を引いたんでしょう?」
葵「………王子役だ」
和「えっっ!?じゃあ、お姫様役とキ、キ、キ、キスをするんですか!?」
葵「それはないと思うけど……涼は?」
綾「今引いて…………あっ」
和「葵君よりものすごい顔、してますよ」
綾「何の役ですか?」
涼「………………………め」
葵「なんだって?」
涼「……白雪姫」
葵・綾・和「ええっ!!?」
涼「そういう反応が来ると思ってた…」
和「と、という事は、葵君は涼君とキスするんですかっ!??」
涼・葵「いや、それはないと思うし、したくない」
同時に溜息をつく男達。
涼「なんで女装しなきゃならねえんだ………」
葵「なんだって涼を口説かなきゃならねえんだ……」
綾「でも、公平なくじ引きですから」
………それを言ったらおしまいだよ。
2人は心底そう思った。
そして練習が始まった。
とは言うものの、綾は照明なので対してやる事はないし、和佳奈もカーテンをひっぱるだけなので対して大変な作業ではなかった。
大変なのはあの2人である。
台本を見て、チェックしながら演技をする2人。
ちなみに今やっているのはらぶらぶなシーン。
それゆえに…
バタリ、バタリと女子が倒れる。
和「ものすごい淫靡で背徳の薫りが……」
涼・葵「すまない。今真剣にやってるんだが」
2人とも役に徹するタイプである。
それゆえに。
和佳奈はそう言いたくてたまらなかった。
んでもって、大学祭当日。
和「わあ、葵君かっこいいです」
葵「そ、そうかな」
妙に似合っていた。
一方、涼の方はというと、
綾「…………………」
涼の姿にしばらくうっとりしていた。
葵「涼」
涼「んだよ」
葵「お前はオカマで食っていける」
涼「俺はオカマになる気はないぞ」
しかしどう見てもこの姿はおミズの店で貢ぎたい人No.1の人だ。
そのぐらい美人になっていた。
なお、メイクは別のクラスの人がかなりうまいという話を聞いて、その人を呼んでやってもらったという徹底振り。
涼「なぜにそこまでこだわるんだ…………」
賞品とか出るのならまだわかる。
和「あ、そういえばこれ」
和佳奈がスプレー缶を渡す。
涼「?」
和「口に向けて中身を蒔いて、ちゃんと吸ってください」
プシューと出し、思いっきり吸った。
涼「おい、これで何か…あっ!?」
ものすごいかわいい声になっていた。
涼「こ…これ、ヘリウムガスか」
和「ええ、演出担当の人が持って来てくれたんです」
涼「そこまで徹底すんのか……」
葵はポン、と涼の肩を叩き、
葵「うっしゃ、がんばろうぜ。涼子ちゃん」
涼「勝手に人の名前を変えるな……」
涼「信じられん………まさかここまで大反響とは」
葵「終わった後、観客全員がスタンディングオベーションだったからな」
和「と、いうより涼君に向けて、でしたね」
涼「そんなに、俺の女装姿、すごかったのか……」
綾「ええ、ほとんど女の子でしたよ」
完璧な演技に完璧なメイク、ついでに完璧な声。
これなら女と間違えるのも無理はないだろう。
ドサドサッ
下駄箱のロッカーを開けると、かなりの量の手紙が入っていた。
葵「ものすごいな………」
涼「あれから3日経ってんのに…」
それでもこの量だ。
葵「手紙の内容は?」
涼「またやってほしいとか、付き合ってくれとか。中にはツバくれとか。それも男女にな」
葵「シュレッダー、貸すか?」
涼「頼む」
葵「にしても、恋人は大変だよ」
涼「ちょっとヤキモチしてるからな」
葵「ちゃんと藤原さんのご機嫌とれよ」
涼「大丈夫。俺は綾さん一筋なんだからよ」
葵「……………大衆の面前で堂々と言うなよ」
涼「あ」