ドレス

臣「なあ、競馬やってみないか?」
眞「競馬?何でまた」
臣「いやなに、この近くに場外馬券売場があるみたいだからさ。俺だけじゃなんだし」
涼「梨花さんを連れてけばいいんじゃねえのか?」
臣「そう考えたけど、煙草の煙が苦手みたいでさ」
芹「まあ、試しにやってみるのもいい勉強になるか」
涼「そんじゃ決定ってことで、行くのは今度の日曜日だな」

日曜日。
最後に来たのは涼だった。
涼「悪い、待ったか?」
臣「いや大丈夫、今から行けば第1レースからできるな」
涼「…第1レースからって…どのぐらいやるんだ?」
眞「ん、最終レースまで」
茜「そんなにやるんかい!」
芹「まあ、一点賭けなら全部で1200円程度だし、問題ないんじゃないか?」
涼「確かに……本格的にやる奴手ぇ挙げて」
眞「はーい」
臣「はーい」
潤「…この二人の場合、『賭け』というより『博打』に近いな」

そしてギャンブル開始。
眞「よしっ、来たあっ!」
臣「だぁーっ!何でそっち来るんだよ!?」
この2人は明らかに健全な金額ではやっていない。
で、他のはというと、
涼「ありゃ、来ないな」
潤「あ、俺の来たな。オッズ2.0か」
茜「お、やるやん」
芹「うーん来ないな」
一点賭けで賭金も100円という極めて健全な賭けである。

んでもって最終レース。
涼以外すでにマークシートに記入済み。
芹「先に買ってるよ」
涼「あ、はい」
さてと、どれにしよっかな。
…んー、3−5にするか。
……あ、やべ。賭金300円を間違えて3000円にしちゃったよ。
書き直すのももったいないし、まあいいや、これでやっちゃお。
外れたら何日か節制すればいいや。
…さて、購入したし、便所っと。

用を足し終えた時にはすでにレースが始まっていた。
そして、仲間の元につく頃にはレースは終わっていた。
涼「ありゃ、見ずに終わっちゃったか」
臣「おいおい、珍しく穴馬が一着になったのに」
涼「ふーん、で結果は?」
芹「3−5。でオッズは167」

涼「…160…円?」
茜「オッズ言うたやん。ざっと賭金の167倍や」
涼「…一口……いくらでしたっけ」
臣「一口100円だろ」
涼「……」
潤「おい、どうした涼」
涼「…当たった」
臣「何―っ!いくら賭けたよ!?」
涼「…3000円」

全員が固まった。
まさか涼の持っている馬券が50万に値するとは。
臣「どどどどどどどどうするんだ」
涼「お前が慌てるなよ。俺が一番ビビってるんだ」
茜「と、とにかく換金しようや」
装置に馬券を入れて、払い出されたのは今まで見た事がないぐらいの分厚い一万円札。
全員「おー」
涼「……問題はこの金をどう使うかだな」
眞「はい、提案がある」
涼「酒は却下」
眞「まだ言ってねー!内容は当たってるけどよ!」
芹「…まあ、涼が当てたんだし、好きに使っていいんじゃないかな?元々は無かった金額だし、いっそパーッと使うのもいいと思うよ」
涼「…パーッとと言われても50万も使うモノが…」

翌日。
臣「おっす、使い方は決まったか?」
涼「んー、だめだ」
臣「ま、無理に使う必要がないなら俺らにおごってくれりゃいいし」
涼「…それが本音か」

授業が終わり、放課後。
サークルの教室に入ると、すでに全員がいた。
が、これといって反応が無い。
涼「…あれ?」
梨「…どうしたのよ」
涼「あ、なんでもない」
…どうやら女子には言ってないようだ。
下手をするととんでもないことになるからだろう。
男達の善意に感謝。
梨「…しっかし、このプラン馬鹿げてるわよね」
雑誌を読んでいる梨花が言った。
潤子「どんなプランよ」
梨「これこれ。『超高級ホテル一泊二日完全独占プラン』」
美「…独占?」
梨「ようするに貸切ね、そのホテルにある施設全部」
潤子「ずいぶん豪華ね。いくら?」
梨「税込みで50万円ね」
涼「…」
潤子「高いわね…こんなプラン頼む人なんてホントに馬鹿よ」
涼「…」
美「でも、いい記念になりそうですね」
涼「…ちょっと便所」
教室から出た。
携帯を取り出し、広告に掲載されていた電話番号を思い出し、その番号を一気に入力する。

