innocent walls -ANOTHER-

潤子「ひっく…ひっく…」
手術室の前で、潤子が泣いている。
潤子「私のせいよ…わたしが死んじゃえなんて…いうからっ……えぐっ…」
梨「潤子…落ち着いて…」
梨香は潤子をなだめるのに精一杯だった。
潤子「やだ……やだよぉ……」
芹「とにかく、手術が終わるまで待つしかないな…」

手術中のランプが消えた。
手術が終わった。
ドアから医師らしき人が出てくる。
潤子「先生!涼君は!?」
医師「大丈夫。成功しましたよ」
潤子「よかったぁ……」
潤子は安堵の溜息をついた。
芹「先生、涼の病気はなんだったんですか?」
医師「アッペ。わかりやすく言うと盲腸だね」
潤子「…へ?」
医師「急性だったみたいだね。かなり痛かったようだ」
潤子「盲……腸………」
へなへなと潤子が崩れ落ちる。
そして溜息。
今度は落胆だったが。
梨「あの男は人騒がせな…」
芹「退院は…屁が出るまで?」
医師「いやいや、2,3日程度で退院できますよ」

潤子「あの男というやつというやつは…」
深く溜息をついた。
梨「ま、良かったじゃない。生きてて」
潤子「…まあね」
梨「そうと決まったらお見舞いに行かないとね」
潤子「お見舞いに必要なものって言うと…」
梨「花とか…あとはまあお約束の林檎ね…ああ、そうだ。潤子が涼に食べさせてあげなさいよ」
潤子「え?」
梨「えって………まさかアンタ、林檎の皮むき、できないんじゃ…」
潤子「うっ…」
図星だった。
梨「…特訓ね」

とりあえず果物ナイフ。
そして大量の林檎を購入。
梨「いい?コツは包丁を動かすんじゃなくて林檎だけ動かすの。包丁は親指を刃の横、つまり平たい部分に置く感じで固定する」
梨香が実践する。
しゅるしゅると林檎の皮が剥かれていく。
潤子「おー…」
梨「ここまでうまくなれとは言わない。ある程度林檎が林檎という形を保っていればいいから」
潤子「う、うん」
梨「はい、じゃやってみて」
ぞりっ
梨「…アンタものの見事に深く取りやがったわね」
皮よりも実の部分の方が非常に大きかった。
梨「まあいいわ、続けて」

出来上がったのは…
梨「……すごいわね。林檎って元から円柱だったっけ?」
恐ろしいほどに実がなかった。
梨「はい、じゃ今度は実を少なくしていきなよ」

潤「…で、切られた林檎は俺達の腹の中ってわけね」
臣「しかしずいぶんと酷いな。梨香ん時よりも酷い気がする…」
梨「るっさいわねー、あたしだって練習してここまでできるようになったんだから」
臣「美夏に教わったんだっけ?」
眞「美夏の林檎の皮むき、すごかったぜ」
実の部分はまったくといっていいほど無く、皮も途切れる事なく一本で出来上がっていた。
理想の林檎の皮むきであろう。
芹「とはいえ、ずいぶん多くないかい?」
全員でもしゃもしゃ食ってはいるが、まだたくさんある。
…どの林檎も円柱である。
茜「そのまま食った方が林檎にとってええんちゃう?」
正論である。
梨「それだと練習の意味がないでしょ」
これも正論。

潤子「痛っ…」
また指を切った。
絆創膏を貼り、再び林檎の皮むきを再開した。

臣「……俺は林檎ダイエットをする気はないぞ」
梨「るっさいわねー。四の五の言わずに食べなさいよ」
芹「まあ、結構いい形になってるんじゃないか?」
最初の頃よりはだいぶマシである。
…最初よりは。
眞「入院してから2日経ってるな。下手すると退院しちまうぜ」
梨「…もうちょっとマシな形にしたかったけど…まあいいか」

袋に林檎、そして果物ナイフ。
梨「はい、準備完了。いっといで」
潤子「う、うん」
潤「気をつけて行ってこいよ」
眞「向こうでケガ増やすなよ」
潤子「い、行ってくる」
潤子は涼が入院している病院へと向かった。
茜「…戦地へ向かう兵士を見送った気分やな」
眞「そういや臣と芹禾は?」
梨「あいつらは見舞いに行ったわよ…さ、残りの林檎片付けるわよ」
潤「まだあるのかよ!?」
梨「しょうがないでしょ!あのオンナついさっきギリギリまで練習してたんだから」
眞「…みんな痩せたな」
茜「昨日体重計ったら1キロ痩せてたで」

涼「潤子さん…」
入ってきたのは潤子だった。
予想外だった。
てっきり臣か芹禾が来ると思っていた。
潤子「と、隣、座るね」
涼「う、うん」

…………気まずい。
だが、謝るチャンスだ。
涼「潤子さん……その……まだ、怒ってる?」
潤子「う、ううん。いいの。私も言い過ぎたから」
涼「でも、仕方ないよ。痛いのはわかってたし」
潤子「涼君の方は?」
涼「明日退院だって。盲腸はきっとバチだな」
潤子「え?」
涼「潤子さんを痛くさせた罰だよ、きっと」
潤子「涼君…」
涼「ごめんね、潤子さん」
…………
謝る事はできたが、気まずい雰囲気は続く。
潤子「あ、そ、そうだ。涼君、今お腹すいてる?」
涼「うん」
潤子「じゃあ、林檎、皮むくから」
潤子は袋から林檎と果物ナイフを取り出す。
動きは非常にぎこちないものの、なんとか皮は剥けている。
涼「おー…」
涼の驚きの声を聞いて、
潤子「な、何よ。私だってこのぐらい簡単なんだからね」
照れ隠しをする潤子。
潤子の指を見た。
絆創膏だらけで包丁傷もあちこちについている。
おそらく、入院している時にわざわざ特訓をしたのだろう。
全ては、自分のために。
涼「……潤子さん」
潤子「…なに?」
涼「ありがとう」
潤子「…剥けたから、食べてね」
顔を赤くしつつ、林檎を切り分ける。
涼「じゃ、いただきます」
一つ取って口にする。
潤子「ど、どう?」
……どうもなにも林檎なので林檎ではあるが。
涼「うん。おいしいよ」
潤子「それは当然よ。私が切ったんだから」
涼「それもそうだね。んー、明日でやっと退院か…」
潤子「じゃ、また明日ね」
涼「あ、そうだ。ちょっと耳貸して」
潤子「?」
とりあえず黙って耳を貸す。
涼「退院祝にいただくの、潤子さんでいい?」
ぼっ
ドコッ
最初の『ぼっ』が潤子が赤くなった効果音。
そして『ドコッ』が潤子パンチの効果音。
ただ場所が病院なので力をセーブした。
…セーブしたとはいえ、ベッドにめりこむ威力ではあるが。
潤子「当分入院してなさいっ」
涼「うう……すみません…」
ぷいっと潤子は部屋を出て行こうとする。
しかし、ドアの前で止まる。
潤子が振り向く。
潤子の顔ははにかんでいた。
潤子「…痛くしないでよ」

後書き

…セリフ通り次回に続きます。
いつの間にか4話構成になってしまいましたね(笑)。
まったくその気はなかったのですが。
相変わらず行き当たりばったりな小説でございます。
まあそれが作者の良いところでもあり…悪すぎるところでもあります(苦笑)。
次回は予想通り19禁です。
それでは次回にて。