葵「あ〜あ…………」
涼「なんだよ、せっかくの修学旅行だっつーのに」
葵「なんで高校3年にもなって京都へ行かなきゃならないんだよ」
涼「そうか?」
葵「そりゃお前は京都好きだから苦でもないだろ」
涼「でも、ま、多数決で決まったんだから」
………一体どういう多数決だったんだろう。
葵はそれが気がかりだった。
新幹線に乗り、こだまなので京都までは約3時間。
涼「そういえば、綾さんも京都を選んだんだっけ」
綾「はい、私も京都が好きなんです」
涼「あの古風な感じと、歴史の重みがあるからね」
藤原さんと涼がものの見事に意気投合している。
しかしこちらはと言うと、
和「葵君は京都、好きじゃないんですか?私好きなのに……」
…この有り様です。
葵「い、いや別に嫌いというわけじゃないんだけど、中学も京都行ったから…」
和「……私も京都、選んだんですけど……嫌でした?」
さらにこの有り様です。
葵「いやいやいやいやいや、そんな事はないよ」
和「良かった………」
和佳奈さんの機嫌を良くするのにも一苦労だな。
そして京都に到着。
中学の時とは違い、6泊7日と結構長い。
まず最初にホテルへ行って部屋に荷物を置きに行く。
涼「なあ、なんでお前と一緒なんだ?」
葵「残りモンだよ、俺ら」
大半が4、5人で決まっていたのだが、俺達だけ残ったので、2人のみとなった。
涼「……と、いうことは女子も男子と同じ人数だから、同じパターンじゃないのか?」
葵「ちょっと待って、しおりを見てみる………あ」
涼「やっぱりあったか」
葵「いや……メンバーが…………」
綾「私達だけだとちょっと贅沢ですね」
和「でも、私達2人だけ残ってしまったから……」
葵「と、いうわけだ」
涼「しかし、なぜ綾さんと和佳奈さんと一緒じゃないんだろうな」
葵「そりゃお前、不純異性交友扱いされるからだろ」
涼「…なるほど」
一緒になった次の日には男には恨まれ、女には軽蔑扱いされるからか。
葵「で、どうするよ」
涼「……綾さん達と一緒に行くか?」
葵「ああ、そうするか」
涼「部屋はどこだっけ」
葵「えーと…………なんだ、向かいの部屋じゃねえか」
コンコン。
涼「綾さん、涼と葵ですけど」
綾「どうしました?」
葵「一緒に京都見学でもしない?」
和「あ、いいですね。一緒に行きましょう」
綾「ちょっと待っててください。準備しますから」
涼「わかった」
しばらくすると、綾さんと和佳奈さんが来た。
涼「よし、それじゃどこへ行こうか?」
葵「……決めてなかったな」
綾「それじゃ、銀閣寺のあたりから行きませんか?」
和「あ、そうしましょうか」
葵「………ぜー、ぜー、ぜー……」
涼「何もそこまで息切れするこたないだろーが」
葵「……近くまでバスで行くのかと思ったら駅前のホテルからずっと歩いてきたんだ……なんでみんな平気なんだ……」
涼・綾・和「それは、好きだからです」
ハモってる……。
銀閣寺へ行くには哲学の道という道を歩く。
結構長い距離で、この時期では紅葉が鮮やかだ。
涼「哲学…か」
綾「昔の人達はどんな思いでこの道を歩いたんでしょうね」
涼「楽しさ、嬉しさ、悲しさ、はかなさ、せつなさ……。多くの人達が様々な思いがこの道にあるんだろうな……」
綾「歴史の道、ですね………」
……すごいな。
さすが優秀な生徒なだけに、そういう考えさせることを言うな。
しかしこちらはと言うと、
葵「…………」
和「…………」
こんな状態だぞ。
そんなこんなで銀閣寺へ着く。
葵「ふえ〜、古風だな」
涼「昔の人は偉大だな、こんなもんを作れるなんて」
綾「清水寺の次に好きですね、ここ」
涼「あ、俺と同じだ」
綾「あ、そうなんですか?一緒だと何か嬉しいですね」
葵「……申し訳ない、イチャイチャするのはよそでやってください」
涼・綾「え、あっ!」
和「くすくす……」
銀閣寺を見終え、近くの喫茶店で団子を食べつつ、次の計画を考えていた。
和「別行動はどうでしょう?」
葵「ああ、いいね」
涼「じゃあ、俺と綾さん、葵と和佳奈さんで」
綾「私はそれでいいです」
葵「じゃあ、決定ってことで………和佳奈さんはどこへ行きたい?」
和「それじゃあ………東本願寺へ行きましょう」
葵「うん。そうしようか」
涼「綾さんは?」
綾「奈良へ行ってみたいです」
涼「奈良か………よし、行こうか」
涼と藤原さんは奈良行きの電車に乗るため、地下鉄で京都駅へと向かっていった。
葵「じゃあ、行こうか」
和「はい」
東本願寺に着いた。
他の寺と違い、ここはかなり広く、少しではあるが寺の中にも入れる。
和「私は、鳩に餌をあげますけど、葵君はどうしますか?」
葵「んー……じゃあ俺は寺の方で座ってるよ」
廊下に面したところにあぐらをかいて座る。
さて……和佳奈さんは………あ、いたいた。
先程餌を買い、その餌を鳩に与えている。
…………美人と鳩。
いい組み合わせだな。
楽しそうに餌を与えている和佳奈さんがいる。
葵「可愛いな………」
誰にも聞こえないようにぼそっとつぶやいた。
いつになったら、言えんのかな……。
しばらくして、餌がなくなり、和佳奈さんはこっちへ来た。
和「隣、いいですか?」
葵「うん」
和佳奈さんは俺の右となりに座った。
葵「そう言えば、どうして和佳奈さんはここが好きなの?」
和「2年ほど前に、京都へ旅行に行ったんです。最初に来た所がここで、その時に雪が降っていたんです」
葵「雪…か」
和「普段は雪なんて見た事がないから、すごく印象に残ってるんです」
だからここへ来たんだ……。
…………ふと考えてみたが、いいムードだな。
少し辺りを見る。
鳩と遠くに子供がいる程度。
……………………チャンスかもしれない。
これを逃したら当分はないかもしれない。
改めて辺りを見る。
妨害はなさそうだ。
………やばい、緊張してきた。
落ち着け、落ち着け……。
深く深呼吸して、和佳奈さんに話した。
葵「わ…和佳奈さん……。俺……」
……次の言葉が怖い。
次の言葉でどうなるか想像がつかない。
だが、言わねば先へは進めない。
勇気を出せ、葵。
葵「俺は……あなたが好きです」
よしっ、言えた!
……問題は和佳奈さんの返事だ。
…………………………………………………………………………………………………あれ?
返事が来ない……………。
どういうことだ?
葵「……和佳奈…さん?」
和「……………………すー……すー……」
ありゃっ。
ギャグ漫画だったらズルッと滑ってるところだ。
なんだ、寝ちゃったのか。
ってことは聞こえなかったか。
ものの見事に空振りだったな。
まあ、今日は結構歩いたから、寝ていてもしょうがないか。
ま、空振りとはいえ言えたんだし良しとしますか。
……さて、まだ時間はあるし、俺も少しだけ眠るか。
おやすみ、和佳奈さん。
だが、俺はこの時、和佳奈さんは本当に寝ているのかどうかは確認をせず、ただ単に寝息が聞こえただけだと言う事しかわからなかった。