一方、教室の方では。
男達は女子に聞こえないようにヒソヒソ話をする。
臣「おい、ひょっとしたらあいつ50万アレに使うんじゃねえのか」
茜「ひょっともなにも間違いなく使うであいつ」
眞「…あいつ馬鹿か」
潤「いや、まぎれもない馬鹿だぞ」
芹「ま、いいんじゃないの?本人の意思だし」
臣「アイツはともかく一番困るのは潤子だぞ」
眞「感謝を通り越して罪の意識を持ちそうだな」

便所という名の電話予約をし、再び教室に入る涼。
涼「あ、そういえば潤子さん、明日ヒマ?」
潤子「別にヒマだけど?」
涼「それだったらさ、ちょっと付き合って欲しい所があるんだ」
潤子「別にいいわよ」
涼「ん、それじゃ明日の放課後で」

麻雀も終わり、全員で帰宅。
女子達に聞かれないようにヒソヒソ話。
臣「お前本当に50万をアレに注ぎ込むのか?」
涼「まあ、悪銭身につかずって言うしな。だったらパーッと使っちゃおうと思ってな」
眞「だからってホントに使うとは思ってなかったぞ俺等は」
芹「ま、せっかく購入したんだ。楽しんでくるといいよ」
茜「土産ったら頼むで」
涼「…さすがにそれはないと思うぞ」

そして翌日の放課後。
下駄箱で涼と潤子が合流。
涼「待った?」
潤子「ううん、待ってないわよ。ところで付き合ってほしい所ってどこよ」
涼「ああ、後で教えるよ」
そのまま2人で大学から出ようとする。
すると、大学の入り口が騒がしい。
人だかりができている。
潤子「何かいるみたいね」
涼「…ちょっと見てみようか」
人だかりの方へ行くと、そこには大きなリムジン。
潤子「ずいぶん大きなリムジンね。誰かの迎えかしら」
涼「そうみたいだね」
潤子「でも、こんな派手なリムジンを呼びつけるなんて、どんな人なのかしら」
涼「…それじゃ、乗ろうか」
潤子「…あぇ?」
涼がリムジンの運転席の窓をノックする。
涼「迎えご苦労様です。プランの予約をした如月です」
リムジンの後部座席側のドアがチャッと開く。
涼「さ、乗って」
潤子「え?え?」
言われるまま、リムジンに乗る、というか乗せられる。

潤子「りょりょりょりょりょりょりょ涼君っ、これはどういうことよ!」
リムジンが動き出してから動揺を隠せないまま涼に聞く。
涼「ん?昨日梨花さん達と話してた事は覚えてる?」
潤子「昨日?昨日はえーと…あ、ああ。雑誌に乗ってたプランがすごい値段だったってやつね」
涼「うん、それ。それを予約したんだ」
潤子「…はい?」
涼「その50万プランを予約したの」

潤子「えーっっっ!!!!!」
運転手が車の挙動を乱す程の大声を出した。
潤子「ど、ど、ど、どこにそんなお金があったのよ!?」
涼「ん、たまたま競馬で万馬券が当たったんだ」
潤子「ご、ごごご50万円も!?」
涼「うん。で、どうせならパーッと使っちゃおうと思って」
潤子「……それって…私のため?」
涼「…うーん、たまたま50万を使い切る方法が見つかったというのが本音だけど、それもあるかな」
潤子「で、でも…50万なんて…」
さすがに嬉しいのだが50万円はあまりにも大きい。
涼「ん、後で身体で払ってもらえばいいよ」
潤子「…どんなサービスすればいいのよ」

