さよならの明日へ

涼「……………」
葵「…………ま、そういうわけだ」
涼「そっ……か」
綾「和佳奈ちゃん、元気でね」
和「綾ちゃんも、涼君と幸せにね」

あの旅行後、俺達は卒業した。
俺と綾は結婚した。
葵と和佳奈さんはまだ結婚式を挙げてはいない。
向こうの方で市役所で婚姻届を出すだけのようだ。

涼「いつか……戻ってくるか?」
葵「……わからんな。間違いなく1、2年は戻ってこない。喜久子さんは健司がなんとかするようだが……」
涼「健司なら大丈夫だろ。あいつは結構頼りになるやつだから」
葵「そうだったな……」
涼「…………」
葵「…………」
綾「…………」
和「…………」
言葉が出ない。
もうすぐさよならだというのに。
涼「なあ……その…」
新幹線の発車のベルが鳴る。
葵「時間か…」
葵が新幹線の扉へと向かう。
涼「葵!」
葵がこちらに振り向く。
涼「さよならはしない!また会おう!」
葵はふっと笑った。
葵「ああ。またな」
葵は新幹線へと乗りこんだ。
涼「和佳奈さん、葵と幸せにな」
和「はい、涼君の事は忘れません」
綾「和佳奈ちゃん……」
和「綾ちゃん…」
綾がぎゅっと和佳奈さんを抱いた。
和佳奈さんも抱き返す。
綾「忘れないから…和佳奈ちゃんの事」
和「うん……私も」
抱くのを止め、そっと離れた。
和佳奈さんも葵に続いて新幹線に乗りこむ。
こちらに振り向き、深々とおじぎをした。
それにならって俺達も。
ドアが閉まった。

新幹線が動いてどのぐらい経っただろうか。
時計をちらりと見た。
すでに5分経過していた。
綾「涼さん……行きましょう」
涼「…ごめん、もうちょっといい?」
綾「……はい」
涼「……ほんの5分前か」
綾「涼さん……」
涼「ほんの、たった5分前に…俺達はいたんだな………それがごく当たり前のものだとずっと思ってた」
綾「………」
涼「いなくなると………寂しいな……」
綾「……」
涼「もし、綾があのままだったら俺はどうなってたんだろうな」
綾「…もう1人じゃありませんよ」
涼「…うん」
綾「私がそばにいます。ずっと………」
涼「ありがとう……綾」
綾「いきましょう。一緒に」
涼「………うん」

半年後。
綾「涼さん、お手紙が来ていますよ」
涼「誰から?」
綾「えっと………あっ、葵さんと和佳奈ちゃんからです」
涼「本当か!」
大急ぎで綾の所へ向かった。

涼「やれやれ、やっと連絡が来たか」
裏面を見ると、まず最初に目に入ってきたのが写真だった。
葵と和佳奈さんが写っている。
ふと、和佳奈さんの両手に何かがあった。
赤ん坊だ。
涼「……子供、産まれたんだ」
綾「あっ、本当ですね」
肝心の文章はこうだった。
特に何事もなく幸せに暮らしているとの事だ。
葵の医者へ向けての研修は順調だ。
どうやらそのまま向こうで開業医をする気のようだった。
涼「…………幸せそうだな」
綾「ええ………」
じっと綾の方を見る。
綾「どうかしましたか?」
……………………………………………………。
涼「なあ、綾…」
綾「はい」
涼「………………子供、欲しい?」

後書き

この作品でプロジェクトInfinityは完結となります。
約1年間このプロジェクトを書きつづけてきたわけですが、様々なジャンルを書いてきたと思います。
今回の話の中で綾が『いきましょう』のセリフの重要性、涼の最後の…の続く思考、それらが感じ取れたら幸いです。
最後のセリフ、それは新たなるプロジェクトの始まりになります。
それでは次回作である新プロジェクト、『FLOWER』でお会いいたしましょう。