君が好きだよ

茜「おー………」
茜が驚嘆の声を出す。
ジュリエットの衣装を着た涼の姿は完全に男の存在を消していた。
涼「茜のリアクションを見る限り、かなりすごいようだな。俺の女装」
眞「これ知らないやつは女って思うな」
潤「……涼」
涼「何だ」
潤「お前が女だったらとっくに『姫姦』してんぞ」
涼「……物騒な事言うなよ」
美「ヒメカンって何です?」
梨「あ、あんたは知らなくてもいいの。で、潤子は?」
潤子が衣装部屋から出てくる。
臣「おおー、すげえ」
こちらも完璧である。
芹「宝塚に出てきそうだな」
涼「あー、わかる気がする」

涼「そういやお前らの事完全に忘れてたけど、リハーサルはどうよ?」
潤「…………いや、それ俺らのセリフだと思うが」
涼「こっちは潤子さんと練習しててまったく舞台装置の事を忘れてたんだ。タイミングを間違うと台無しだからな」
眞「心配しなさんな。お前に触発されて、ミスは完全になくなったよ」
涼「よし。後は本番でミスなく行けば終わりだ」

涼「さてと、客はどのくらいかな……」
体育館を貸し切りにしているため、席数はかなりの数になっている。
………ガラガラでなければいいが。
まあ、仮にガラガラでも精一杯やるだけだ。
体育館内にもアナウンスを伝える放送室がある。
そこには体育館内を見渡せる窓があったはずだ。
放送室に入り、ひょいと覗く。
涼「げっ!」
満員御礼。
さらに立ち見の客までいる。
涼「潤子さんっ、ちょっと、これ見て!」
潤子「なに?………ちょっ、ちょっと何これ!?」
眞「おーおー、すごいな」
臣「ビラ配りの効果だな」
涼「ビラ配り!?そんなんまでやったのかよ!」
潤「たりめーだ。お前が徹底的に練習してんだ。こっちだって徹底的にやんぞ」
涼「で、この結果か…」
梨「こりゃ、ミスのひとつもできないわね」
涼「よーし!気合入れていくぞっ!!」
潤子「………そのカッコじゃ気合抜けるわよ」

開演5分前。
潤子「……」
涼「どしたの?潤子さん」
ぽんと肩を叩く。
潤子「きゃっ!」
過剰な反応が返ってきた。
涼「ど、どしたの?」
潤子「う、うん……すごい緊張しちゃって」
涼「そう?ここまできたらやるしかないし」
潤子「でも……すごい胸がドキドキいって……」
涼「どらどら」
ふにょ
涼「お、本当だ」
潤子「………どこ触ってんのっ!!!!!」
涼「潤子さん!本番前!本番前!」
もし30分前だったら潤子パンチ炸裂だったろう。
時間に命拾いした。

劇中、辺りは一切野次はなかった。
誰がこの芝居を笑う事ができようか。
誰もが一生懸命にやっている、この劇を。

劇が終了したと同時に拍手の嵐が起こった。
全員がスタンディングオベーションだった。
茜「完璧やったな」
涼「ああ。みんなのおかげだよ」
梨「何言ってんの。あんたがジュリエットやんなきゃここまで拍手はなかったわよ」
美「そうですよ。涼さんのおかげです」
涼「……そう?」
潤子「そうよ。涼君が頑張ったんだから」
梨「おっ、ようやく涼君って気軽に呼べるんだ」
潤子「梨花っっ!!」
涼「……?」

体育館内は片付けられ、以前の体育館に戻っていた。
その館内の真ん中に涼がまだいた。
入口の戸が開く。
潤子が来た。
潤子「涼君、どうしたの?まだ残って……」
涼「んー、まだ劇の余韻に浸りたくてね…」
潤子「そっか……私もそんな気分なの」
涼「…………」
涼は何も言わない。
潤子「……涼君?」
涼「…正直言うとね、あまり気乗りじゃなかったんだ」
潤子「えっ?でもすごい真剣に…」
涼「いや、正確には劇じゃなく、劇の演目。ロミオとジュリエットが好きじゃないんだ」
潤子「………」
涼「だってさ、ロミオとジュリエットは結局結ばれない、悲しい恋物語だろ?俺はそんなのやりたくなかったんだ」
潤子「涼君…」
涼「俺は、潤子さんとはそんな風になりたくない」

潤子「え……」
涼「潤子さん」
涼は微笑む。
涼「君が好きだよ」

後書き

今回のタイトルは新堂敦士から『君が好きだよ 〜守って守ってあげるから〜』から。
サブタイトルみたいなのはつけない方針です。つけると長くなっちゃいますし。
さて、読み終えた方は『ええっ、もう告白!?』と思った方がいると思います。
まあ今までのプロジェクトの中では最速でしょう。
この話は次回に続きます。
一応このプロジェクトもFLOWERと同じ感覚で読んでもらえればいいです。
まあタイトルがあからさまなのでタイトルを見る→ニヤリとする(笑)とわかりやすい流れになります。
それでは次回にて。