時間は少しだけ戻って、大学。
涼と潤子がリムジンに乗って出発する光景を見ていた一同。
梨「…な、なによあれ」
異様な光景に呆然とする梨花。
臣「早速豪華プランの始まりかよ」
眞「ずいぶんなお出迎えじゃねえか」
梨「あんたたち知ってたの!?」
臣「ああ、俺等は昨日から知ってた」
梨「…まさか、競馬で?」
潤「ああ、あいつ見事に万馬券を当ててな」
梨「……臣、あたしの
臣「そんな金はないぞ」
先日の競馬でものの見事に大敗した臣にそんな資金は存在しない。
眞「…俺は勝ったし、どっかうまい店でも行くか美夏」
美「はい」
先日の競馬で勝ちを収めた眞一郎と美夏はそのまま解散。
梨「おーみー…」
呪いのような声を無視して臣は逃亡。
芹「…さて、俺達はファミレスでも行こうか」
他の男達はほんのわずかではあるが勝っている。
茜「せやな、ウチら一般市民はファミレスが合ってるな」
潤「勝利の美ジュースでもあおるか」

で、ホテルに到着した2人。
まずはホテルの豪華な作りに驚く。
涼「こらまたずいぶん凝ってるな」
潤子「すごーい…」
しかし、2人の服装は普段着。
あまりにもミスマッチ。
潤子「…もうちょっとおめかしすれば良かった」
涼「ああ、着替えも用意してくれるって」
潤子「本当?」
涼「予約特典とやらでおしゃれな服に着替えれるみたいだ」
フロントに着き、手続きを始める。
ぽん、と1万円札50枚を置く。
潤子「…偽札じゃないわよね」
涼「そこまで疑心暗鬼にならんでも」

部屋は当然、最上階。
入口のドアを開けると、そこは別世界。
ベッド、ソファは当然として、テーブル、そして無意味に広い空間。
奥のドアを開けると、また別の部屋が。
涼「お、ちゃんとスイートになってるな」
潤子「…スイートってそんな意味だったの?」
涼「……まさか『甘い』なんて思ってた?」
潤子「…うん」
…すさまじいですね、この子猫ちゃんは。
涼「とりあえず着替える前に風呂にでも入るか」
潤子「……ど、どこの?」
この部屋の風呂に入るとは思えなかったようだ。
涼「お、鋭いね。広告にもあった温水プール」
潤子「…あの…水着…は?」
涼「…無いって言ったら?」
潤子「………裸?」
涼「うん、素っ裸」
『素』と『っ』の余計な単語をくっつけて返答する。
潤子「…うう…恥ずかしいわよ…」
涼「大丈夫。客は俺達だけだし、潤子さんの裸は何度も見てるし」
潤子「そういう問題じゃないのっ」
気持ちの問題です。

『恥ずかしいから先に入ってて』というお願いを聞き、一足先に温水プールに向かう。
服を脱ぎ、ドアを開ける。
夕暮れで紅く染まった温水プールがルビーのように見える。
人が誰もいないため、水面全てが芸術的なオブジェと化している。
もったいない気もするが、プールに入る。
水底を軽く蹴って、仰向けのまま温水プールに浮かぶ。
大きなプールを一人で使う。
なんとも贅沢な気分だ。
しばらく浮かんでいると、入り口のドアが開く音がする。
そして、ちゃぽ、という音を立ててプールに入る。
水の動く音がこちらに近づいてくる。
浮かぶのをやめて、立つ。
すると、それに合わせて、じゃぽんと潤子が沈む。
裸を見られないための小細工か。
なんともかわいい動きをするものだ。
涼「そこまでせんでも…」
潤子「だ、だって恥ずかしいんだもん」
…くっそー、かわいいなコンニャロウ。
軽く理性がぷちっと切れ、たまらずぎゅっと抱く。
潤子「あっ…」
ふにょっとした柔らかい胸の感触が心地良い。
抵抗はなかった。
さすがは50万プラン。
もし安物だったら間違いなく潤子パンチ確定だろう。
涼「…ん?」
ふと、窓の方を向く。
夕日が地平線に沈もうとしていた。
いつもだと建物に隠れてしまい、日没を見られないが、ここはかなり上。
日没の瞬間を見事に拝める。
潤子「綺麗…」
涼「…」
潤子さんも綺麗だよ、と言ったらどうなるだろうか。
反応を見てみたいが、この光景で言うのは無粋だろう。
この台詞はまたどこかの機会で言うことにしよう。

