like will 3

和「………やっぱりないか…」
喜久子は何かを探している和佳奈を見つけた。
喜「和佳奈さん、どうしました?」
和「ええ、アルバムを探しているんです」
喜「アルバム、ですか……」
喜久子はアルバムの場所を思い出そうとしていたが、ハッキリとここだ、というのは出なかった。
喜「ちょっと私には………」
和「そうですか……」
和佳奈はしゅんとなった。
おそらく、両親の顔を見てみたいのだろう。
物心ついた時には両親は他界していて、両親の記憶がない。
それゆえに、アルバムを見てみたいのだろう。
引越しした時、アルバム等の大切な物はきちんとこちらに運んだはず。
間違い無くこの家の中にある。
喜「それじゃ、私も探します」
和「いいんですか?」
喜「はい。晩御飯の買出しも終わりましたので」
和「それじゃ、申し訳ないですけど、下の方の物置をお願いします」
喜「わかりました」

ない。
どこにもない。
一体どこにあるんだろう。
思い出せ、喜久子。
最後に見たのはいつ?
……………確か……引っ越す時にアルバムを手にした事が………。
喜「……風呂敷?」
そうだ。
風呂敷に包んだ記憶が…。
喜「あっ!」
思い出した。

喜「確か……ここに入れたはず…………」
3階の物置部屋にとりあえず置いといて、そのままにしてしまった。
物置部屋の電灯のスイッチを入れる。
パッと電気がついたその時、ネズミがいた。
喜「きゃあっ!」
喜久子は驚いて、しりもちをついた。
腰が抜けた。
ネズミは電灯の明かりか喜久子の驚きの声に気付いてもうどこかへ隠れてしまった。
もうネズミがいるなんて。
もしかするとネズミも一緒に引っ越してきたのだろうか。
しりもちをついたお尻をさすり、風呂敷を探した。

喜「風呂敷………風呂敷………………あった…」
風呂敷に包まれているのを見つけた。
さすがにどんな風呂敷だったかどうかは覚えていないが、風呂敷に包まれているのはこれだけなのでおそらくはこれだろう。
風呂敷を開けると、大きめの本らしきものが数冊あった。
試しにそのうちの一冊を手に取り、開けてみる。
写真があった。
それもいくつも。
写真には幼い子供と、その子供の両親らしき人物がいた。
これだ。

喜「和佳奈さん、ありました!」
和「本当ですか?」
喜「ええ、どうやら引越しの時に物置に置いてしまったみたいで…………申し訳ありません」
喜久子は深々と頭を下げた。
自分の責任だ。
和「喜久子さん。いいんですよ、見つかったんですし」
喜「でも………」
和「誰にだって失敗はありますよ。私だって料理を手伝ってもよく失敗しますし……」
喜「………」
和佳奈なりの励まし方に、くすっと笑った。
和「それじゃ、一緒に見ましょう」
喜「いいんですか?」
和「ふふっ、見たいって顔に書いてありますよ」
喜「えっ……あ……」
喜久子は顔を赤くしつつ、微笑をした。
和佳奈はこういう喜久子の表情が好きだ。
大人の顔、とでも言うのだろうか。
程よい色気とかわいさ。
自分には無いものがある。
自分もこういう女性になりたいとつくづく思う。

何年振りだろう、アルバムを開けるのは。
アルバムを開けると、まず最初に目に飛び込んで来たのは2人の写っている写真だった。
女性がウエディングドレスを来ている。
挙式に撮ったのだろう。
写真の質から見ると、だいたい20年ほど前といったところか。
和「……私のお父さんと……お母さん?」
喜久子は何も言わずにうなづいた。
ほぼ間違い無いだろう。
両親の顔をじっと見てみる。
自分はどちら似なのだろう。
………………母親の方だろうか。
和「喜久子さんはどっちだと思います?父親似か、母親似か」
喜「そうですね………………お母様の方に似ていますね」
やはりか。
ぼうっと見ると、母親の顔はどこか見慣れた顔をしている。
自分の顔だった。
若干、違う部分はあるものの、大半は似ている。
次のページをめくると、今度は2人とも普段着を着ている写真があった。
この写真も質から見ると挙式の数日後といったところか。
2人とも幸せそうな顔をしている。
もし、自分が結婚したらこんな幸せな顔になるだろうか。
相手が葵君だとして……………。
顔が熱くなるのがわかった。
喜久子がこちらを見て、くすっと笑った。
多分、顔が赤くなっているのがわかったのだろう。
喜「葵さん、の事ですね」
さらに熱くなった。
和「き……喜久子さん……」
どうも喜久子には考えてる事が読まれる。
喜「ふふ…和佳奈さんの癖ですよ」
和「癖?」
喜「和佳奈さんはいい事があると顔にすぐ出るんです。それも幸せな事が」
和「………」
喜「癖は自分ではわかりませんよ。他人に言われる事で癖がわかるんです」
この辺りは喜久子さんの方が上か。

しばらくアルバムを見て、次のページをめくるが、そこには何もなかった。
最後に見たのは幼い子供と一緒に写っている両親だった。
そこからは何もない。
まるでそこから時が止まったようだった。
和「……………………」
喜「…………和佳奈さん?」
和佳奈の反応に喜久子が気がついた。
和「………もし……生きていたら…………どうなってたでしょうね…」
和佳奈の目から涙が溢れる。
どんな父親だったのか。
どんな母親だったのか。
私は知らない。
他の人だったら知ってるのに。
どうして?
どうして私は知らないの?
和「………っく……す…っ………」
喜「…………」
どうしたら、どうしたらいい?私は…。
自分が、和佳奈に対してできる最善の事は………。
……………これしかない。
すっと和佳奈の背中に手を回し、こちらへ寄せた。
とん、と体が当たり、抱擁の形になった。
余った手で、和佳奈の頭を優しく撫でる。

しばらく撫で続けていると、しゃっくりも嗚咽もなくなった。
とりあえず落ち着いたようだ。
喜「和佳奈さん……」
和「……は……はい…………」
喜「あなたには、両親がいません」
和「…………」
喜「だけど…………あなたには、私がいるじゃないですか」
和「………喜久子さん……」
喜「……あなたと私だけの時……、お母さんって、呼んでいいですよ」
和「喜久子さぁん…………」
和佳奈は再び泣き出しそうになった。
先程は辛さに。
そして今度は、優しさに。
喜「泣き虫さん、おまじないをしてあげるから、泣き止んで」
そっと和佳奈の額にキスをした。

後書き

インフィニティでは質の高い作品になりそうです。
この作品、実は百合ネタなんです。
でも、読んでいただけるとわかりますが、どろどろしたやつではないでしょ?
今後、百合があっても極端なものはやりません。
今回のようなものになると思います。
まあ、極端になった場合、どうなろうとも綾は総受けですけど(笑)。
そろそろ喜久子さんの設定が固まりつつありますので追加するとしますか。
それでは次回にて。