2/S

涼「春香っ!」
布団から跳ね起きての第一声はこれだった。
涼「……………………夢…か」
深く溜息をついた。
安堵にも似たものだった。
涼「……あー、すげえ汗………」
着ているパジャマは寝汗でビショビショだった。
涼「……やな夢、見たな…」
その夢は、悪夢とも言えた。

目の前で、春香がトラックに轢かれる。

悪夢は所詮夢だが、タチの悪い夢だ。
涼「……死ぬ訳、ねえだろ」
だって、春香は俺の娘なんだから。
よほどひどい夢のせいか、滅茶苦茶な理由だった。
隣を見る。
綾と春香が一緒に寝ていた。
2人とも幸せそうな顔をして寝ている。
時計を見た。
午前3時。
涼「…今度はやな夢見させんなよ」
誰にでも言うのでもなく、愚痴をこぼした。

幸い、その後は夢は見なかった。
だが、仕事中にあの夢を思い出した。
夢は何度も見ているが、内容はあまり覚えていない。
だが、今回の夢は強烈すぎて全部はっきりと覚えていた。
………なんで覚えてんのかな……。
自分の記憶に腹が立った。

仕事が終わり、家路に向かうのだが、その帰る最中にもあの夢を思い出していた。
…………………………虫の知らせ、じゃないよな………。
…………………不安だ。
たまらなく不安だ。
保育園で何かあったのだろうか。
まさか、火事とか……。
ぶんぶんと首を振った。
疑心暗鬼だ。
つまらない事を考えるな。
なんとか自分に言い聞かせようとした次の瞬間、
いやなモノを見た。
ちょうど電気屋の前を通り、テレビを店頭に出しており、そのテレビはニュースを放送していたが、そのニュースの内容が、幼児が事故で死んだという内容だった。
……………………春香!
死んだ幼児と春香がだぶったような気がした。
大急ぎで家へと向かった。

涼「ただいまっ」
綾「あっ、涼さん。おかえりなさい」
綾がにこりと微笑んでのお迎えがあった。
……………思い過ごしか。
ふー、と溜息をついた。
が、その時、
綾「あ、そういえば春香が……」
綾の言葉にびくっと反応した。
涼「は、春香がどうした!?」
いやな予感がした。
綾「ええ、お友達の家に遊びに行って………」
綾の次の言葉を待つように、生唾を飲み込んだ。
綾「遊び疲れて寝てしまったんです」
涼「………………」
思い過ごし。
涼「ふ―――………」
その場に崩れ落ちた。
綾「りょ、涼さん!?」

綾「そんな夢を見たんですか」
涼「ああ。タチの悪い夢だったよ」
ま、夢は夢って事か。
涼「にしても、今回の事で改めて認識したよ」
綾「何がですか?」
涼「俺はかなりの親バカなんだなって」
綾「……………くすっ」
涼「?」
綾「それはどの父親もそうだと思いますよ」
涼「……それもそっか…………そういえば、春香は?」
綾「もう寝ていますよ。よほど遊び疲れたんですね」

寝室に行くと、春香がすやすやと寝ていた。
かわいらしい寝顔だった。
親の気苦労、子は知らず、か。
すっ、と春香に近付く。
気持ち良さそうに寝ている。
きっと、いい夢を見ているのだろう。
素敵な夢を。
そうであってほしい。
涼「……君の見る夢がどうかいい夢でありますように」
そっと、額に口づけをした。

後書き

前回の5年後ではほとんど春香が出なかったのでなんとか出そうと考えていました。
………今回もあまり出ませんでしたね。すみません(ぺこり)。
タイトルの『2/S』は2つのSという意味です。
以前書いた『S』とは違います。
2つのSと言うのはSpring Smellの事です。
直訳すると、春の香り、要は春香の意味です。
今作のネタが思いついた時、タイトルはどうしようかと考えていた時、春香の漢字を思い出し、すぐさま和英辞典を取り出して『香り』の単語をチェックしました。
単純にSpring Smellだと安直かな、という事もありまして、以前書いた『4U』の事を思い出し4UはFor Youの略語であるのを思い出し、それと似たようなアレンジをしました。
ちなみに今回のネタの考案、史上最速の10秒でした。
それと同時に、打ち込みも史上最速の30分でした。
さて、これ以上のファステストラップは出るのでしょうか。
まあ、いつかひらめきという名の電波が来る事を祈りつつ。
それでは次回にて。