4U

プルルルルル……。
電話を取る。
涼「はい、如月ですが……」
電話「おっ、涼か。久し振りだな」
聞いたことのある声だ。
涼「健司…か?」
健「おお、よくわかったな」
涼「まあな……で、何か用か?」
健「ああ、聞いて驚けよ」
涼「もったいぶんなよ」
健「実はな………………俺に子供ができたっ!」
涼「……………盗んだのか?」
健「しねえって」
涼「じゃあ、拾ったのか」
健「あのな……ちゃんと産んだよ」
涼「…お前が?」
電話の向こうでズルッという音が聞こえそうだった。
健「あのな………俺の嫁さんだよ」
涼「おーっ、それはめでたいな」
健「ま、そういうことだから」
涼「どこの病院だ?」
健「近所の病院だ、今はヒマか?」
涼「ああ、ヒマだよ」
健「今なら赤ん坊、拝めるからこいよ」
涼「あいよー」
受話器を置いた。
綾「どなたからですか?」
綾が一部始終聞いていたようだ。
涼「ああ、高校の友人の健司だ」
綾「あっ、松本さんですか?」
涼「うん。で、あいつに子供が生まれたそうだ」
綾「よかったですね」
涼「というわけで、今から病院に行って、赤ん坊を見てみようと思うけど、一緒に来る?」
綾「ええ」
涼「よし、それじゃ行こうか」
綾「はい」
涼「あ、そうそう。あいつもな」
綾「もちろんですよ」

涼「よお、健司」
健「おっ、涼……か?」
涼「ああ、髪の毛切ったからな」
健「にしても、ずいぶんと切ったな」
涼「ま、わけありでな(Favorite参照)」
健「ふーん、あ…藤原は?」
涼「それはもう旧姓だよ。今は如月綾だ」
健「あ、お前らすでに結婚したんだ」
涼「ああ、5年前にな……そういや、俺らの結婚式にこなかったな」
健「悪いな。あん時は用事で行けなかったもんで」
涼「気にするな。………で、お前さんの赤ん坊は?」
健「ん、あれだ」
健司の指差した方向には、ガラス越しに赤ん坊が寝ていた。
松本と書かれたベッドの赤ん坊がいた。
涼「へえ、男の子か。名前は?」
健「俺の字をとって、賢(けん)だ」
涼「ほう、お前にしちゃいい名前だな」
健「うるせーな」
涼「さて、赤ん坊も見れたし、俺は帰る」
健「はえーな、おい」
涼「俺は赤ん坊が見たかっただけだしな」
健「せめて元藤原に会わせてくれよ」
涼「元って言うな」
その時、子供の声がした。
子供「お父さーん」
俺は声に気付いて振り向く。
かわいらしい女の子がいた。
だいたい4歳くらいだ。
ててて、とこちらへ来た。
俺は微笑み、
涼「春香」
ひょいと抱き上げた。
涼「綾はどうしたんだい?」
春「お母さんは今こっちに来るって」
涼「そうか」
健司はぼーっとしていた。
健「その子………お前の?」
涼「ああ、如月春香(はるか)。俺の娘であると同時に綾の娘だよ」
健「いつの間に……」
涼「ま、色々と…な」
ふと、入口の方を見ると、綾が来た。
涼「あ、おーい。こっちだ」
綾「ごめんなさい、お待たせしてしまって……」
涼「いや、いいよ」
綾「あ、お久し振りです」
健「いえ、こちらこそ」
涼「何あらたまってんだ」
健「俺は元藤原には高校以降会ってないんだよ」
ズビシッとチョップを健司にかます。
涼「元はいらん」
綾「何のお話ですか?」
涼「いや、なんでもないよ」
俺は軽く咳払いをして、
涼「じゃ、改めて紹介するよ。家内の綾だ」
綾「初めまして、如月綾です」
健「初めまして」
涼「ほら、春香。ご挨拶は?」
春「はじめまして、春香です」
健「初めまして」
と、つつつと健司が俺に寄ってきた。
健「なあ」
涼「ん?」
健「お互い子供を産まれたし、賢を春香ちゃんの婿にしてもいいぞ」
涼「絶っっっっっっっっ対にやだ」
健「何もそこまで………」
涼「春香は誰にもやらん」
健「何考えてやがんだ。親バカ」
涼「親バカで結構」
綾「ふふっ、涼さんったら春香が産まれてからずっとこの調子なんですよ」
涼「あっ、綾っ」
健「正真正銘の親バカだな」
涼「ああ、そうさ。親バカさ」
健「逆ギレすんな」
涼「だってさあ、かわいいんだからしょうがないじゃんか」
健「そりゃまあ、子供はかわいいもんだが、お前は異常だ」
涼「異常って、おいおい、試しに想像してみろよ」
健「何をだよ」
涼「お父さん、大好きって」

春「お父さん…大好き…」

健「……結構、いいかも」
涼「だろう?」
健「けどなー…女の子の場合だと、かなりきつい言葉あるけどな」
涼「どういうこったよ」
健「春香ちゃんが成長して、好きな人ができた場合」
俺はその言葉に固まった。

春「私…お父さんより好きな人ができたの……」

がくりと膝をついた。
涼「そんな………」
健「お前、オーバーだよ」
涼「オーバーじゃねえって……」

健司と別れ、病院から出た。
涼「あいつも立派な父親か……」
綾「幸せそうでしたね」
涼「俺達も、だろ?」
綾「ですね」
綾はくすっと笑った。
涼「しかし……」
綾「え?」
涼「春香に、好きな人ができたら、どうなるんだろうな」
春「好きなひと、いるよ」
涼「え、いるの?」
一瞬、先程の健司の一言によって想像した言葉を思い出した。
涼「……誰だい?」
一応、微笑んで聞いたものの、心境は複雑だった。
春「お父さんです」
涼「…そうか」
かなりにこりと微笑んだが、心の顔は滝のように嬉し涙を流していた。
そんな父娘の会話を聞いて、綾はくすっと微笑んだ。

後書き

今回の話のネタはYaya氏のHP上のBBSに、ceres氏が『5年後の綾と涼の子育て奮闘記みたいなのを書いて〜』と、ある種脅迫でしたが(笑)リクエストがありました。
ceres氏、いかがなもんだったでしょうか。
番外編ということで、『まあ番外だからある程度は何やってもいいか』という気分で書いてみました。
当初はあまりやる気がなかったのですが、書いてる段階で『悪くはないな』と感じました。
ちなみに、春香という名前は作者が死にものぐるいで考えた名前です。
実際のところ、友人や家族に『かわいいと思う女の子の名前はなんだ?』と聞いてみたのですが、ろくでもない名前ばっかだったので(笑)、梅干大の脳みそでひたすら考えました。
『はるな』『わかな』という名前が非常に(異常かもな。笑)好きなため、『はるな』という名前をいじって『はるか』という名前にしました。
漢字は即断で春香という文字が出た途端に『はい、決定』という(笑)いいかげんなものでしたが、今ではお気に入りの名前になっています。
もしかすると続き書いてってceres氏に脅されそうですが(笑)、結構面白いのでまたやるかもしれません。
ま、当分はネタ切れなので書くあてはありませんが……。
ちなみに、涼に子供ができたらこうなるんだろうなと思いつつ書きました。
多分親バカになるなという予想もありましたので(笑)。
一応、この作品から番外編になりますので、少しハメを外したものになると思います。
それでは次回作の番外編にて。