プールから出て(入る時と同様に涼が先)、これからディナーになる。
プランのサービスとして、スーツが用意されている。
もちろん、潤子にもドレスがある。
潤子のイメージとして『赤』を用意してみた。
『ピンク』も候補に上がったが、間違いなく怒ると思ったのでやめた。
スーツを着て、あとは隣の部屋の潤子の着替えを待つのみ。
隣の部屋に続いているドアが開く。
ドアから出ていた潤子はドレスを身にまとい、ちょっとしたセレブを彷彿とさせる。
やはり潤子には『赤』が似合う。
涼「おー、似合ってる似合ってる」
潤子「…何で?」
涼「…へ?」
潤子「何で涼君が私の服のサイズ知ってるのよ!?」
涼「…思い当たる節はないの?」
潤子「当然ないわよ」
涼「…そりゃそうだね。寝てる時に測ったんだから」
ちなみに潤子のスリーサイズは83・58・86.
潤子「…何でそんなことするのよ」
涼「こういう時のためだけど?」
潤子「…あ、ありがとう」
勝手に身体を測られるのも悪くはないと思った潤子だった。

ディナーを食べ終え、後は寝るだけ。
潤子は『先に寝てるわね』と言って先にベッドへ。
……さて、食べるべきかどうか。
まあ拒否権は無いと思うが。
とはいえ、こんな豪華なホテルでするのは逆に失礼かもしれない。
紳士にふるまうとしますか。
部屋に戻り、ベッドの前に。
…そういえばどんな格好で寝てるのやら。
まあベッドの上に浴衣みたいなのがあったから多分それを着てるのだろう。
涼「今日の寝間着チェック、と」
ばっ、とベッドの掛け布団をはがす。
……。
涼「…うっ」
浴衣ではなかった。
ネグリジェでもない。
ディナーの時に着ていたドレスでもない。
だからといって下着姿でもない。
…何も着ていない。
いや、馬鹿には見えない服かもしれない。
素っ裸。
涼「…今日は一段とセクシーで」
潤子は起きていたらしく、
潤子「…何着たって…いいでしょ?」
赤くなってぷいっとそっぽを向く。
そのかわいい動きに、
ブツンッ
理性が切れる。
そして紳士から野獣へ。

てこって、翌日。
潤子「いやー、すんごい良かったわ…」
前日の出来事を反芻してぽわーんとしている潤子。
そしてその出来事を聞いている梨花と美夏。
美「…50万円分の価値はあったみたいですね」
潤子「もー…ほんとに良かったわ…」
何回このセリフを聞いたのやら。
潤子「料理はおいしいし涼君が歯磨いていくれるし…」
梨「…何それ」
初めて聞くセリフだ。
潤子「食事の後にね、涼君が歯を磨いてくれるの。最初は嫌だったんだけどやってもらったらすごい気持ちよくて…」
梨「……」

潤子の話を聞いて30分後。
臣「何で俺がやんなきゃいけねえんだよ」
梨「うるさいわね、いいからやりなさいよ」
梨花は臣に潤子がしてもらった歯磨きをしてもらおうとしていた。
臣「ちっ、しょうがねえな」
しゃこしゃこと歯を磨いてやる臣。

2人は内心こう思っていた。
『最終的にはしてくれるからコイツ好きなのよね』
『…くっそー、めんどくせえと思ったがコイツいい顔してんなあ…』
歯磨きが終了し、
梨「ねえ…またしてくれる?」
臣「…た、たまにならやってもいいぞ」
2人ともツンデレで、2人ともツンデレ好きのようである。

後書き

今回のタイトルはabsから。
この作品、実は1ヶ月以上かかってます。
難産というわけではないのですが、超多忙のため、1日にちょっとしか書けない状態でした。
せいぜい5ページくらいで出来上がるだろうと思ってたのですが思いのほか長くなりました。
LOVESONGでは一番長いかもしれませんね。
最後の部分の歯磨きは恋人がいる方は試してみるor試してもらうといいでしょう。
それでは次回にて。