FLY THROUGH ZA NIGHT

涼「そういえば、そろそろ桜の季節か……」
新聞を見ながら言った。
新聞には今年の桜の満開の時期が掲載されていた。
新聞によるとだいたい2日経過するとちょうど満開になるようだ。
春「桜ってどんなのですか?」
涼「桜という木の枝から花が咲いてね、それがばあって木を覆うように咲くんだ」
春「………わかんない」
涼「うーん、まあ見ればわかるさ」
綾「もし満開になったら、みんなでお花見しましょうか」
涼「そうだな………年に1回しかないからな」
春「1回しかさかないの?」
涼「うん、この時期だけにしかないからとても貴重なんだよ」
春「桜かあ…………どんなのだろ?」
涼「楽しみにしてるといいよ、とても綺麗だから」

桜前線は予定通り順調だった。
だが、2日後。
春「ケホッ……ケホっ……」
かなり咳き込んでいる。
涼「春香、ちょっと熱を…」
春「ううん、だいじょうぶです」
涼「そんな咳をしてるのに?」
春「……………」
涼「春香……確かに2日前、一緒に見ようと言った。けどね、そんな状態で外に出たら間違いなく風邪をひく。今なら少し寝るだけですぐに治るから」
春「でも……桜が…」
俺は首を振った。
涼「桜なんか毎年見れる。お父さんは、風邪をひいて苦しんでる春香を見たくないよ」
春「……………」
涼「熱、はかるよ」
春香はこくんとうなづいた。
春香の額とこちらの額を合わせた。
………結構熱い。
かなりの熱だ。
涼「春香、今日は寝なさい」
春「……………はい」
春香はしょぼんとしながらうなづいた。

春香を布団に乗せ、その上に掛布団をかける。
涼「ゆっくり寝てなさい。すぐに治るから」
すると、春香の瞳からぽろぽろと涙がこぼれる。
………ふがいないのだろう。
自分の情けなさに。
涙をそっと拭き取る。
涼「春香のせいじゃないよ、春香のせいじゃ………」
春「でも……でも…」
涼「今日で最後じゃないんだ。来年だってある。今年はたまたま運が悪かっただけさ」
春「………でも…っ…く……ひっ…く……」
嗚咽が漏れる。
それを止める事ができなかった。
父親である、俺が。

綾「もうすぐ、桜が散っちゃいますね…」
涼「そうだな……春香が楽しみにしてたのに…」
深く溜息をついた。
また来年になってしまうのか……。
涼「………ちょっと、桜…見てくるよ」
綾「……私は……いいです」
涼「…」
綾「春香と涼さんで見たいですから…」
涼「……じゃ………行ってくる」

父親失格かな。
春香の体調が悪くなってるのがわからなかったのだから。
桜の花びらがはらりと散る。
地面を見てみると、だいぶ花びらが積もっている。
持って今晩か。
………見たかったな……桜。
ふと、地面に何かがうめこまれているのが見えた。
涼「これは……………」
もしかして………。
……………………………………もし、春香の風邪が良くなったら……。
…見れる。

涼「春香、熱はどうだい?」
体温計で計ると、熱はなかった。
一時的なものだったようだ。
春「…………」
しかし、春香はしょんぼりしている。
おそらく、桜が見れないからだろう。
だが、今の時点でも大丈夫だ。
涼「春香、桜、見ようか」
春「でも…桜は…」
涼「大丈夫。夜でも明るく見えるから」
綾「本当ですか?」
涼「ああ…」
ちらりと時計を見た。
ちょうどいい時間だ。
涼「早速行こう」

目的の場所に着いた。
だが、辺りは暗く、桜は確かにあるのだがまったく見えない。
綾「真っ暗で、何も見えませんね」
涼「今は、ね」
春「どうやって、見るんです?」
涼「お父さんが今からこの辺りを明るくする魔法をかけるんだ」
春「ほんとう?」
涼「ああ。よし、今から5つ数えるから5つ数えたら魔法をかけるよ」
少し春香から離れて、手を開く。
涼「5」
親指を折り曲げ、4にする。
涼「4、3、2、1……」
カウントするごとに指を折り曲げ、残り1になり、
涼「ゼロ」
パチン、と指を鳴らした。
その直後である。
暗闇に包まれていた周囲が地面からの光によって明るくなった。
そして桜はこの光によって姿を現した。
桜はちょうど満開になり、はらはらと美しく花びらが舞っていた。
春「わあっ………!」
綾「まあ…」
涼「どうだい?お父さんの魔法は」
春「うん!すごいです!桜がこんなに…!」

実は魔法でもなんでもなかった。
この地面からの光は埋め込み型のライトで、時間になると明かりがつくというシステムで、前もって管理者に何時に明かりがつくのかを聞いておき、その時間に合わせてここへつき、カウントダウンをした。

だが、これは誰にも言わない。
春香にはまだ現実という冷たさを知ってほしくない。
暖かな心に冷たさはいらないように。
春香は桜の花びらが舞う中できゃっきゃっと喜んでいる。
もう風邪をひいたショックはなくなったようだ。
綾「良かったですね」
涼「ああ、きっと神様が春香に桜を見せようとしたんだろうな」
綾「え?」
涼「だってさ、朝にはすでに満開になってたのに、夜になってもまだ満開なんだ。いくらなんでもそれはありえないなと思って、さ」
綾「……春香の願い事が、神様に届いたんですね」
涼「うん……」
春「おとうさーん、おかあさーん、早く早く!」
向こうが春香が手招きしている。
涼「行こっか。春香が待ってる」
綾「ええ…」
春香の元へ向かった。
暖かな光が春香を包み込むように照らすところへ。

後書き

と、いうわけで新プロジェクト化第1弾ということで。
今回はふんわりとしたものを作ろうということでこの作品を書きました。
うーん………さりげなくこのプロジェクトにも風邪が出ちゃったのでセオリーになっちゃいました(笑)。
まあしばらくはそういったものはやらないと思います。
というよりネタがなくなったのでしばらくは書かないっぽいです。
まあAirほどではありませんのでceres氏は楽しみにしといてください。
それでは次回にて。