Final Count Down

潤子「だから嫌っていってるでしょ!?」
涼「んな事言ったって…」

2人のやりとりを見た茜。
茜「あいつら、何しとんの?」
臣「ん、ヤるかどうかの話だよ」
眞「わざわざ大学ん中でそんな事で揉めなくてもいいのに…」
茜「で、潤子は嫌がってるわけと」
臣「そういう事」

涼「…じゃあ、いつ?」
その途端、潤子の顔が赤くなる。
いや、涼がヤるかどうかという問いの時点で赤くなっていた顔がさらに赤く。
潤子「こっ、心の準備ってのがあるのよ」
涼「じゃあ、いつになったら心の準備ができる?」
潤子「……」
返答に困った。
絶対に嫌というわけではない。
ただ、それが怖い。
した時点で、それっきりになりそうで怖い。
その後でも、ちゃんと好きであってほしいという保証が欲しい。
ふと、ある事を思い出した。
潤子「じゃ、じゃあ、来週の金曜日に、試験があるわよね。全部で5科目」
涼「ああ、あるね」
潤子「全部満点なら…その…いいわよ」
涼「本当?」
潤子「本当」
涼「よし、約束ね」

潤子「まあ、どうせ満点なんて無理だし、これで時間が稼げたわね」
涼とのやりとりを梨花と美夏に話した。
梨「……アンタ、逆よ」
潤子「あぇ?」
すっとんきょうな声が出た。
梨「以前、涼の事について話したわよね」
潤子「ええ」
梨「で、その話の中で試験の事あったわよね」
潤子「ええ。名前書き忘れたってやつよね」
梨「それについてもうちょっと詳しく説明するわよ」
潤子「…何よ、それ」
梨「まず、書き忘れてその科目が0点になったのよ。それでも上位に食い込んだ」
潤子「それは以前、聞いて………………………………………………………………」
梨「そうよ。あいつ、1科目足りない状況で上位に食い込んでるのよ」
潤子「…あ、あ、あの時の科目は?」
梨「…聞きたい?」
潤子「…聞きたくないけど、聞きたい」
梨「今回と同じよ。つまり、ほぼ残りの科目は満点ばっかだったのよ」
潤子「…じゃ、じゃあ……」
梨「そう」
梨花はそっぽを向いて、
梨「あいつ、満点を取る事なんて大した事じゃないの。それに…」
潤子「そ、それに!?」
梨「名前を書き忘れた科目、満点だったのよ」
潤子「嘘!嘘よ!」
梨「……アンタ、散る時は潔く散りなさい」
潤子「嫌ぁぁ――っっっ!!!!!」

だだだだだだっ
先ほどヤルかどうかで揉めていた教室、麻雀サークルの部屋に猛スピードで入る。
潤子「りょっ、涼君はどこっ!?」
眞「ん、あいつだったらもういないよ」
潤「そういえば試験対策とかいってたな」
芹「ああ、またやるのか」
潤子「じゃ、もう家?」
芹「いや、涼はマンガ喫茶とかホテルとかあちこちで勉強するんだ。居場所がバレるとまずいって」
潤「あいつなんのためにそんな厳重なのかな。よくわかんねえけど」
…今、そのためなのだろう。
眞「もう行っちまったから探すのはほぼ無理だな。以前は家にもいなかったし」
潤子「そんな…」

で、週が明けて金曜日。
潤子「………………」
梨「結局、見つからないと」
潤子「うん…」
梨「ま、こうなったら涼がニアミスで満点取らないのを祈るだけね」

試験開始
直後、かなりの筆音が発生した。
その音は当然、涼からのものだった。
すさまじい勢いで書きまくってる。
10分後、涼は立ち上がった。
潤子「早っ!」
もう書き終えた。
眞「異常なスピードだな」
臣「ちょっとしたタイムアタックだな…」
すたすたと教室を出て行った。
教授がおそるおそる答案用紙をめくる。
2秒後。
教授「…あいつ、答え知ってんのか?」
つまり、満点である。
早くも5科目中、1科目クリア。
それと同時に潤子のカウントダウンも始まった。

その後の3科目も満点だった。
ニアミスもまったくなかった。
祈りは神に届かなかった。
そして最後の科目。
涼の筆音が止まった。
すくっと立ち上がり、教授に渡す。
そのまま教室を出て行くのかと思いきや、くるっと後ろを向いて、潤子のところへ行く。
涼「はい、これ」
潤子の机に置かれたのは、鍵だった。
潤子「え?」
涼「俺の家の合鍵」
すっと潤子の耳元で、
涼「心の準備、できてるでしょ?」
ボンッと潤子の顔が赤くなった。
潤子「ちょ、ちょっ、ちょっ!!」
パニック状態の潤子を尻目に、答案を教授に渡す。
そのまま涼は教室から出て行った。
潤子「きょ、教授!涼君のは!?」
教授「……満点だな」
満点。
その一言を聞いた瞬間、ガラガラと何かが音を立てて崩れていくのを感じた。

で、潤子は涼が住むマンションの部屋の前にいる。
どういうわけか手にはケーキの入った袋がある。
初めて涼の家に行く以上、何かしらのモノを持っていくべきだ。
何か違う気もするが、とりあえず泊まる可能性もあるのだから滞在費としてケーキを選んだ。
恐る恐るドアをノックした。
涼「はーい」
ドアの向こう側から声がした。
妙に緊迫してきた。
緊張ではなく、緊迫。
この後、自分はどうなってしまうのか。
まったく予想がつかなかった。
ドアが少し開いた。
涼「あ、潤子さん」
潤子「こ、こんにちは…」
涼「いらっしゃい」
ドアを大きく開けた。
涼「さ、入って」
潤子「お、お邪魔します」
潤子は部屋に入り込む。
涼はドアを閉め、鍵をかけた。
その鍵の音が、妙に大きく聞こえた。

後書き

後書き
今回のタイトルはEuropeから。
さて、これは次回へと続くわけですが、特別にタイトルだけ先行公開です。
次回は相川七瀬の『夢見る少女じゃいられない』です。
…だいたいわかりますね(笑)。
それでは次回にて。