絶望の終焉

この木が………。
もう一度触れ、目を閉じる。
…………………………………………何かを言っている!
だが、はっきりとは聞き取れない。
この木が、しゃべってるのか。
涼「……えっと、この木、じゃなくて……君でいいか。君がしゃべっているのかい?」
暖かみが増した。
俺の返事に、反応しているのか。
けど、反応だけであって、返事はない。
しゃべれない人に話すのと似たようなものか。
涼「君の声は悪いけど、聞き取れないんだ。ごめん」
どうするかな……帰るか。
木と話していても…なあ。
涼「じゃ、俺行くから」
すると、今度は冷たいような感覚が手に来た。
行ってほしくないのだろうか。
涼「行ってほしくないの?」
再び暖かさが手に来た。
涼「……じゃあ、俺が一方的に話すけど、いい?」
俺は咳払いをして、
涼「えっと、俺は涼。ここに来たのは……友人から誘いがあったんだ」
再び反応があった。
今度は暖かいというよりもぬるさがあった。
涼「本当なら、ここにはこなかったんだけど、大切な人が眠っちゃってて、やる事がなくてね、ここへ来たんだ」
少し冷たい感覚が来た。
疑問だろうか。
涼「交通事故で……意識が戻らないんだ」
先程よりは若干暖かみがあったものの、まだ冷たい感じだ。
涼「その人、綾って言ってね………ん」
かなり暖かい。
熱いといった方がいいかもしれないぐらい。
どういう反応なのだろうか。
涼「高校の時に知り合って、俺が一目ぼれして、ここ最近やって両思いになったって……言うのに………」
かなり暖かい反応だった。
涼「…………ごめん、しんみりさせちゃって…………………そういえばさ、君みたいな木ってよく願い事が叶うんだよね。もし、君に願いを言えば叶うのなら……」
俺は綾さんの笑顔を思い出した。
純粋な、あの人の笑顔を。
涼「綾さんの意識を、戻してほしい。二度とあの人を放さない」
そして、俺があの人をずっと守るんだ。
俺は強く思った。

十分ほど思っていたのだろうか。
そろそろ、旅館に戻ろう。
涼「ごめんね、こんな夜遅くに話しちゃって。眠かったでしょ?」
木が眠るのかはわからないがとりあえず謝った。
反応はなかった。
涼「…あれ」
以前のような、暖かみもなかった。

旅館に戻ると、女将さんがいた。
先程の木の事を聞こう。
涼「ところで、トイレに行く途中ですけど、一本だけ目立つ木があったんですけど、あれは?」
女将「ああ、願いの木ですね」
涼「願いの木?」
女将「ええ、あの木にある願い事をすると、その願いが叶うのよ」
涼「…ある願い?」
女将「最愛の人の事を願うと、その願いがかなうらしいのよ」
涼「最愛の…人」
女将「そうなの。でも、大半の人はお金が欲しいとか言ってしまうんだけど」
涼「なんで、その木に願い事をすると、叶うんですか?」
女将「私も聞いただけなんだけど、戦時中、ここの辺りで空襲があって、あの木のところにカップルがいたそうなの」
涼「……その2人は空襲で死んだんですか?」
女将さんは何も言わずにうなづいた。
女将「それから、2人は自分達のようになってほしくないという思いが、願いを叶えるようになったの」
涼「………そのカップルの女の人ってなんて名前ですか?」
女将「ええ、当時この辺りでは仲の良いカップルで有名だったから。確か、綾って名前だったわ」
涼「綾……!?」
時が止まったような気がした。

翌日、俺はあの木の前にいた。
たまたま、なのだろうか。
『たまたま』サッカーの誘いがあって『たまたま』宿泊先がここで、『たまたま』トイレに行こうとして『たまたま』この木を見つけ、『たまたま』その木に話して……そしてその木の由来のカップルの女の人の名前が綾で、『たまたま』綾さんと同じ名前。
偶然なんかではない。
必然。
偶然の重なりは必然。
俺は………ここに来る事が決まっていたのだろうか。
綾さんを守るために。
葵「涼―、そろそろ出発するぜ」
遠くから葵の声がした。
涼「わかった」
あの木の方に振り向く。
涼「……さよなら、綾ちゃん」
綾さんとは言わなかった。
言ったら、大切な人が消えてしまうような気がした。

あれから3週間ほど経った。
綾さんはまだ目覚めていない。
あの木が願いの叶う木ならすでに叶っていると思われる。
別にあの木の事を悪く思っているわけではない。
叶うといいなという程度の期待だ。
ふと、ぽとっと何かが落ちた音を聞いた。
庭を見ると、枝が落ちていた。
枝はかなりの大きさだった。
だが、ここの庭にはその枝に比例する程の木は存在しない。
一体、どこから来たのだろう。
庭に出て、その枝を持った。
その時、あの暖かさが手によみがえった。
あの木の暖かさ。
そして、あの時に言った言葉を。
涼「………まさか」
すぐに縁側に上り、大急ぎで綾さんの眠る部屋へと走った。
戸を開けた。

綾さんが起きていた。
必死に立ち上がろうとしている。
一ヶ月寝ていたためか、かなり肉体が弱くなっているのだろう。
涼「綾…さん…」
綾さんはこちらに気付いたようで、
綾「涼さん………」
俺の目の前で奇跡が起きた。
誰よりも、大切な人が、目覚めた。
涼「綾さんっ!!」
俺は綾さんを強く抱いた。
二度と、二度とこの人を離さないように。

後書き

と、まあ一ヶ月の空白を書きましたが、みなさんはこういうような非現実的な話はどう思うのでしょうか。
俺はこういう幻想的なのは好きです。
お化けとか信じるタイプですから。
さて、次回からはきちんとしたらぶらぶでほのぼのなものを作りますので、楽しみにしてください。
その期待に答えられるかどうかが問題ですけども(苦笑)。
それでは次回にて。